22時限目 進撃のリトルオーク(妹)、再び
ボストンバックの中から出てきたのは、我が愛妹――理采だった。
「今頃、愛妹なんて単語を使ってご機嫌をとっても無駄なんだからね」
ふんと理采は首を振る。
長時間、ボストンバックに隠れていた割には元気いっぱいだった。
そんな理采がまず初めに見つけたのは、私服姿の詩子さんだった。
「て、てんしいぃいいいいい!!!!」
兄のぼくに続いて、今度は理采の絶叫が姫崎邸に突き刺さる。
手をだらりと垂れると、死肉に群がるゾンビのように襲いかかった。
「危ない!」
ぼくは盾になろうとした瞬間、逆に何かに突き飛ばされる。
なんだ? と顔を上げた時には、詩子さんの前にあの運転手――洗馬州さんが立ちはだかっていた。
「お嬢様、お下がりを」
「洗馬州、どこから出てきたんですか」
「天井裏で見張っておりました。もう大丈夫ですよ、お嬢様」
それって大丈夫なの?
詩子さんとぼくのことずっと監視してたってことじゃないの?
まあ、助かったからいいけどさ。
「てんしぃぃぃいいいいい……」
理采はというと、訳の分からない奇声を上げ、完全に猛獣と化していた。
クリッとした瞳は、鬼神でも宿ったかのように燃えさかっている。
「ふん。貴公、人の器を捨てたか」
ん? んんんんん?
洗馬州さん?
それっぽいこと呟いているけど、なんかイメージが……。
てか、会長と同類の匂いがするんですけど。
「詩子お嬢様、お下がりください。我が転生世界セグラルで鍛えた神槍。とくとご覧にいれましょう」
いたぁああ!
やっぱり中二病罹患者だ。
というか、洗馬州さん、何歳なの!
一体いつから罹患してんだ、この人。
洗馬州さんが14歳の時って、戦争中なんじゃ……。
2人は睨み合う。
その姿はまさに魔獣と向かい合う老騎士だった。
長い睨み合い。
かすかに目や唇を動かす様は、2人が会話をしているように見えた。
空気が張りつめる中、不意に2人は構えを解く。
四つん這いになっていた理采は立ち上がり、ファイティングポーズを取った洗馬州さんは、すっと手を差し出す。
理采は「仕方ないわね」といわんばかりに息を吐き、しわがれた手を握り返した。
さらに、お互いの肩や腕を叩きながら、笑い出す。
「な、何があったの?」
「別に……。特別なことはないわ、お兄ちゃん。お互いの利害が一致しただけ」
なんも喋ってないのに?
「目を合わせればわかります。我々は同志なのです」
「そう。この人は、理采の同志なの」
よくわからないけど、とっても嫌な予感がした。
小学生と、戦争体験を語ることができそうなご老人。
その年の差だけで、半世紀以上という2人は、何故か健闘を称え合うのだった。
何か納得した様子の洗馬州さんは、部屋から出ていく。
扉を閉める際、目を光らせた。
「大久野帝斗……。お嬢様に傷物にしたら、どうなるかわかっているだろうな」
忠告し、幽霊のように闇の中へと消えていく。
一体、あの人なんなんだ。
「わーい! ここ詩子さんのお部屋なんですね」
正気に戻った妹は、子供らしくはしゃぎ回る。
ぼくが様々な葛藤を乗り越え座ったベッドにも、ダイブした。
大きな枕を引き寄せ、鼻の穴が広げて香りをかぎ始める。
「すーはーすーはー。ああ……。詩子さんの匂いがするよ」
足をパタパタさせながら、理采は詩子さんの枕に顔を埋めた。
「ちょ! 理采! もう来ちゃったから仕方ないけど。せめて大人しくしてろって」
「え~~~! 折角、詩子さんの部屋なのにぃ」
「詩子さん、ごめんね。騒がしくしちゃって」
ぼくは謝る。
詩子さんは笑顔で応じた。
「いいんですよ。それよりも、うちの使用人が失礼なことをいって、ごめんなさい」
「い、いいよ。はは……。なんか個性的な人だよね、洗馬州さんって」
「わたしとしては、もう少し大人しくしてほしいんだけど。年相応に……」
最後の一言に、詩子さんのこれまでの苦労が滲み出ていた。
「なんだか、騒がしいねぇ」
無造作に入ってきたのは、会長だった。
理采は慌てて挨拶する。
「会長さん、こんにちは」
「おや、理采ちゃんじゃないか。お兄さんに連れてきてもらったのかい」
「はい。ボストンバックに押し込められて」
「へぇ……。帝斗くんって、そんな嗜好が……」
へらっと笑う。
わかってていってるでしょ!
誰が反応するものか。
「それよりも詩子。もう1人のお客さんだよ」
「こんにちは。お邪魔します」
肩身を狭くしながら入ってきたのは、鈴江だった。
ブラウンのロングカットソーに、膝下まであるチェックのスカート。
綺麗に切りそろえたボブの上には、ダークグリーンのベレー帽を被っていた。
全体的に落ち着いた色合いだが、季節柄にピッタリなコーディネートだ。
久しぶりに見る鈴江の私服は、随分と大人びて見えた。
「可愛い! 鈴江ちゃん」
食いついたのは、理采だった。
とたとたと近づいていくと、犬のように周りを回った。
確かに可愛い。
まるで女の子のようだ。
男の娘だけどね。
鈴江も詩子さんに招待されたらしい。
なるほど。最初から2人っきりにはなれなかったというわけだ。
「残念だったね、帝斗くん」
ぼくと肩を組むと、ニヤニヤと笑った。
ご心配なく。
最初からあまり期待してませんよ。
そもそも会長がいることはわかってたし。
鈴江は部屋に入るなり、頭を下げた。
「姫崎さん、本日はお招きいただきありがとうございます」
「ようこそお越しくださいました。ああ、そうだ。お姉ちゃんもいるし。呼び方は詩子でいいですよ」
「め、滅相もないです!」
どうやら鈴江は、大きなお屋敷にビビッてるらしい。
気持ちはわかる。圧倒的財力を見せつけられると、生きてる次元の違いを感じるよね。
「わ、私のような下民が、お嬢様の呼び捨てになど……」
いや、鈴江……。
そのへりくだり方は、どっちかというと失礼に当たるよ。
ぼく、詩子さん、理采、会長、鈴江がテーブルを中心に車座に座る。
奇しくも女の子ばっかりだ。
ラノベのハーレム系の主人公って、ハートが強いのがわかる。
なんというか、女子ばかりに囲まれると、自然と自分が異物のような気がしてくるんだ。
半端ないアウェイ感というか。
ぼく、ここにいてもいいのだろうか。
あ……。でも、鈴江は男だった。
「さて、折角集まったんだ。ゲームでもしようじゃないか」
「さんせー! ゲームやりたいです!」
会長の提案に、即座に反応したのは理采だった。
小学生らしく元気に手を挙げる。
示しを合わせたかのようにわざとらしい。
嫌な予感がした。
「えっと? じゃあ、何をしましょうか?」
詩子さんは理采の勢いに圧倒されながら、尋ねた。
2人の目が、キラリと光る。
「「王様ゲームしよう!!」」
やっぱりか!
予想通りだよ、こんちくしょー。
「ちょ! それはいくらんでも過激だよ」
ぼくは反対側に回る。
首を傾げたのは詩子さんだった。
「王様ゲームってなんですか?」
「王様ゲームっていうのは、平たくいえばくじで王様を決めて、参加者に命令を出すゲームだ」
「命令って、なんでもいいんですか?」
「おうよ、しかも、絶対服従だ。逆らっちゃいけないところが、このゲームのみそよ」
会長は悪魔のように詩子さんに囁き続ける。
「詩子さん、やめた方がいいよ。変な命令を出されたりするんだ。……それよりも、ババ抜きとかしようよ」
「お兄ちゃんは馬鹿ですか。今日日の高校生が、そんな子供じみた遊びに興奮すると本気で思っているんですか!」
お前は、小学生だろうが!!
「なんでもいうこときかせることが出来るんですね」
ふん、と詩子さんは気合いを入れる。
何故かやる気満々だ。
このゲームの何が、彼女を駆り立てているんだろう。
すると、ぼくの隣で鈴江が咳を払った。
「風紀委員としては見過ごせないですね」
さすがは鈴江! 頼りになる。
そういえば、鈴江は円卓と兼務して、風紀委員だったな。
そんな幼なじみを鼻で笑ったのは、会長だった。
「相変わらず新氏くんはお堅いなあ。これはね。社会勉強でもあるんだよ。君もさ。リア充御用達のゲームをやってみたいと思わない」
「リア充……御用達……(ごくり)」
ごくり……じゃないよ、鈴江。
あっさりとほだされるな!
でも、鈴江ってなんか流行言葉に弱いんだよな(でも、もうリア充って死語がと思うけど)。
「よーし。多数決を取ろうじゃないか。王様ゲームをしたい人!」
賛成:詩子、会長、理采、鈴江。
反対:ぼく
「はい。圧倒的過半数で王様ゲーム決行! ひゅー!」
くそー。
嫌な予感しかしないぞ、このゲーム。
こうしてぼくたちは王様ゲームを始めることになった。
続きは本日20時に投稿予定です!




