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10時限目 今度こそ勉強会!

目標にしていたジャンル別5位以内を達成しました。

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

頑張って、ちょっと早めに更新してみました。

 今日こそ勉強する、と心に決め、ぼくは足早に図書室に向かった。


 部屋前には相変わらず警戒線が引かれ、事件現場のような物々しさだ。

 昨日も少し思ったが、こうして一教室を閉鎖するって、会長はどうやっているんだろう。

 まさか自分の家から学園に圧力とかかけてやらせてるんじゃないだろうな。


 扉を開け、中に入る。

 椅子に座った詩子さんが、窓から吹き込んだ風を受けていた。

 艶のある黒髪は、夏の海のように光っている。


「こんにちは、詩子さん」


「こんにちは、帝斗くん」


 恒例となった挨拶を済ませると、ぼくは彼女と向かいあった。

 前回と同じく眼鏡をかけ、そのレンズ越しから真っ直ぐぼくを見つめる。

 早速、勉強を始めようとしたけど、詩子さんは微動だにしない。

 じっとぼくを見つめ続けていた。


「えっと……。なにかな、詩子さん」


「あの……。わたしと帝斗くんは、付き合っているんですよね」


「そ、そうだね」


 ごくり、とぼくは頷く。

 何かしただろうか。

 ちょっと詩子さんの雰囲気が怖い。


「じゃ、じゃあ……。その……。こ、この場合、座るのは、そのぉ……」


 形の良い指先が、詩子さんの隣の席に置かれる。

 さらに椅子まで引いてしまった。


「隣に座っていいの」


 ふん、と詩子さんの顎を引く。


 言われてみればそうだ。

 ぼくたち付き合ってるんだし、隣の席に座るのが筋かもしれない。


「じゃあ……」


 言われるまま、隣の席についた。

 詩子さんの香りが、風に乗って強くぼくの鼻腔を刺激する。

 ほのかにその体温が伝わってくるようだ。


 ぼくはパタパタと教室と学園支給の参考書を広げる。

 詩子さんは、すでに用意を整えていた。


「まずは先日の小テストをもう1度見せて下さい」


「う、うん」


 恐る恐る差し出す。

 詩子さんは軽く確認した後、机に広げた。


「帝斗くんは、基礎は出来ていると思います。ただ応用問題が苦手のようですね」


 全くその通りだった。

 詩子さん、凄い。


「中学の時は、数学は苦手科目じゃなかったんだけど、高校になると途端――。ぼく、頭の回転が遅いというか」


「いってることはわかります。でも、応用問題もパターンを覚えてしまえば、割と対応が出来るんです。帝斗くんは、数学はひらめきが必要だと思ってますね」


「違うの?」


「間違っていません。そういうことも必要になる時はあります。でも、基本的に記憶力の問題です。漢字を覚えるのに何度も反復して書き下すように、数学も問題を何度も解いていけば、パターンが覚えることができると思います」


 不思議だ。

 詩子さんに言われただけで、やれそうな気がしてくる。


「では、もう1度小テストを私と一緒に解いていきましょう」


 詩子さんが取り出したのは、手書きの小テストだった。

 どうやら、ぼくのために白紙のテストを作ってきてくれたらしい。


 俄然やる気が出てきた。

 彼女のためにも、良い点を取らなくちゃ。


 こうしてぼくたちの勉強会は始まった。





 40分後。


「その解をここに代入すれば……」

「そうか。なるほど」


 出来た。

 半分以上が英文のように見えた数学の小テストが、今や日本語訳された洋書のように読める。理解出来る。


「すごいや、詩子さん」


「いいえ。帝斗くんの飲み込みがいいんですよ」


「詩子さんの教え方がいいんだよ」


 ハニカミながら、詩子さんは耳裏を撫でるように黒い髪を掻き上げる。

 一瞬、見えたうなじに、ハッとした。

 白い――。絹のような肌だ。


 ぼくは唾を飲む。


「どうしました?」


 黒い双眸がぼくを見つめる。

 リスのようにくりくりと動かした。

 ぼくは慌てて、手を振る。

 その時、詩子さんの消しゴムを誤って落としてしまった。


「ご、ごめん。ぼくがとるよ」


 身を屈ませ、机の下に潜り込んだ詩子さんの消しゴムを探す。

 だいぶ奥の方へと跳ねていったようだ。

 丸い巨体をもぞもぞ動かし、消しゴムを拾う。

 さあ、引き返そうかという段になって、元来た方へ転換すると、ぼくの身体は固まった。


 そこにあったのは、詩子さんの足だった。


 詩子さんは黒いストッキングをいつもはいている。

 おそらく視線を気にしてのことだろう。

 それでも足首から太ももまでの芸術的な曲線は、はっきりとわかる。むしろ、ストッキングをはくことによって、倍加していた。


 いや、ともかくぼくのストッキング論は置いておこう。


 問題は今日の詩子さんのスカートのことだ。

 夢か、それとも錯覚か。

 いつもより短いような気がする。


 光乃城学園は割と自由な校風だ。

 生徒に自治を任せていることからもわかると思う。

 故に、服装に関して結構緩い。


 詩子さんは足が長いので見た目には、短めのスカートをよくはいているのだけど……。


 ぼくはマジマジと見つめた。

 やはり……(ごくり)


 短い!


 そもそもだ。

 あまりこうはっきり言いたくはないのだが、若干――いや、間違いなく。

 パンツが見えてる。


 ストッキングに隠れてはいるが、黒から薄ら見える色は――。


「…………」


 ぼくは思わず見入ってしまった。

 詩子さんの消しゴムを握りしめたまま。


「あの? 帝斗くん」


「はひゃ!」


 奇声を上げながら、ぼくはぴしっと背筋を伸ばした。

 その勢いのまま重い音を立てて、机の裏に激突する。

 いたたた、と頭を抱えた。


「大変! ちょっと待っててください!」


 すると、詩子さんは図書室から出て行く。

 すぐ戻ってくると、わざわざ机に潜り込んできた。

 そっとぼくの頭に手を置く。


「冷た!」


「あ。すいません。しみますか?」


 どうやらハンカチに水をしみこませて、氷嚢代わりに持ってきてくれたらしい。

 気持ちいい。

 腫れ気味のぼくの頭を冷やす。

 でも、何より詩子さんの気遣いが心地よかった。


「だ、大丈夫。ごめんね、ハンカチ。洗って返すね」


「いいえ。お気遣いなく。当然のことをしただけですから」


 ぼくたちはそのまま机の下で寄り添った。

 本当は出たかったのだけど、何故か詩子さんが嬉しそうだったからだ。


「こうして狭いところにいると、子供の頃を思い出します」


「子供の頃?」


「お姉ちゃんと一緒によくクローゼットに籠もったりして遊んでたんです。姉は『ここが我々の最前線基地だ』とかいって」


「ぼくもやったよ。押し入れの中に入ってさ。『地下帝国探検隊!』とかいってさ」


「楽しかったなあ」


 詩子さんはそういって、ぼくに寄りかかる。

 満足そうに笑みながら目をつむった。



「こんな時間がいつまでも続いたらいいのにな」



 暗い洞窟の中で閉じ込められた姫君からの痛切なる願いだった。

 ぼくは自然と詩子さんの手をそっと握る。

 驚いて、彼女は瞼を開けた。


 目が合う。


 ぼくはいった。


「いつかぼくが詩子さんの自由にしてあげるから。それまで待っててくれますか?」


 決意を口にする。

 詩子さんは一瞬きょとんとしてから、目に涙をにじませた。

 必死に笑おうとしながら、歯切れのよい返事をかえす。


「はい」


 彼女が宇宙一の美少女だというなら。

 ぼくは宇宙一の彼氏になればいい。

 今は宇宙一へたれの彼氏かもしれないけど。

 いつか……。きっとぼくは、詩子さんにふさわしいのはぼくしかいない。

 そういう男になってみせる。


 詩子さんと寄り沿いながら、今日の1時間は終わった。



 ◇◇◇◇◇



 詩子さんとの勉強会が終わった帰り道。

 悪魔の囁き(せいとかいちょう)から電話がかかってきた。


『やあ、大久野くん。今日の勉強会はどうだったかな?』


「ま。まあまあです」


『そいつは重畳。ところで気づいたかね? 今日の詩子のスカートさ。ちょっと短くしておいたんだぜ』


「あんたか!!」


『ははん。なるほど。――で、何色だった? 詩子のパンツの色は』


 通話を切った。

 スマフォの画面を睨み付けながら、ぼくは呟く。


 それは極秘事項だ……。


ブクマ・評価・感想いただくとモチベーションアップにつながります。

是非よろしくお願いします。

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