第2章の(2)
「どうしよう、渓市がおかしくなっちゃったよぉ。渓市ぃ、しっかりしてよぉ!」
カスピはぺたんと座り込み、涙を流しながらも弱々しく揺さぶり続けた。渓市はそれに応えることなく、視線を中空にさまよわせている。
――夕日が眩しいなぁ。これが現実なんだな。ということは、やっぱりあれって夢だよなぁ。でも不思議と、話したことは明確に覚えてる。義政公のあの声も耳に残っている。それに夢の中とはいえ、カスピがなんで一緒にいたんだ?
視線を前に向けると、座り込んで力なく揺さぶるカスピ。めくれたスカートから腿が見える。頭が真っ白の渓市は、なにも意識することなく手を伸ばして内股を触った。
「な!」
言葉もつっかえて、カスピは数秒間固まってしまった。しかし、さわさわという感触は続く。突然我に返ったカスピは、右手をバチーンと渓市の頬に振り下ろした。
「痛ぇっ!」
土ぼこりを立てて転がっていく渓市。これがただのビンタだったら威力が拡散していくのでまだいいが、寝ているところに打ち下ろされたのだから強烈だ。藁敷きの地面でコンクリートよりマシというものの、挟み撃ちの痛みは強烈だ。
「いきなりなにすんだよ!」
サッと立て膝となり、抗議する。
「なにするんだはこっちのセリフよ。この変態!」
「変態って、おれが何したってんだよ?」
「足触ったじゃないの!」
そう言いながら、カスピは自分の手で再現して見せる。
「えっ、おれが! バカ言うな。そんなことするわけないだろ!」
白い内股を見せられ、一瞬言葉を失った渓市だが、すぐに反論する。
「でも、たしかに触ったって!」
「してねぇって!」