第4章の(1)
このところカスピは、時間が空くと図書館に行き、室町時代に関する本を読み漁っている。
毎日歴代将軍をぶつぶつ呟きながら頭に入れている成果で、ついには15人の将軍の名前も覚えてしまった。
ある日図書館に来た渓市を奥の部屋に引っ張っていって、すらすらと15代の将軍名を披露した。渓市は数秒間目を見開き、それからハッと我に返り、小さく拍手した。カスピはすましていたかったが、どうしてもこらえられず、大笑いしてしまった。
それにしても資料となる本が少ないなと、カスピは思う。その後の戦国時代はやたらめったら本が出ているのだが、室町時代に関するものは創作物ですらほとんどない。
でも、それくらいの方がいいのかもしれない。取っかかるにあたって、莫大な資料があったのでは気持ちが折れてしまう。資料がしぼれることもあって、意外と混乱しないで頭に入っていった。
それでも、登場人物の名字を覚えるにあたってはひと苦労だった。歴史音痴とはいえ、戦国時代なら多少は知った名前があった。武田、上杉、伊達、毛利、真田など、天下を取った武将以外も知っていた。しかし室町時代に出てくる有力者に、知った名前はまったくない。山名、日野、細川、赤松、斯波など、聞いたことがなかった。
10日間連続で図書館にかよったカスピは、久しぶりに義政公に会いに行こうと、渓市を誘って納屋へと向かった。