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室町っく・わーるど  作者: 勒野宇流
カスピの邸宅
17/27

第3章の(1)


 翌日、渓市はカスピに手を取られて、鏡の置いてある納屋まで来た。


 道中、まったくもって心定まらない時間だった。ときおり止まったり下がったり、渓市が抵抗したので、カスピの腕が振れた。その、汗ばんだ柔らかい感触を受ける度に、渓市は胸がギュッと締まった。もう、どこにでも着いていきたい気持ちになった。それでも我に返り、このままカスピのペースに乗せられて室町時代に行くのは避けなければと心にブレーキをかける。


 それでも結局は納屋まで来てしまった。渓市は鏡の前に立つと、あらためて恐怖が全身に走った。


 鏡に両の手のひらを付いて、それに吸い込まれ、時間を遡るという、考えられない世界。とてもとても、尋常なことではない。もっとも時を遡るのに、尋常なもなにもないのだが……。


 とにかく、戻ってこられるという確固たる保障がない。


 いったい戻ってこられなかったらどうなるのか。もちろん、家族とずっと会えなくなるということが、まず頭に浮かぶ。ホームシックで気が狂うことになることだろう。でも単純に、それだけではない。


 困りごとは、さして深く考えないでも思いつく。まずなにより、病気だ。室町時代は今のような治療法もなければ薬もない。現代ではたいしたことがない病気でも、室町時代で罹れば生命の危険にすぐさま直結するし、また、ずっと苦しむことになってしまう。なにしろ歯痛や発熱ですら、抑える薬がないのだ。


 そしてもうひとつ、人々を取り巻く社会の環境もたいへんだ。現代のように、人権などという概念がない。社会の波に流されるような生き方しかできない。なにかの被害にあっても警察が存在しないし、男であればすぐ戦に徴用されてしまうことだろう。


 カスピに強く言えなかったので、ズルズルとここまで来てしまったが、もうここまで来たらしっかりと表明するしかない。


「さぁ、行くわよぉ。どっちが先行く?」


 そんな渓市の気持ちなど気付く様子もなく、カスピがいつもの調子でさらりと言った。


 


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