第2章の(6)
ファミレスに入った二人は、案内の店員にすかさずドリンクバーを頼んだ。カスピが一刻も早く話し始めたかったからだ。
「珍しいなぁ。カスピがこんなに勉強に夢中になるのなんて。特にさ、歴史なんか大嫌いって言ってたじゃんか」
「だって単に暗記するだけで、ホントつまんないんだもん。何年に何が起きたとかさぁ」
「いや、そんな……、まぁでも、学校で習うのってそうだよなぁ」
「でしょ。大化の怪人とか」
「改新だろ。でも、そんな歴史嫌いにしちゃ、すごい入れ込みようじゃないか」
「え、だって私たち歴史上の人物に会ってるんだよ。これ、リアル中のリアルじゃない!」
「まぁそりゃそうだよな」
「なんで渓市、歴史上の人物に会っても平気なの?」
「なな、なに言ってんだ、冗談じゃないよ。さっきなんかさぁ、放心状態だっただろ!」
言われて、なるほどなぁとカスピは思った。あれは、いつも憎らしいほどに冷静な渓市なりの、動転の仕方だったのだ。ということは、やはり腿を触ったのもやっぱり無意識だったのか。あの件に関しては、もう今後問い詰めないようにしようと誓った。
一方、渓市の方も、自分自身が不思議で仕方なかった。とてもとてもありえないことが起こった。時を超え、歴史上に名を残す人物に会って話した。本当ならもっと派手に取り乱してもいいはずなのだ。もっと言えば、狂ってしまってもいいくらいだ。しかしあまりに整然と話が進んだために、不思議と落ち着いていた。なにより足利義政が冷静だった。それにつられて、こちらも冷静になってしまった。家に帰って一人になって振り返ってみたときに、ワァッとなるのかもしれない。しかし今のところは、これが現実だと、静かに受け止めている。
「また行くんだからね、いろいろと教えといてよ。渓市もまた行くでしょ?」
「えっ、おれも?」
渓市は慄いて体を引いた。