第2章の(4)
「何言ってんのってなぁカスピ、時間を超えたんだぞ! どうしてこんな大それたことをさ、そんなに平然と話せんの?」
「そうねぇ。わたしは何度も行ってるからね。初めてだもんね、渓市は」
「それも、なぁんの説明もなく、な」
「ア、ハハハ」
「笑ってごまかすなよ」
渓市は腕組みして睨みつけた。
「いや、あの、ホントのこと言ったら行かないって言うかなって思って……」
「ふーん。だから騙まし討ちか」
「ごめんね。でもちゃんと帰ってきたからいいじゃん」
「帰って来れた、来れないの問題じゃないだろ!」
「ごめーん」
カスピが深々と頭を下げる。
「でもカスピのことだから、最初に行ったときさぁ、今のおれほどおかしくはならなかったんだろ?」
「うーん、そうかな。わたしもかなりビックリしちゃったんだけどね。ところでよっちゃん、じゃなかった、将軍さんのこと教えてよ。渓市、詳しく知ってんでしょ」
「えっ、知ってるって言ったって、本で読んだだけで、対面したのはさっきが初めてだし……」
「そんなの当たり前でしょ、私たちよりずっと昔の人なんだから。いいのいいの本に書いてある一般的なことで。歴史上どういう人だったの?」
「知らないの?」
「うん。なぁんにも知らない。将軍っていうからには、戦国時代の武士なんでしょ?」
「いや、違う」
「へぇ、戦国時代以外にも武士とか将軍とかいたんだ。でも、そうよねぇ。だってよっちゃん、室町時代って言ってたもんね」
「カスピさぁ、文系だろ。大学受験、大丈夫?」
「はいはい、今はそのこと話してんじゃないでしょ。そっちの方はなんとかしますから。それでどうぞ、お願いですから今はヨシマサ将軍のこと教えてください」
カスピはぺこりと頭を下げた。