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室町っく・わーるど  作者: 勒野宇流
納屋から同仁斎へ
1/27

第1章の(1)


 「この鏡にね、こう手を付いてみて。ちがうちがう、そうじゃなくて、両の手のひらを」


 アッと短い叫び声を残して、渓市が鏡に吸い込まれた。


 カスピは、渓市が吸い込まれていくときに足につかまり、一緒に行こうとしていた。しかしあまりにも一瞬のことで、触れることすらできなかった。そうか、自分が吸い込まれるときもこんなに一瞬なのかと、カスピは腕組みしてウンウンと頷いた。


「大丈夫かなぁ。渓市とおんなじところに行くのかなぁ」


 カスピは少し不安になった。人と連れ立って行くのは初めてだったし、事情をまったく教えていない渓市が別のところに出たとしたら、混乱してしまうに違いない。


 それでも、この期に及んであれこれ考えたってしょうがない。すでに渓市は鏡に吸い込まれて向こうの世界なのだ。カスピは渓市と同じように、鏡に両手を付けた。


 フッと体が浮いたかと思うと、グニャグニャの世界に入る。いつものように一点の明かりに向かって進み、その出口となっている壺から顔を出して外を覗いた。


 見慣れた畳敷きの八畳間があり、渓市が伸びていた。渓市を見つけたカスピは安心して、壺からポンと飛び出した。


 当然ながら、カスピは下に落ちた。そこは渓市のいる場所で、腰の辺りにドスンと落ちることになった。


「痛ぇ、重いんだよまったく!」


 重いという言葉に、カスピの頭の中の湯が沸いた。先週は甘い物をいっさい口にせず、ようやく四十キロを切ったところだった。1週間甘味を控えることの、想像を絶するつらさ。そこにもってきて重いなどと言われれば、これは血がのぼっても仕方がなかった。


「上から落ちたから衝撃が強かっただけじゃん、このぉ!」


 カスピは渓市の背中に乗っかり、両手であごを引っ張った。カスピは知らずにやっていたが、これはプロレスの大技のひとつ、キャメルクラッチというものだ。


「イヂヂヂッ」


 女の力だが体勢充分でしっかりロックされている。渓市は抵抗できず、まともに声すら出せなかった。


「これこれやめぃ。争いは嫌いじゃと、あれほど言っておるだろう」


 横に座る和装の男がカスピを制した。

 


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