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世界渡りの死霊術師  作者: 京 高
五章 転生者と残された者
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四 現在の技術、過去の技術

「話を戻すけれど、今回の件でネックとなっているのは節子さんをどうやって異世界に連れて行くか、という事で合っているかしら?」

「そうだね。私だけであれば問題なく世界を渡ることができる。だけど私だけでは向こうで彼女の息子さんを探す手立てがない」


 正確には、ある程度の距離にまで近寄れば感じ取ることは可能であるのだが、その距離にまで的確に近寄る手段がないのである。

 さすがに異世界中を放浪して回れるほどの時間はない。加えて、目的の彼が一所に留まり続けているという保証もない。最悪、入れ違いとなる場合も予想された。


「その点、節子さんであればどんなに離れていようとも嗅ぎつけることができるのね。方角や距離が分かれば地図と照らし合わせることもできるし、探す苦労は雲泥の差ということか」


 そう言って彼女は開けていた缶ビールに手を伸ばすのだった。


「まあ、地図があるかどうかはともかく、探し出しやすくなるのは間違いないだろう」


 実は正確な地図を自由に見ることのできる世界というのは少ないのである。多くの世界では支配者層の持つ特権であり、庶民が手にすることができる地図といえば、観光地のデフォルメされた案内板よりもさらに簡略化されたものでしかないという事も往々にしてあるのだ。

 縮尺や距離はバラバラなのが当たり前、街道と目印になる森や山が描かれていれば御の字、それが異世界における地図だった。


「ふうん……。随分と不便なのね、異世界という所は。魔法なんて摩訶不思議な力があるから、もっと快適な場所ばかりだと思っていたわ」

「それが可能だったのは古代の魔法文明期くらいなものだよ。ほら、この世界でも稀に見つかる、えー……、オオパアツ?それが実際に利用されていた時代さ」

「あれって魔法が関係していたの?道理で何にどうやって使われていたものだか分からないはずだわ」


 この世界では公式には魔法の存在を認められてはいない。そのため、見つかったオーパーツは全てその利用法が分からないままになっていたのだった。


「だけど、この世界の技術のいくつかは魔法文明期を超えているわよ」


 周囲を興味深げに眺めていたリンが唐突に割り込んできたが、その言葉を聞くことができるのはイヅミだけなので、彼女には改めて伝える必要があった。


「――だそうですよ」

「ほほう、ついに私たちは古代文明をも超えたか!」


 私たちは、などと言っているが、その原理を全て理解してから使用している道具は驚くほど少ないはずである。

 例えば自動車だ。異世界の移動手段に比べて断然早く快適に目的地へと辿り着くことができるそれを扱える、つまり運転できる人間は数多い。しかし、その構造を知る者はごく僅かであり、修理できる人間となるとさらに数が減ることだろう。

 このように、使えるだけの人間ばかりになっていることにもう少し危機意識を持つべきではないかと思ってしまうイヅミなのであった。


「いくつかの技術、だけだよ」


 耳触りは悪いだろうが釘を刺しておく。なんのかんのと言いながらも彼もまたこの世界の技術の恩恵にあやかっている身である。

 異世界を知る者として、客観的にこの世界を見ることのできる者として、このくらいのお節介はしてもいいだろう。


「……ああ、その手があったか」

「何か思いついたの?」


 問われるもイヅミの視線は右手中指に嵌められた指輪へと固定されたままだった。


「魔法文明期の研究の一つに魂を器物へと封じるというものがあるんだ」


 節子のような魂だけとなった死者や、普通の肉体を纏った生者の多くが世界を渡ることができないのは、その際の負荷に魂や肉体が耐えきれないからである。

 ならばそれに耐えうる器を与えてやればどうなるのか。


「リンさんのようにあなたと一緒に世界を渡ることも可能になるという事?」

「当たり。今の私の技量であっても、世界を渡る短時間くらいならその真似事ができそうだと思ってね」


 あちらの世界に着いた後は自分へと憑かせれば、移動も行えるようになるだろう。


「問題は、一時的であれど魂の受け皿となれるほどの器物があるのかという事だな」


 魂の器となる代物は不滅を象徴するものであることが望まれる。貴金属や宝石などが候補に挙げられることが多いのは、長い年月を経てもその輝きを失わないためである。

 しかしながらそうした貴金属などはいずれの世界においても希少性が高く、その分値段に反映されてしまっている。つまり簡単に手に入る物ではないのだ。


「しかも術を施すのが未熟な私だから、想定以上の付加が掛かってしまい、解除した際には消滅してしまうことも十分に考えられるね」

「そんな最悪の事態を偉そうに語らないで……」

「まあ、魔法文明期はともかく、今では大体どこの世界でも邪法に分類されるような技だから。私としてもできるなら使いたくはないものなのさ」


 文明が熟してきた中期以降になると、便利になることを免罪符に数多くの生体実験なども行われていたらしい。

 快適さを追求するあまり倫理観を薄れさせていった人々は、やがて人であることも忘れ、滅び去っていったとする学説もあるくらいだ。

 ただしそうした学説の結びがいつも、神に代表される超越種への祈念へと繋がっていくのは、いかがなものかとは思うのだが。

 閑話休題。


「さすがに私でも数十万以上の金額を簡単に右から左へと動かすことはできないわね」


 彼女の言葉に思わず遠い目をしてしまいそうになるのを必死に耐えていると、救いは意外なところからやってきたのだった。


「それなら私のこの指輪に宿らせればいいわ」

「リンさん?」

「私の指輪はオリハルコンにミスリルという当時でも最高峰の合金を組み合わせて作られている。少しの間受け入れるくらい何の問題もないわね」

「本当に大丈夫なのですか?」


 この指輪はリンの魂によって状態が保たれるようになっている。そこに別の魂が入り込むことで、良からぬことになりはしないかと考えたのである。

 じっと見つめてみるが、薄く透けたその表情からは嘘かどうかを読み取ることはできなかった。


「心配性ね。私がこの指輪に封じられてからどれだけの時が経ったと思っているの。多少間借りさせたところでどうかなるほど軟じゃないわよ」


 そこまで言われて拒むとなると信頼していないようにも聞こえてしまう。イヅミは両手を上げて降参の意を伝えると、「節子さんのフォローをお願いします」と口にするのだった。


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