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世界渡りの死霊術師  作者: 京 高
序章 現代編その一
1/27

一 黒衣の異能者

 ピーポーピーポー……。


 不安を煽る甲高い音がどこからともなく聞こえてくる。

 焦燥感のようなものが湧き上がってくるのは、その音の正体を知るが故だろうか?

 見れば周囲にいる人々も落ち着かない顔つきで音の出所を探っているようにも思える。

 それでも足を止めることがないところが、この世界の時間の在り様を現しているようであった。


「ふう……」


 小さく息を吐く。

 ここに来るのも久しぶりだ。何はともあれ旧友に連絡を取るべきだろう。

 手近な場所に見つけたベンチを確保して背負い袋を下ろす。

 その中から端末を取り出すと電源を入れる。


「うん?」


 入らない。

 どうやら内蔵されているバッテリーが切れてしまっているようだ。

 思えば随分と長い間端末を起動させた記憶がないので、その間に全て放電してしまったらしい。

 連絡を取る以前に、文明の利器を復活させることから始めなくてはいけない。


「やれやれ……」


 下ろしたばかりの腰を上げて、荷物を再び背負い直す。動かない端末を無造作にポケットに突っ込んで人混みに向かって歩き始めた。


 しばらくの間、人の多さに辟易しながら通りを歩く。

 押し流されるようにただ漫然と足を動かす。

 時折遠い記憶の中の景色と一致させるように周囲を見回すも、再開発でもあったのか驚くほどに合致しない。

 その様に少なからず寂しさと心細さを覚える。


 ここは本当に自分の知っているあの場所だったのか、と。


 それでも看板に書かれてある文字や、人々の話す声、その他諸々の雰囲気から間違いなく同じ世界だと理解できてしまう。

 いっその事何もかも分からなければ、こんな風に悩む必要もないのにと誰に対するでもなく愚痴る言葉が思い浮かぶ。

 その間にも足の方は機械的に体を前進させており、気付けば見覚えのない所へと辿り着いていた。


「失礼」


 半ば強引に流れから抜け出して、周囲を見回してみる。

 記憶と一致するのは遠くに見える高い電波塔のみだった。

 困った。

 完全に迷ってしまった。

 どうしたものかと途方に暮れながらも何か見知った物はないかと、再度周りを見回してみる。


「おや?」


 足掻いてみるものだ。視線の先にあったのは端末を購入した店、の同系列の店舗であった。

 記憶が確かならば、そしてその記憶と変わっていなければ、店内で端末の充電が無料でできたはずだ。

 更に店員に聞けばこの場所がどこかということも分かるだろう。

 そうなれば連絡を取る予定であった旧友に迎えに来てもらえるかもしれない。


 ほんの数分前とは打って変わって足取りも軽く店舗へと向かうのだった。




「はあ……」


 急いで店舗から出て大きく息を吐く。

 結論から言うと店内での出来事は上向いていた気分を叩き落として余りあることの連続だった。


 まずは入った途端に店員たちから胡乱げな者であるかのような目付きで見られた。

 この時点で以降のコミュニケーションが絶望的に難しくなったと悟ってはいたのだが、実際に体験するとその認識ですらまだ甘いものだったと痛感させられた。

 端的に言うと完全に不審者扱いであり、端末の充電を希望すると眉をひそめられ、道に迷ったのだと住所を尋ねた時には、店員の一人の手が警報器へと伸びかけていた。


 まあ、そうした態度を取らせてしまった原因の一端がこちらにもあったことは認める。

 店に入るまで誰からも指摘を受けなかったので、格好が少々奇抜であったことを失念していたのはこちらの落ち度だ。

 それでもあの応対の仕方はなかったのではないだろうか。

 人々の他者への関心が極めて薄い事も含めて、訪れる度に居辛くなっているように感じてしまう。


「はあ……」


 知らず知らずの内に再び溜め息がこぼれる。

 しかし、いつまでもこうしてはいられない。というよりも早々に店の前から立ち去らないと本当に通報されてしまうかもしれない。

 ながら(・・・)端末は危険なので、旧友への連絡は後回しにして移動を優先させることにしよう。


 絶えることのない人の流れに再び身を躍らせる。


 ピーポーピーポー……。


 また甲高いあの音が聞こえている。

 多くの人が住み、そして行き交うこの街では、強烈な生の匂いと共に、それにも負けないほどの濃度で死の匂いが蔓延していた。


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