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救出

「ここです……」


 俺は隣にいる、革製の軽装をしているダナンにそう告げた。


「ここにまた来るなんて……、少し怖いよ」


 後ろから声をかける胡桃も、今日は男のような布の服装だが長い黒髪と髪飾りで一発で女の子と分かるだろう。


「……では行こうか」


 ダナンの声に、俺達3人は目の前にある木造の小屋へと、足を踏み出した。


 

 馬車でハーセルから続く街道を走らせ、半日かから無い程度だろうか、まだ日の高い中、カッツより少し手前にある、俺達にとっては悪い思い出しかないこの小屋、俺がこの世界に来て目覚めた場所。


 あの地下牢のある小屋に来ていた。


 あの人拐い達がカッツに向かったのであれば、拐われた女の子がここに捕らえられている可能性を考えたからだ。

 

 小屋に見張りなどの姿は無く、辺りは静けさに包まれていた。


 小屋の前まで来ると、ダナンが手で合図を出し、しばらく中から音がしないかの確認後、勢いよくドアを蹴破った。


「誰も居ないか」

「みたいですね……」


 小屋は藻抜けの殻の様だ、小さい机と数個の椅子が置かれただけの殺風景な部屋は相変わらずだった。

 その奥にある階段からも、特に誰かが出てくるような様子はない。


「とにかく下に居るかもしれない、行こう」


 ダナンは壁にあった蝋燭が刺さったままの燭台を手に取り、腰の革袋から出したマッチで火を付ける。

 そしてダナンを先頭に俺達は地下へと降りた。


 警戒しながらも、人の様な気配が無かったその階段をゆっくりと下り、そろそろ下の牢屋に着く頃という時、何かが引きずられるような音が耳に飛び込んできた。


「ひゃっ」


 胡桃が驚いて声をあげてしまい、俺は慌てて胡桃の口を塞いだ。


 3人で数秒間、音に耳を澄ませるが、その後は何も聞こえない。

 すると俺の手を胡桃が軽く叩く。

 苦しかったのだろう、手を外すと少し息を荒げていた。


 俺は手を縦にしたジェスチャーで胡桃に謝ると同時に、ダナンの手信号で再び階段をゆっくりと下りた。


 そこに見えたのは――



死人(しびと)だ」


 数人の、いや、数匹の死人。


 ダナンの持つ蝋燭の明かりに照らされてその姿が浮かび上がる。

左右の牢屋の真ん中、狭く暗い通路に連なるようにして3体、前2体は革の鎧の様な物を着けている。

それは既に生前の面影もなく、ただ腐れた肉体を引きずるようにして、こちらへと手を伸ばし、呻き声を上げながら近づいてくる。

 ダナンの声に反応した様にも見えた。


 俺と胡桃が腰の得物を抜いて構えると、それより早く手前の死人の頭にダナンが剣を刺し、一体が崩れ落ちる。


 直ぐ様後ろの死人が覆い被さる様にダナンに襲いかかるが、剣を抜くと同時に身を交わし、2体目の頭を砕き、そのまま3体目の頭を貫いた。


 狭い通路だったとはいえ、ただ後ろでそれを見ていただけの俺は、さすがダナン、と思うばかりだった。


「これで終わりの様だな」

「さ、さすがですね」

「凄い……」


「どうやら2体は傭兵の様だな、この最後の1体の死人にやられたという所だろう」


 見るとダナンが最後に止めを刺した死人は、女性物の洋服を纏っていた。


「この人、もしかして……」


 胡桃も最悪の想像をしたのだろう、その声は少し震えている様だった。


「いや、腐敗具合から見てかなり経っている。街の子では無いだろう」

「そ、そうですか……」


 多分同じことを思った俺は、ダナンの説明に一先ず安堵する。

 だが、この女性も何処かから拐われてここで死人と化したかもしれないと考えると、背筋に走る寒気と同時に静かな怒りが胸に宿るのを感じた。


「しばらく使われていないのだろう、牢にも誰もいないな。戻ろうか」

「はい」



――――




「待たせたな、シャーレ」

「あ、隊長! おかえりなさい。達也と胡桃もおかえりー」


 ハーセルから伸びるカッツへと続く街道に戻ると、そこには馬車が2台止められている。

 俺と胡桃が乗ってきた馬車と、女の子を救出した時に乗せる為の馬車をもう1台ダナンが走らせてきたのだ。


 ダナンの声に反応したのはシャーレ。

 短い赤い髪に革製の軽装をした彼女は、ともすれば男性に間違えられてしまいそうだが、自警団員でも少ない女性の隊員で、馬車の留守番をしていた。



「で、どうでした?」

「いや、ここには連れてこられてはいない様だ。死人の住み処になっていたよ」

「そうですかー、じゃ、カッツへ向かいますか」

「うむ、そうしよう」


 ダナンとシャーレ、二人の会話を聞きながら俺と胡桃は馬車の二代へと乗り込んだ。

 ダナンは後ろにあるもう1台の場所へと乗り込む。




「じゃ、行きますよー、はっ!」


 シャーレは、馬車に繋がれた2頭の馬を上手に操り、俺達の乗った馬車を進ませる。


「どうだった?! 隊長は!」


 馬を操りながら、そのハスキーな声を大声にして後ろに居る俺に話しかけてくるシャーレ。



「俺達はぼーっと見てただけですよ」

「あの人化け物だからねー! あの人自警団の隊長になる前に何してたか知ってる?」

「それは気になりますね、何者なんですかダナンさんは?」

「王都の闘技場で剣闘士やってたんだよ、あの人! かなり有名だったらしいよー。あ、これあたしから聞いたって言わないでよ? 怒られちゃうから!」


 なるほどあの強さはそこから来ているのか。


「ハーセルには化け物級の人が集まってるのかね……」


「ふふふっ、そうだね」


 胡桃はそこまで不思議には思わなかったのだろう、無邪気に笑っていた。

 



――――




「んじゃ、あたしはいつでも動けるようにして待ってますね」

「ああ、頼んだぞ」



 まだ町は見えないが、馬車を途中の脇道に止めて、俺達3人は街道を避けて草原を歩き出した。



 カッツ――


 出発前に聞いた話では、今その町を動かしているのは、パルゴーと言う名前の奴隷商人で、どうやら先代国王が生前に王都から追放した貴族崩れだそうだ。

 未だに一部貴族と繋がっている可能性は高く、先の一件も直接の指示はそのパルゴーから出ていると思われる。


 


 しばらく草原を歩いて行くと空が夕焼けに染まりだし、カッツの町が見えてきた。

 木造の建物が多く、中には倒壊している物も多く見られる寂れた所だった。


 街道沿いの入り口では傭兵風の男が数人集まって騒いでいる様だ。見張りなのかは分からないが、俺達は見つからないように町の裏手に回り、倒壊した家屋の影から町へと入った。



 町には人影はあまり無く、時おり屈強そうな男が道を歩いていたのを見つけて姿を隠しながら見ると、煌々と明かりの付いた木造の建物に入っていくのが見えた。


 見た限りでは酒場だろうか。

 

 他には薄い布を巻き付けただけの様な服装のホームレスみたいな人が倒壊して屋根の無いような建物、そこらの地べたに座り込んでいたりしている。

 その近くを通っても、その人達はこちらに関心を示すことなく呆然としていた。


 しばらく建物の間を進むと、このカッツには珍しい石造りの大きめの建物が姿を見せた。外観は周りの建物同様汚ならしく、所々崩れ落ちている壁や壊れた窓等が見えるが原型は留めている。

 入り口には見張りが2人。


「ここだ、では君達は裏に回ってくれ」

「分かりました。行こう胡桃」

「うん」

「中に何人居るか分からない、慎重に行け」


 俺と胡桃は建物の裏側に回り込み、明かりの漏れた部屋を覗いてみると、中には酒を飲んでいる男達がいる部屋がある。

 そこを避けるように離れた部屋の窓を調べてみると、誰もいない部屋のひとつに入れる窓があり、そこから侵入した。


 入ってみると、汚れたベッドが数個あり部屋のドアは壊れているのか少し開いている。

 所々にある黒い染みが、乾いた血の跡の様にも見えた。

 分かっていた事だが、ここで何があったのかは想像したくも無い。

 すると廊下の方から男の怒鳴り声が聞こえてきたので、その様子をドアの隙間から覗いた。


「おい! 見張りのアホ共が居なくなってやがる、ちょっと来てくれ!」

「あぁん? なんだってんだよ」

 


 ダナンが行動を起こしたらしい、引き付けている間に中を捜索する様に言われていた俺達も行動に移った。

 



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