私がいないとダメなんだから。
月は、常々地球と別れたいと思っていた。
はっきり言って、この男よりも、ベテルギウスのおじいさまや、青白いイケメンのシリウスの方が魅力的に思えたからだ。アルタイルとベガ、アークトゥルスとスピカのカップルには割り込めないし、オシャレなカペラにはもてあそばれそうだけど、一等星の中で一番暗い地味なレグルスあたりなら付き合ってくれるかもしれない。
月は地球にとうとう別れ話を切り出した。
「え? それは困るなぁ。君がいないと潮の満ち引きがなくなって生き物のバイオリズムに影響が出るよ。狼男も変身できないし、人間たちは月見バーガーを食べられない。君がいなくなると科学的にも文化的にも大きな損失だよ」
地球は月を引き留めたい。
「あなたのそういうところが嫌いなの」
月はうんざりして言った。
「え?」
「理屈っぽいのよ。なんでもかんでも。あなたといると疲れるわ」
「でも、君は少し感情的になりすぎだ。冷静に考えよう」
「星が考える? 星に意志なんてあるのかしら? 何も考えないのが星だわ」
「でも、僕から生まれた人間たちには意志があるよ。愛だってある。僕と君にも何かしらはきっとあるよ」
「ないわよ」
「ずっと一緒にいるのが答えだろう? 科学的事実だ。この暗い宇宙に二人。何か神様の思し召しがあるんだよ。僕たちはそれを見つけよう」
地球がそう言うと、月はうんざりを通り越してあきらめたように笑った。
「あなたってホント理屈っぽいのね。いいわ。もう少しだけそばにいてあげる。私は一人でも大丈夫だけど、あなたは私がいないとダメなんだから」
「ありがとう」
地球は、女性である月の母性本能をくすぐれば勝ちだし、引力はこっちの方が強いから彼女は離れられないだろうと理屈っぽく思ったが、月が嬉しそうな表情を浮かべていたので、それ以上何も言うことはなかった。