この街の在り方について
Q.不定期とはいえいくらなんでも更新遅すぎね?
A.ずっとGOD EATERやってました。インフラ楽しい。
イルトリア竜生術学院二階。職員室。
今日の仕事を一段落させたヴァリエは帰投準備をしていた。本来まだ帰るべき時間ではないのだが、彼の『本職』が少々特殊であるため、なんだかんだで特別待遇を受けている。非常にありがたい話だ。この世界も捨てたものではない。
「お疲れ様でした」
一言言い残し、ドアを閉める。携帯端末を確認。メールが一通。開けてみると、相棒からであった。
【from:ウロス】
【件名:なし】
【本文:任務完了。帰る。】
…相変わらず素っ気ないメッセージである。無駄な加工をしているよりはマシなのだが。
(あれ…今回の任務ってなんだったっけか…)
受信メールフォルダを開く。確かこの前任務の詳細がウロスから送られたはずだ。
少しだけ廊下を歩く速度を緩め、指先に意識を集中。そこへ。
「おーヴァリエじゃねえか。学院の中で携帯堂々と使うたーいい度胸してんなオイ。この現代っ子がこの野郎」
「あっすいませ…先生!!」
一人の男が不意にヴァリエに話しかけてきた。
ボサボサの銀髪に如何にもやる気のなさそうな眼。よれよれのYシャツ、白衣。
ギルズ・ドライバーグ。先生見習いが先生と呼ぶ、学院所属の教師である。
ヴァリエもここの学院の卒業生であり、ギルズには何度もお世話になっている。
「なんだかんだで久しぶり、だな。先生ってのはどーだ、ヴァリエ。」
「ええ、難しいですけど、やりがいがありそうな仕事ですね。紹介してくださって、本当に感謝しています。」
薄く笑って聞いてくる先生に、心からの笑顔で応える。
「おーおーそれは良かった良かった。流石、学院を二位の成績で卒業しただけある。他の先生も、飲み込みが早くて助かるって言ってたぜ。」
「あはは、恐縮です…」
思わず身体が縮こまる。少々恥ずかしい。
「ところで、アイツは元気か?死んでねえか?」
ギルズが再び問う。アイツとは十中八九アイツのことだろう。
「ウロスですか。まあ、元気ですよ。事務所の経営もなんだかんだ上手くいってますし。それに、俺だけじゃないです、彼女もいますから。」
「ああそうか。そりゃあ何よりだ。彼女がいるんなら大丈夫そうだな。まあ頑張れよー」
「ええ、先生こそ。」
二つの背中が交差する。久しぶりに先生と話すことが出来て、ヴァリエの心は少し弾んでいた。
●
「あ"あー…」
イルトリア首都・イルトリアス某所。
死んだ目をした青年、ウロスは猫背で街を歩く。その顔には、龍を狩ったときとは違い、疲労が滲みでている。
「やっぱ能力の長時間使用は堪えるか…普通にバス使えばよかった畜生…」
火山で龍を三分ほどで仕留めた後、能力を使い超高速で地面をスケートし帰ったきたのだが、時間が経つにつれ地味に身体に疲労が蓄積していき、現在に至る。慣れないことはするものではない。
家まであと少しなのだが、足は次第に重くなっていく。
そして。
疲労困憊のウロスに背後から近づく影が、一つ。
「今月乗り切るにゃあちょいと足りねえな…あー面倒くせえ…どっかに賞金首とか落ちてねえもんかな…」
くだらないことをぶつぶつ言っているウロスが、影に気付くことはなく。
「あんちゃん、ちょいとツラ貸しな。」
ジャキッ、と、ウロスの頭に銃口が押し当てられた。
「…!!」
ウロスの眼に、驚愕の色が宿る。
流石にここで騒ぐのはマズイ、とウロスは考え、渋々ながらも後ろの影に従うことにし、路地裏へ。
「…何の用だ。新手の依頼か?出来ればこういう野蛮な真似は止めてほしいんだが。」
「お前…ランクSの、ウロス・リヴォルドだな?」
ウロスの問いを無視し、背後から声が聞こえた。声色から察するに、どうやら男らしい。
そして声を聞くと同時に、ウロスは察した。
ああ、俺の名声目的か、と。
ランクSの人間ははっきり言って人間を超越したと言ってもいい存在だ。それ故、こんな感じで「ランクSを殺した」という名声欲しさの危ないにーちゃんに命を狙われたり狙われなかったりすることが多々あったりするのだ。
これで何度目だろう、と思いつつ、ウロスはこういう時いつも決まってこう言うと決めている。
「…人違いじゃないっすかね。」
「ああ!?何言ってんだこのタコ!ボッサボサの茶髪にクソみてえな眼!!誰が見てもウロスだろうがよ!!!」
やっぱり駄目だった。ちなみに今のところこの言葉でなんとかなったことは一度もない。
重いため息が漏れる。
「んな奴何処にでもいるだろうが…あと俺の髪は茶色っつーかベージュ「んなこたどーでもいいんだよ!!!」
男の声が荒くなる。どうやら埒は明かないらしい。
仕方無いので、本当のことを言ってさっさと終わらせることにする。
「あーそうだよ。俺がウロスだ。何の用だにーちゃん」
「へへ…やっぱりそうか…こいつを殺せば、俺もあの人に…ははは」
銃を握る手に力が入っているのか、銃口が更に強く押し当てられる。
まあ、正直何も感じないのだが。
「お前…俺の能力知ってる?」
「ああ、勿論だ。確か、物理的干渉を無効化するんだったよな。でもな」
さらに男の手に力が篭る。
「ゼロ距離でド頭ブチ抜くのは、流石に無効化出来ねえだろうよ!!!」
男は言い放ち、引き金に力を加えていく。
「死ね」
ッッパァン!!!という快音と共に、弾丸が高速で射出され、容赦なくウロスの頭を貫く。
ことはなく。
カランカラン、と二つの金属音が鳴る。
一つは空薬莢が落ちる音。そしてもう一つは。
銃弾が、落ちる音。
ウロスの頭には、傷一つついていなかった。
「なんで…」
男の全身が振動を始める。
「なんで…死なねえんだ…」
その顔は、恐怖で染まっていた。
ウロスの「深圧衝殺」は、無慈悲に男を絶望させる。
そして男が怯んだ隙にウロスは素早く脚を畳み、身を屈める。同時に右の掌を上に掲げ、水を生成、射出。
小型ながら結構な威力の水鉄砲は、男の顎を捉え、身体を吹っ飛ばす。
軽い脳震盪を起こしたのか、男は泡を吹いて気絶していた。
「ったく…銃程度に殺されちゃあランクSなんてやっていけねえっての…ん?」
身を起こしつつ、ウロスは気絶した男を一瞥。赤と緑に染めた髪。鼻にピアス。
ウロスには見覚えがあった。
「こいつ…レディア・ハレルドか?」
ハレルド家。イルトリアスでは有名なマフィアの一家である。ボスを始めとした多くのメンバーが凶悪な能力者であり犯罪者として知られており、そこそこ高額な懸賞金がかけられている。レディアは地龍種・風龍型のランクC。確か、『空気の振動を操り、身体から発する音を全て消す』能力を持っており。空き巣、暗殺などを繰り返し行っていた。勿論懸賞金はかけられている。つまり。
賞金首が、落ちていた。
●
事務所に向かって、ヴァリエは歩く。今日の依頼の精算をしなければ。
資金繰りなどの細々とした仕事は、基本ヴァリエの仕事である。ウロスに任せたらどうなるか分かったものではない。
そんなことを考えていると、事務所前に到着。そこには何やら大荷物を抱えた男と、頭にバンダナを巻いたロングスカートにエプロン姿の女性がいた。
ウロスとヴァリエの事務所である『リヴォルゾルフ竜討事務所』は少々特殊な作りをしている。二階に事務所があり、一階にはパン屋があるのだ。女性-リリア・ランティーぜは、そんなパン屋の店主の一人娘であり、ウロスやヴァリエの昔からの友人である。
「やあ、ウロス、リリア。お疲れ様。」
「おお、ヴァリエ。遅かったじゃねえか。」
「あ、ヴァリエ君、おかえり〜」
互いが互いに労いの言葉をかける。ウロスの荷物が思わず目に入る。
「ウロス…その荷物は…ってこれ人か!?」
思わず大声をあげてしまった。まさか荷物ではなく人間だったとは。
「ああ、レディア・ハレルド、賞金首だ。今から警察に届けるとこ。」
ウロスは特に驚くことなく淡々と告げる。
「そんなのどこで…」
「拾った。」
まるで意味がわからない。ヴァリエの頭は混乱するばかりだ。
そこへ。
「ちゃんと説明しなさいこのアホッ!!」
スパーン!と子気味良い音が響く。リリアがウロスの頭を思い切りはたいた音だった。
「痛っつ…毎回思うが、なんでお前は俺の能力が効かねえんだ…」
「あんたを叩き直すためよ!!」
そう、リリアの能力は少々どころではなくかなりの異端である。『竜生術により発生した全ての物質、事象を消失』させることが出来るのだ。ランクSすら無効化する強力な能力だが、詳細が一切分からず、竜種も不明なため、ランクは最低のEとなっている。
リリアに物理的に叩き直されたウロスは面倒そうに話を始めた。どうやらまた絡まれたらしい。
この時、ウロスの肩上でのびているレディアが、とある事件の幕開けに関わろうとは、誰も思いはしなかった。
リリアちゃんの能力は某幻想殺しと大体一緒と考えてもらってOKです。