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この世界の力のあり方について

少しでもワクワクして頂けたら。

※R15、残酷描写云々は保険です。

イルトリア王国北東部、活火山ヴィルバ、三合目周辺。

莫大な炎が、天を覆う。

「総員、防壁展開!!」

とある男の一声により、鎧を纏った騎士の集団が大盾を構える。

瞬間、爆炎は騎士に降り注ぎ、鎧もろとも辺り一面を焼き払う。

大盾と鎧は耐火性に優れており、たとえ業火の荒波に巻き込まれようとも傷一つつかない、はずであった。

しかし強大な爆炎と爆風の奔流は、容赦なく何人もの騎士を吹き飛ばし、無力化していく。

一瞬にして、集団の半分が瀕死となる。

なんとか爆炎を耐えた猛き者は皆頭上を見上げ、空を、いや、空を飛んでいる生物を睨んでいた。

その視線の先には、紅き鱗を身にまとい、一対の巨大な翼を持つ、爆炎を発生させた元凶-『龍』と呼ばれる生物がいた。

龍は再び息を吸い込み、強大な爆炎を生成、下にいる弱き人間に解き放つ。かろうじて残った者の更に半分が無力化される。

決して今の自分達には干渉出来ない空から、地獄の火炎とも呼ぶべき業火。最早騎士団の勝利、もとい生存は絶望的だった。

そんな騎士団と龍の一方通行ともいえる戦いを、静かに認める人間が二人。

「やはり、彼らではちいと力不足じゃったか。君はどう見る、ウロス君。」

二人は戦いが始まってからずっと沈黙していたが、左側に立つ豪奢な鎧を身にまとった騎士団の長が、戦況を見つつ、口を開いた。

「いくら今年入隊した新人っつったってよお…たかだか3mの炎龍(ザコ)にここまでボロ負けるってのはどういうことなんだよ。いつからガキの憧れの国衛騎士団サマはこんな甘ったるい集団になったんだ?」

鎧に包まれた長とは対照的な、ジーンズにカジュアルなジャケット1枚という山と龍を舐めきっていると言われてもおかしくない出で立ちのウロスと呼ばれた青年は、騎士団の醜態に憐れみの視線を浮かべていた。

「甘ったれたつもりはなかったんじゃがのお。すぱるたってのが足りんかったか。」

騎士団の長は、部下が次々倒れていくのにも関わらず、ウロスの話を聞いて豪快に笑っていた。

「笑ってる場合かじいさん…これだから国衛騎士の志望者は年々減ってきてるんだよ。10年後にハイ国衛騎士団廃止でーすって言われてもおかしくねえぞ…」

やはりウロスは呆れたように呟く。どこか嘲りを孕むように。

毒を吐かれてもなお、長は笑っていた。

「まあその時はその時じゃよウロス君。形あるものはいつか崩れる。どんなものであろうとな。」

「それでいいのかよ…」

長の言葉は、腐っていく様を楽しみにしているようにも聞こえた。

「それよりウロス君。そろそろ出番じゃ。いくら弱い新人といえどここで若人の命を失うのは痛い。軽く(あやつ)を倒してくれんか。」

長が青年を見る。青年は体勢を低くとりながら、足腰に力を加えていく。

「言われなくても分かってるっ…っての!」

爆炎に向かい、青年は走り出す。彼の掌には、水の塊が生成されていた。



時は同じ頃、イルトリア竜生術学院三階。

「これから新しい単元に入っていくんだけど、その前にここで龍とそれらを取り巻く環境について復習しておこうか。」

白衣を着た青年が、レーザーポインター片手に授業を行っていた。

常に平和というものは、誰かの犠牲により成り立っている。

「まずは『龍』について。」

レーザーポインターが点滅。同時に、青年の背後にある大画面に画像が映し出される。

「まあみんなが知ってる通り、龍っていうのはこの世界で唯一、戦闘能力や頭脳や寿命、全てにおいて人間を上回った生物だ。爬虫類から進化したと言われている。」

画面に映し出された龍の画像に、様々な脚注が加えれられる。

「そして人類は、この龍と呼ばれる生物と遥か古来より戦い続けてきた。」

画像が切り替わる。次に映し出されたのは、古代に描かれたのであろう古い壁画。

「ただの巨大な爬虫類だったら、人類にも勝機はあったかもしれない。しかし龍は人間を超えた頭脳、身体能力に加え、人智を超えた力を持っていた。ある龍は炎を吐き、ある龍は津波を起こし、ある龍は雷を落とした。」

壁画には、神々しい龍と、倒れ、屈した人間が描かれていた。

「人類が龍に勝ったという伝承は、圧倒的に少ない。それほど、龍の力は強大で、人間はどこまでも弱かった。あの出来事が起こるまでは。」

再び画像が切り替わる。画面は、一人の男を映し出す。

「フラベル君、この人誰だか分かる?」

説明だけでは退屈だ。眠気も襲ってくる。時には、生徒の力も借りなければ、教師としては及第点に達しない、と青年は思う。

頭を上下させていたフラベルと呼ばれた少年は、予想外の指名に驚いたかのように顔を上げる。少しだけ、教室に笑いが起こり、空気が変わる。

「えっと…ウォルミクス・レラージェ、でしたっけ…」

「うん、大正解。まあ一般常識だけどね。」

青年が再びレーザーポインターを握る。

「このウォルミクスさん、何者かっていうと、『人類で初めて龍の肉を食べた人間』だ。当時、っていうか今もなんだけど 、龍っていうのは基本肉食だから、肉は臭いし硬いしで食えたものじゃない。僕も1回食べたことがあるんだけどね、すぐに吐き出しちゃったよ。」

青年の言葉が衝撃的だったのか、教室がどよめく。

「センセー、龍と戦ったことがあるの!?」「マジかよ本当に!スゲー!!」

何人かの生徒が歓声をあげる。やはり龍を討つ者はいつの時代になっても少年少女の憧れの的だ。

「あはは…まあ、その話は授業が終わってからね。授業に戻るよ。ええと、ああ、ウォルミクスさんの話か。」適当に誤魔化しつつ、少し逸れた話を戻す。下手に生徒の興味を引いてしまった。これは授業後が大変そうだ。

「何故食用に適していない龍の肉をウォルミクスさんは食べたのか、ただの興味本意か、飢えて死ぬ寸前だったのか、色々と説はあるけど、まあ彼が龍を食べたのは紛うことなき事実だ。そして」

大画面に映るは、龍の死骸を喰らう男が描かれた一枚の絵画。タイトルは『反撃の一歩』。

「ウォルミクス・レラージェは、世界で初めての能力者になった。今から340年前の話だ。」

過去を振り返るように、青年は淡々と告げる。

「彼は、炎を生成し、自由自在に扱える能力を手に入れたんだ。そして、その能力を用いて、人類で初めて、たった一人で龍を狩った。」

教室に静寂が走る。ウォルミクス・レラージェという男の遺した功績がどれほど凄まじいものだったのかが分かる。

「そしてこの能力は、人の身において龍の力を扱うことから、『竜生術(りゅうせいじゅつ)』と呼ばれ、200年の研究の甲斐あって、全人類に普及。今や竜生術と我々人類は切っても切れない関係になった。よし、復習終わり。」

画面が暗転。レーザーポインターの電源も切る。とりあえず今日の授業の進捗目標は達成した。

「さて、次の単元はまあ次回の授業からだとして…うーん時間が余った…何か質問はある?」

「センセーの竜生術は何なの?」「ランクは?」

聞いたそばから質問が飛んできた。

竜生術は、その能力の種類、強さにより、六つの種、九つの型、六つのランクに分類される。例えば、主に火を扱う能力者は炎龍種・炎竜型の能力者である。

「あれ、言ってなかったっけ…僕は海龍種・氷竜型のランクB、氷の能力者だ。」

海龍種は水竜型と氷竜型の二つにさらに分類される。文字通り、水を生成し、操ることができるのだ。

そして、それらの能力は強さ、生成できる物質の量、非凡さにより、上から『S,A,B,C,D,E』とランクが付けられる。

ランクB、上から三番目ということもあり、青年に羨望の眼差しが向けられた。

「ランクB!?」「見せて見せて!」

教室の色々な所から歓声に似た声が上がる。青年はそれを宥めつつ、時計を一瞥。まだ時間はあることを確認。

「わかったわかった…ちょっとだけね…この教室に、海龍種の能力者はいる?」

何人かが手を挙げる。

「よし、じゃあ自分の掌ぐらいの水の塊を作ってみて」

対象の生徒が、掌をかざし、意識を集中。すると眼前に小さな水の塊が生成された。

「僕の能力はちょいと特殊でね、僕は海龍種の能力者でありながら水の生成がほとんど出来ないんだ。」

そう言って青年は掌を生徒の方へ向け、集中。水の塊を作る。しかし、生成された水の塊は小さなサイコロ程の大きさで、教室内に作られた塊のなかでずば抜けて小さかった。そしてすぐに消失してしまった。

何人かの生徒が、残念そうな目を向ける。

「でもね、僕の能力の真髄は水の生成じゃない。」

掲げていた掌を引っ込め、指を曲げる。親指と中指をくっつける。

「僕の得意技は…」

中指が滑る。

「液体の凍結だ。」

パチン、という音が鳴る。同時に、フワフワと浮かんでいた水の塊が一瞬で凍結。音を立てて落下していく。

教室が再びどよめき立つ。氷竜型の能力者は物質の凍結を得意としているが、『触れた物しか凍結させることはできない』というのが一般的だ。それなのに、目の前の先生は何にも触れる事無く教室のあちこちに浮かぶ水を一瞬で凍らせた。

チャイムが鳴る。

「おっ、いいタイミングだ。じゃあ、次の予習しっかりしとけよー」

凄まじい能力者だった青年もとい先生は、何事もなかったかのように教室を去る。



「ふう…」

教室を後にした青年-ヴァリエ・ゾルフは少し疲れたように息を吐きながら廊下を歩く。

龍の肉を食べた云々で質問攻めされるかと思ったが、最後のインパクトが凄まじかったのか、ついて来る生徒は一人もいなかった。

これから生徒に舐められることもないだろう。とりあえず安心だ。

(あれ…普通教室で竜生術使っていいんだっけ…)

…不安要素は無視することにする。

(まあいいか…さて…)

ヴァリエは携帯端末を起動。同時に地図を表示。地図上の赤く光る点に目をやる。

光点が指し示すのは、イルトリア王国北東部、活火山ウィルバ。

(相棒(ウロス)の仕事は順調かね…)

ヴァリエ・ゾルフ。表の顔は新米非常勤講師。

本職、龍狩り。



ウロスは炎に包まれた一団に向かい疾走。到着と同時に掌に生成していた水塊を解放。竜生術により生成された少々特殊な水は、燃え盛る火炎を一瞬で鎮める。

「さあ…少しは楽しませてくれよ…」

うっすらと笑みを浮かべ、ウロスは龍と対峙する。

龍もウロスに気付いたのか、巨大な咆哮をあげ威嚇。間髪入れず、爆炎を放出。

爆炎は容赦なくウロスを襲い、巻き込み、騎士団と同じように無力化させる。

はずだった。

ウロスは爆炎に掌を向け、自分の十倍ほどもある大きさの水塊を生成。爆炎に衝突させる。

一帯を焦土に変えるはずだった爆炎は水に包み込まれ、鎮火。ウロスの背後に倒れていた騎士に、炎ではなく水飛沫がかかる。

炎が効かないと理解したのか、炎龍は翼をはためかせ、さらに高度を上げる。翼のはためきにより発生した突風が何人かの騎士を吹き飛ばすが、ウロスは微動だにしない。ただ、遥か高みにいる炎龍のみを見据える。

炎龍はウロスに狙いを定め、急降下。加速と同時に口から炎を吐き出し、全身に炎を纏った隕石と化す。

ウロスの背後の騎士は隕石と化した龍を見て、巨大な絶望に襲われた。

自分達があんな化け物に勝てるはずなかったのだ。自分の竜生術も、本物相手には通用しない。きっとあの青年もそうなのだろう。

そう思っていた。しかし、竜生術は、人類の叡智は。

そこまで、チンケなものではない。

ウロスは頭上に右腕を掲げる。先ほど爆炎を鎮火させた巨大な水塊を生成、龍を迎え撃つ。

炎を纏った龍は水塊に突撃。絡みつく水により身にまとった炎は消失したが、勢いは死んでいない。そのまま、圧倒的な質量で下の人間は押し潰される。

ことはなかった。

ウロスが龍に触れた途端、龍の運動エネルギーが消失。動きが、衝撃が、消える。

炎龍はまるで、ウロスの掌の上で逆立ちをしているように見えた。

「やっぱこの程度かよ、雑魚が。」

ウロスは一言吐き捨て、龍の額に触れたまま、右の掌に水を生成。超高圧で射出。

超高圧をかけられた水は、金属すら一閃する一本の刃となる。

ウロスの刃は龍の額から脳、心臓、臓器を切り裂き、尻尾の先までを貫通。たった一撃で龍を絶命させた。

ズゥン…という音と共に、龍だったものは地へとその身体を堕とす。

「ふう…任務完了、っと」

ウロスの顔には、疲労一つ無かった。

「いやあ、お見事じゃった。御苦労。」

「ったく…こんな雑魚一匹のために俺を使ってんじゃねえよ。まあ仕事はしたんだ。報酬はきっちり貰ってくからな。」

騎士団の長は、相変わらず笑っていた。

「んじゃ、俺は帰るぞ。こんな暑いところにいたら溶けちまう。」

ウロスは一言告げ、長に背を向ける。両足裏に水塊を生成し、車並の速度で去っていった。

「団長、あの方は…」

幸運にも軽傷で済んだ一人騎士が、長に問う。

「ああ、そう言えば紹介してなかったか。彼はウロス・リヴォルド。海龍種水竜型、ランクSの能力者じゃ。」

「ら…ランクS…ッ!!」

思わず絶句する。人類最強クラスの人間が、ついさっきまで目の目にいたという事実に眩暈がした。

「彼の能力は『深圧衝殺(シンアツショウサツ)』と言ってな 、膨大な質量の水を扱う能力に加え、自分への物理的衝撃を水圧により無効化する能力も持っとるんじゃよ。」


人類は、怪物を討つ力を手に入れた。

おそらく更新は不定期です。

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