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残機×∞  作者: かずあ
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残機×1

魔王の合間にちまちまと…こっちも更新不定期です

すみません

「っっ…」


 軋む体に痛みが走る。

 そりゃそうだ、こんなにボロボロになって血を流して…。


 でも


 「でも、まだ、立てるっ」


 母さんからお祝いにもらった剣を杖代わりにして立ち上がる。

 なにが面白いのか、樹の幹を削って作ったであろう太い棍棒を持った豚人オークがにちゃにちゃと笑う。


 「っ、あぁ…っぁ」


 その後ろで他の豚人が少女の着ている服を破り捨てる音が聞こえた。

 こいつらのやることなんて高が知れている。

 助けなきゃ。次は僕の番だ。


 「あぁあああ!」


 足運びなんて知らない、剣術なんて付け焼き刃。

 そんな「ぼく」でも誰かを助けたいって思うのは、傲慢なのかな。


 大きく振りかぶり、袈裟懸け気味に振り下ろした剣を豚人がひらりと避ける。

 こんな見え見えでへろへろな攻撃、そりゃ避けるか。


 どこか冷静な頭でそんな事を考えていた。


 「ぶぁ!」


 よろめき体制を崩したぼくに豚人の棍棒が迫る。


 避ける暇もないぼくはそれをまともに受けてしまって…。




**********



 「テルーご飯よ~」


 母さんの声でぱちりと目が覚めた。


 木で出来たベットを軋ませながら降りると、壁に掛けてある制服に袖を通す。

 なんてったって今日から学院に通えるんだ。


 「テルー?まだ寝てるのー?」


 「ごめん母さん!今降りるよー!」


 ふわりとマントを羽織ると、部屋を出た。


 すん、と鼻を鳴らすと、いい匂いがしてくる。


 「もう、遅刻するわよ」


 「ごめん」


 そう一言断ってから、やけに豪華な食事へと手をつける。


 「母さんずいぶん張り切ったんだね」


 僕がそう言うと、母さんは嬉しそうに頷いた。


 「そうよー自慢の息子が学院へ行く初日だもの」


 そう言って笑い、力こぶを作るポーズをした。


 「…んっ、ごちそうさま!じゃあ母さん、いってくる!」


 「ええ、行ってらっしゃい。がんばってくるのよ」



 労う母さんの声を背後に、家を飛び出す。


 その際玄関に立てかけてある剣を持っていく。


 決して安くは無い剣をお祝いだと買ってくれたのだ、持っていかないとバチが当たるし、持っていかないなんて選択肢は端から無い。


 石畳で出来た道を走るように抜けて、学院を目指す。

 

 学院の門の側に立っている衛兵の人に、制服についている校章を見せるとそこからは歩いて行く。


 別に遅刻するわけじゃ無いんだ。それにまだ数えるくらいしか入ったこと無いから見て回りたいしね。


 きょろきょろと歩きながら探検していると、校門の当たりが騒がしくなってきた。


 なんだろう?


 そう思ってチラリと見てみると、絵に描いたような美少女が色んな人に囲まれていた。


 僕のような平民でも知ってる、あの人は公爵家のご令嬢だ。


 まぁ、ぼくには関係ないかなぁ。


 さて、そろそろ時間だ教室に行かないと。


 自分の教室の場所は知っている、伊達に楽しみにしていた訳じゃないのだ。


 銅―クラス


 そう書かれている扉の前で深呼吸をすると、一息に開ける。


 既に居た人たちが此方に目を向けるが、興味をなくしたようにすぐ目を離した。


 まぁそりゃそうか。


 とりあえず、と近くの机に座った。


 教室にいる人の多くがキラキラとした表情をしていて、その服装もキラキラだ。

 何が言いたいかというと、貴族様がたくさんってこと。


 しばらくすると、教室の扉が開きそこから妙齢の女性が入ってきた。


 もしかしなくても先生だろう。


 「はいみなさん、席についてください」


 女性はパンパンと手を叩くとそう言い、自己紹介を始めた。


 「私は本日からあなた達の担任を受け持つエレナです。呼ぶ時はエレナ先生と呼びなさい」


 と、柔らかく微笑んだ。


 すると、今日は自己紹介をするそうだ、端っこの人から始まった。


 「アスタリフ=ミレイですわ。以後お見知り置きを…」



**********



 「最後の人ー?」

 

 んと、僕の番だ。


 「えっと、平民のテルです。よろしくおねがいします」


 

 簡素にそれだけ言うと席についた。

 友達は…できるかなぁ…。



**********


「えーであるからして、魔法を扱うことに関しては、莫大な時間と経験が必要であり」


 今は魔法学の時間だ。

 はっきり言ってちんぷんかんぷんだけど、必要なことだと割りきってしっかりと書き留めてる。


 先生が言うには、魔法を使うのには努力が必要なんだって。

 努力さえすれば魔法が使えるんだから良心的だとおもいきや、本当にすごい時間を掛けないといけないんだって。



**********



 「そこぉ!振りが甘いぞ!あと50回追加だ!」


 はっ、はっ、ふっ。


 今は戦闘学の時間だ。

 だけども、僕たちはまだ使える筋肉が少ないとかなんとかで、しばらくは素振りをさせられるらしい。


 んぐっ…はっ、はっ。


 ツライけど、これは自分のためだ。がんばろう。



**********




 それからは学院へ行き、魔法学を学んで、素振りをして、家に帰る生活が続いた。


 元々貴族が集まる学院なので、平民は少なく友達もできなかった。


 今日は少数班に分けて、森のなかを行軍するらしい。



 「えーそれでは、今日は前日説明した通り森のなかを歩いてもらいます。それもただ歩くだけじゃなく、荷物を持ったままです」


 なんでも将来そういう事があった時の為の経験らしい。


 もう既に班決めはされており、集まっている。


 「よろしくね」


 「…っち、平民が同じ班とは…」


 ちなみに1班4人だ。


 僕のクラスは平民が僕だけなので、必然とこうなる。


 もう慣れっこなので、握手しようと出して取られなかった手を引っ込める。


 やっぱり、友達の一人くらいは欲しいかなぁ…。


 

 「それでは次の班、行きなさい」


 僕達の番だ。


 「はいっ」


 同じ班のアスタリフ=ミレイさんが元気に返事をして、第一歩を踏み出した。


 「おい、平民。コレ持てよ」


 先生達が見えなくなって来たら2人の貴族様が僕に命令してきた。


 学院の中じゃ差別をなくすために、平民も貴族も同じ位になるよう校則に書いてあるんだけどなぁ。


 「嫌だよ、重いし。それに自分で持たないと訓練にならないでしょ?」


 僕はその貴族様の横を通って先へ進む。


 「平民が生意気な口を叩くな!貴様は命令を聞いていればいいのだ!」


 …むぅ。貴族様はみんなこうなのかな。


 「嫌だって言ってるでしょ」


 「貴様ぁ…!」


 すると貴族様が腰につけていた剣を抜いて僕に向けてきた。


 「やめなさいよアンタ」


 そこへ、割りこむようにアスタリフさんが入ってきた。


 「みんな平等っていうのは校則に書いてあるし、訓練にならないっていうのもその子の言うとおりよ」


 流石に同じ貴族に言われて思いとどまったのか、剣を収めて舌打ちするとすたすたと歩いて行ってしまった。



 「ありがとう、助かったよ」


 ぺこりと頭を下げる。


 けれど彼女はそんな僕を無視して歩いて行ってしまった。


 っちぇ、友達になれると思ったのに…。



**********




 「はぁはぁ…っぐ」


 もうずいぶんと歩いている。だけど目的地には着かない。


 どこで間違えたんだろう、そう思い地図を持っている貴族様に目をやると彼も相当参っているようだ。苦しそうに呼吸を繰り返している。


 「少し休憩しましょ」


 アスタリフさんがそういうと、みんなで輪になって順路の確認を始めた。


 だけど、学院生になって間もない僕らにわかるはずもなく。


 「お前が間違えたのが悪いんだろう!!」


 「なんだと!!」


 他の二人が言い争ってしまった。


 言い争うのはいいけど、早くこの森を抜けないと。

 数は少ないけど、魔物が出るって言うし。


 もう何分そうしていただろう、そろそろとアスタリフさんが止めに入ろうとしたその時、ガサッと木の葉が擦れる音が聞こえ、何かが音をたて言い争っている二人に当たった。


 「……」


 悲鳴を上げるまもなく二人はゴロゴロと転がっていった。


 突然のことに目を白黒させる僕とアスタリフさん。

 どうやら魔物が出てきてしまったようだ。


 どすどすと音をたてやってきたのは、イノシシのような頭を持つ豚人オークだった。


 まだ成人していない僕でもわかる、有名な魔物だった。

 こいつらはどんな生物の雌でも孕ませることが出来るらしく、相性が良くて頑丈な人間を襲うらしい。


 豚人はアスタリフさんをみてにちゃぁと笑い、二人に投げつけた太い棍棒を拾い上げた。


 「っひ、きゃあああああ!」


 アスタリフさんの悲鳴が上がる。

 その時点でぼくは腰に下げていた剣を抜いて、荷物を地面におろした。


 なんでかこうなることは予想出来ていた。剣を抜く準備も、無意識だろうかしていた。


 アスタリフさんは豚人を見て、背を向けて逃げ出そうとした。


 が、まだ豚人が居たらしい。あっさりと捕まってしまった。


 「よしなさいよ!私をだれだと思っているの!」


 ジタバタと暴れるアスタリフさんの顔をベロリと豚人が舐めると、恐怖からかアスタリフさんが失禁し、気を失ってしまった。


 状況は最悪だった。

 今は2体しか居ないが、他にもいるかもしれない。

 それに僕じゃ1体も倒すことができないだろう。


 現在地も、目的地もわからない森のなか、最悪だ。


 だけど、ここは恩を返すチャンスだ。


 ふるふると震える手に力を込めて、剣を握り直すとまだにちゃにちゃと笑っている豚人へ駆ける。


 「…っ!」


 袈裟懸けに振った剣を避けられた。だけど、これは予想していた!


 拙いなりに、豚人の避けた方へまた剣を振ると、ざくりと肉を裂いた感触がした。


 「ぶあおおおおおお!」


 直後豚人の汚い声が響く。


 やった、ぼくでもやれるかもしれない。


 そう思い豚人へ顔を向けたら、既に向こうが動き始めていた後だった。


 太い棍棒を薙ぐように振ってきた。


 「あっ、ぐぅ!」


 なんとか剣で受けるも、膂力が違いすぎる。

 そのまま威力を殺せずに吹き飛んだ。


 「あぅ、ぐっ、かはぁ!」


 ごろごろと転がり、擦り傷を作った後木にぶつかった。

 肺から空気が根こそぎなくなり、数回むせる。



「っっ…」


 軋む体に痛みが走る。

 そりゃそうだ、こんなにボロボロになって血を流して…。


 でも


 「でも、まだ、立てるっ」


 母さんからお祝いにもらった剣を杖代わりにして立ち上がる。

 なにが面白いのか、樹の幹を削って作ったであろう太い棍棒を持った豚人がにちゃにちゃと笑う。


 「っ、あぁ…っぁ」


 その後ろで他の豚人がアスタリフさんの着ている服を破り捨てる音が聞こえた。

 こいつらのやることなんて高が知れている。

 助けなきゃ。次は僕の番だ。


 「あぁあああ!」


 足運びなんて知らない、剣術なんて付け焼き刃。

 そんな「ぼく」でも誰かを助けたいって思うのは、傲慢なのかな。


 大きく振りかぶり、袈裟懸け気味に振り下ろした剣を豚人がひらりと避ける。

 こんな見え見えでへろへろな攻撃、そりゃ避けるか。


 どこか冷静な頭でそんな事を考えていた。

 けど、また次だ!そう思い、腕を振ろうとするが、上がらなかった。

 なんで…なんでこんな時に。


 「ぶぁ!」


 よろめき体制を崩したぼくに豚人の棍棒が迫る。


 避ける暇もないぼくはそれをまともに受けてしまって…。




**********



 「テルーご飯よ~」


 母さんの声でぱちりと目が覚める。


 「っぁ!」


 反射的に手を頭に当ててしまった。

 それにしても変な夢だった…まるで何もかも本当にあったかのように…。


 「なんだったんだ…」


 「僕」はそう言いながら壁に掛けてある制服に袖を通した。


 なんてったって今日は学院に通う最初の日。


 友達はたくさんできるかな?


 わくわくしながら部屋を出る僕、どことなく感じる違和感に気づかないふりをしながら…。





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