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01章 銀星瀟

幻想銀星瀟げんそうぎんせいしょう

「……なぁ、知ってるか? この世には自分と同じ顔をしたソックリさんが3人は居るって話だぜ」


「だから何だよ。ソックリが居たからって何ら無ぇだろ。っと……次の講義の時間だ、行こうぜ」


 とある学校の10分休み時間の終わり頃、一人、学校の屋上の景色を眺める青年が居た。そこへ、セーター姿の女性らしき何者かが屋上に現れ、青年に背後からコッソリと近付いていた。


ピタッ


「ッ!?」


 青年は突如、自分の両頬に冷たい何かを感じた。驚いた青年は無言のまま素早く起き上がり、背後を振り向いた。


「ジュース、買って来たよ」


 背後に居たのは、青年の幼馴染みであり、一番の良き理解者である星野 春(ほしの はる)。彼女は青年と幼稚園の幼い頃から仲良く、いつも一緒だった。


 そんな幼馴染の仲が大学の今でもまだ続いている驚きは、青年の内心で爆発していた。青年は思うのだ、彼女にだって自分の将来とか、夢とかあるんだから、自分の目的に沿った学校に行けば良いのに──と、度々に。


 しかし、彼女はいつもあっけらかんとして、私は昔からの仲良しが居ないと嫌だしやっていけないの──。彼女はいつも笑顔でそう言葉を口にして、暇さえあれば常に青年の隣に居た。


「あぁ、悪いな。──って、またお前、今日の物理の講義、サボってるのか」


「それはお互い様じゃない? あんたがいつも休んでるから、私が"わざわざ"心配してこうやって冷た〜いジュースを買ってきて一緒に飲んであげてるのに、その言い草は馴染みの相手には無いんじゃない?」


 それはお前が好きでやってるだけなんじゃないのか? 缶ジュースのプルタブを開けつつ青年はボソリと呟く。このような会話は、今日に始まった事では無い、幾度も幾度も、今に至って同じような展開、同じ会話なのだ。


 いつものように屋上に二人で座り込み、暫くは屋上からの景色とジュースに没頭する。だけど、二人は今日は何か、なんとなく、いつもとは展開が違う気がした。


「ねぇ桜夜」


「ん? 何だよ」


「私の事、好き?」


 それはホンの唐突、突然の発言にして突然の出来事だった。青年の名を口にした後、目で空を煽いだまま、青年に向かって告白に近いような事を尋ね出したので、青年は思わず噎せた。


「いきなり何訊くんだよ?」


「イイから、どうなのか答えて」


 いつに無く真剣な面持ちで彼女は青年に迫り、質問の答えを求める。青年は──いや、桜夜は暫し沈黙を間に置いて、それでも少し気軽に告げた。


「そりゃ好きだよ、幼馴染として……」


 桜夜の言葉を聞いた彼女──いや、春は、何かに胸を貫かれたかのような反応と表情を浮かべ、僅かに俯いた。その俯いた表情の瞳には光を反射する透き通った"何か"が桜夜の目に映った。


「そっか、そっか、そうだよね。うん、私ったら、何を勘違いしてるんだか……あ、いや気にしないでね桜夜。そろそろお昼だし、私購買の方に行って買ってくるよ」


 春は足早にその場を離れ、そそくさと階段を降りて行った。階段を降り切った春は、泣いていたーーまだ何も結論を出されていないのに、悲しむ事じゃないのに、泣いていた。


 桜夜は何かマズイ事でも言ってしまったのかも──と思い、自分も直ぐに立ち上がって春を追い掛けようと駆け出す。その唐突、いきなり桜夜の目の前に謎の金髪女性がひょっこり現れた。


「なぁッ⁉」


「あら」


「えっ?」


「"ソックリ"ね、ソックリさんが3人は居るって本当だったのね」


「何⁈」


「おもしろそうだから、招待してあげる」


「何処に⁉」


「それは来てからの、お・た・の・し・み」


 その言葉を聞いた最後、桜夜の意識は暗闇の中へと落ちて行った。落ちる意識の中、桜夜の目に映るのは見渡す限り目、目、"目"。再び意識が戻ると、目の前には赤髪長い中華風の女性が見下ろしていた。


「大丈夫ですか、咲夜さん?」


「──さ、咲夜さん…?」


 青年は明暗する目を手で押さえ、フラフラしながらその場から立ち上がった。すると赤髪の女性はふと青年が"咲夜"では無い事に気付き、素早く身構える。


「あ、あなた誰ですか⁉」


「それはお互いでしょ、逆にこっちが訊きたいですよ……」


「そ、そうですよね……」


 赤髪の女性は突然シュンとしてしまい、人指し指と人指し指とを合わせて佇んでしまった。青年は女性の佇んだ姿にややキョトンとしていたが、暫らく後に(まばた)きをして我に帰り、女性に尋ねた。


「あの、僕もあなたも状況がわからないと思うから、とりあえず名前とこの場所がどう言う場所なのか教えてください」


「あ、はい。私は紅 美鈴(ほん めいりん)です。それで此処は、紅魔館と言う──とっても不思議な人達が住む御屋敷です」


「あ、はぁ……」


 美鈴は説明の途中、誰が聞いても奇妙に感じる言葉の間を残してしまった。案の定なのか、青年は美鈴の説明の後、先ほどの言葉の間に触れてはいけない気がして、溜め息交じりに返事をした。


「僕は七星 桜夜(ななせ さくや)です。"七つの星"に、"桜の夜"と書きます」


「七つの星に、桜の夜……カッコイイです!」


「そ、そうですか? 親のよくわからないセンスが生んだ迷惑な名前ですよ」


「あなたは何を言ってるんですか! カッコイイ名前じゃないですか! 寧ろ両親に感謝すべきですよ!」


「は、はぁ……」


 自身の名前を口にした桜夜に、美鈴が目を輝かせた。自身の名前はそんな良いものでは無い風に(さげす)むと、美鈴は桜夜の眼前にまで接近、桜夜は美鈴の妙な勢いに押されて後退る。


「こんな良い名前、そうそう無いですよ? 紅魔館で言ったら、咲夜さんくらいしかカッコイイ名前は無いんですから」


「その、さっきから言う"咲夜"さんって誰なんですか?」


「咲夜さんは、紅魔館のメイド長で、綺麗な銀色の髪をしてて、何でも完璧に熟せちゃう凄い人なんですよ!」


「へぇ、世の中にはそんな人も居たんですね」


「何が凄いかってもう、一瞬で消えたり現れたりで、もう神出鬼没とも言えるくらいにどこにでも現れてあらゆる仕事を……」


『人を化け物みたいに言ってくれるわね、美鈴』


 それはまさに神出鬼没と呼ぶに相応しいくらいに突然、銀髪のメイド服の女性が美鈴の隣に現れた。あまりに突然の出来事に、美鈴の言葉が途絶え、大袈裟な反応で仰天した。


「さ、咲夜さん⁉ 居たんですか⁉」


「ほんのついさっきよ、あなたが外来の人間と話している事はわかったけど。それで、あなたは……」


 咲夜とか言う女性が桜夜を横目で見た時だった、即座に顔が驚愕し、顔ごと桜夜の方へ向けた。桜夜はまるで状況がわからず、ただ苦味が混じった笑みを浮かべるだけ。


「貴様は何者だ!」


 吹き上がった咲夜のスカートから両足の太腿に巻かれたホルダーが見え、そこに収納されていたナイフを取り出し、桜夜に敵意を剥き出しにする。桜夜に敵意を晒す咲夜に気付いた美鈴は咲夜の目の前に出た。


「待ってください咲夜さん! 彼はただの外来人です! ただ咲夜さんとちょっと似てるだけで」


「ちょっとですって? ちょっとどころじゃないわ、どう見たって瓜二つよ……。性別や声、髪型の僅かな違い以外は、全て……」


「確かに似てるなぁ……これは都市伝のドッペルゲンガーかな。いや、でもさっき言った通り声とか性別とか違うから、ソックリさんなのは間違いな……あッ……」


「ん?」


「え?」


 桜夜は暫らくの沈黙の間に記憶を漁り、何が事の発端なのかを探ってみた。そこで出て来たのは、学校の屋上で見た日傘を差した金髪の女性の姿だった。


「金髪の女性……」


「金髪?」


「金髪の女性が、何か?」


「俺が此処に来たのは、金髪の女性が原因だ……。それに、俺を"ソックリ"と言っていた、誰を指したかそれは、メイド長の咲夜さんだと言う事、つまりこれは……」


「……つまり、なんです?」


運命の悪戯(うんめいノいたずら)か……?」








続く

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