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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
第二章 友達のカレシ
57/124

1-3

 わたしの仕出かした事は、わたしだけでは終わらない。

 人は誰かと繋がっているのだから、そんな事は当たり前だ。

 たった一人、わたしに繋がっていたせいで、母は世間から後ろ指を指されるようになってしまった。

 わたしのせいで。


「ううん。なんでもない、忘れて。」

 今さら謝ってもどうにもならない事だ。自己満足なら仕舞っておこう、見苦しいから。

 瞳を陰らせた母に、わたしは話題を逸らすために言った。

「それよりほらっ、人が多くなってきたよ。清水が近いんじゃない?」

「そうみたいね、けどちょっと疲れちゃったわ。休憩しましょ、遙香。」

 一瞬曇った母の顔は、すぐに笑顔に戻った。

 母の言葉で、迷ってる間にそうとう歩いたことを思い出した。

 けれど、沿道の店舗はどこも満員なんじゃないかと思うほどの混雑ぶりだ。

 空いていそうな店となると、値段的にぼったくりなんじゃないかと訝る佇まいだった。

「座れるなら多少は目を瞑りましょ、場所代だと思えばいいのよ。」

 ふう、と息をついて、母がそう言った。

 母の言葉でわたしは自分を無理やり納得させた。観光地の物価が高い事は解かりきってる。


 一見、料亭のような佇まいの店は見るからに空いている。

 値段を見れば、コースの昼食が一万円以上で提示されていた。

 お茶だけっていけるんだろうか。

「遙香、こっちこっち、」

 路地の前で母が手招きをしていた。

「ちょっと早いけどご飯にしましょうよ。きっとお昼時になったら、一斉に混むわよ。」

 それは有りそうだと思った。頷いて母に同意した。

「でね、あのお店なんだけど、路地の奥ってきっと空いてるわよ。」

 母の指差す先に、小さな看板が出ていた。目ざとい。お値段も手頃だ。


 母は、何も聞かない。

 噂は耳にしたんだろうに、何も言わなかったし、何も変わらなかった。

 母は口癖のように「なるようにしかならないわよ、」と繰り返す人だったから、あの時もそう思っていたんだろうか。

 わたしを見る近所の目が、明らかに変化した。

 ただの横恋慕じゃない、わたしがやった事は世間じゃ物珍しいケースだった。

 地元というのは、けっこう狭い。


 祐介にちょっかいを出された報復で、紗江が言いふらしたのかと思ったりした。

 女って感情の生き物だから。いざとなったら何をするか解からないものだから。

 けれど紗江は紗江のまま、何も変わらなくて、卑屈になっていたのはわたしの方だった。

 噂話が、空耳だと解かっているのに、どこからとなく聞こえてくるようになっていた。



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