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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
破れ鍋に閉じ蓋
49/124

8-1

「もうこんな時間やで。ほな、そろそろお開きにしよか。」

 おばちゃんはまた軽い口調に戻って、パンパンと柏手を打った。

 お店の時計に目をやると、十二時前だった。

「ず、ずみばぜん……、」

 長居してしまった事をお店のママに詫びようとしたら、声がボロボロだった。

「気にせんでええよ。それより大丈夫? おねえちゃん?」

 イントネーションが僅かに関西だ。わたしは頷いて、席を立った。


「恥ずかし、」

「旅の恥は掻き捨てっていうやんか! 気にしぃなや!」

 おばちゃんはまた豪快に笑って、お財布から一万円札を取り出した。

 やばい、と思ったけど間に合わない。

「おばちゃん、わたし、」

「ええから、ええから。奢らしとき。」

 やっぱり。

 グダグダになってるわたしは、鼻を堰き止めるハンカチを離せない。

 不本意ながら叔母に奢ってもらう事になってしまった。

 ぐずぐずするわたしの背中を麻由美が押した。

「気にせんでええで、紗江ちゃん。うちかて奢ってもらうもん。」

 母娘とは違うよ麻由美ちゃん、と言おうと思ったけど、鼻をかむ方が先になってしまった。

 ああ。きっとまた祐介は嫌な顔をするんだろう。


 わたしが何度、ヤツの浮気で渋い顔を作ろうが自身は改められないくせに、わたしには改心しろと煩い。

 そういう事を思い出して、それでもやっぱり別れたくないと強く思ってしまった。

 悲しみは、別れたくないという気持ちの昂ぶりに変化した。


 祐介が必要なんだ。誰がなんと言おうと、一緒に居たいよ。別れたくないよ。

 ついに本気で泣き出したわたしを、麻由美が大慌てで店の外へ押し出した。

「紗枝ちゃん! ほんまに大丈夫? なんやもう、いっぱいいっぱいやってんなぁ……、」

 呆れたような声。何を聞いても今のわたしには悲しいフレーズにしか聞こえなくて、何が悲しいんだか、声を上げて泣き続けた。なのに頭の芯はとても冷静で、自分の事をバカみたいだと思っていた。


 本当に、わたしって女は馬鹿だよね。

 その通りよって、遙香にバカにされながら、慰められたい。

 祐介は黙ってわたしの頭を抱き寄せて、じっと泣き止むのを待っててくれる。

 自分が、思った以上に参っているんだって感じるこんな瞬間は、二人に逢いたくて堪らない。

 見知らぬ土地の、静まり返った建物の中。暗闇に閉ざされた廊下が、脚が竦むくらいに怖くて。

 二人に逢いたい。

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