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娘の解説がすべて終了する頃には、わたしの頭からは煙が立ち上っていたに違いない。
整理整頓しようにも、まだなんだか訳が解からなかった。
ドラマみたいな家族関係というものが、本当にあるんだと衝撃を受けた。
「ちょっと待って。もう一度、確認するけど、」
わたしはこめかみを指先で押さえつつ、娘に向かって念を押しにかかっていた。
「うん。だから言うたやん、ヤヤこしいでって。」
ドヤ顔の娘が、さぁどうだとばかりの返事をした。
わたしは何度もトイレの方向へ首を伸ばして、彼女の帰りがまだなのを確認してしまう。
本人不在で話している事に罪悪感がふきこぼれそうだ。
紗枝は、波乱万丈の人生を歩んでいるらしかった。
なかなか帰ってこない優香ちゃんは、どうやら紗彩と口裏を合わせていたらしい。
なるほど、自身の口からはなかなか言えそうにない複雑さだ。
「優香ちゃんのお母さんが付き合ってる男の人は、優香ちゃんのお父さんとは違う人やん。で、実はその人は……」
紗枝の元カレで。
つまりなに?
一旦、祐介と別れた後に出来た子供が優香ちゃんで、相手の男は結婚前に死んでしまって。
シングルマザーで育てて、相手の男の両親に今は娘を預けている……?
ドラマだ、ありえない。笑ってしまいそうで、膝をつねった。
娘たちにとっては深刻な問題だ、フィクションなどではなく、これはリアルだと充分に理解している。
目を伏せて、紗彩は真剣な声を出した。
「優香な、ものすごい気ぃ遣いやねん。東京のおじいちゃんたちにも、こっちのおばあちゃんにも、目一杯気ぃ遣ってんねんて。しんどいって愚痴こぼしてるわ。」
娘は言下に、なんとかしてくれと含んでいた。
その後、優香ちゃんが席に戻り、なんとなくギクシャクした空気の中で違う話題が流れて。
懸命に紗彩は場を盛り上げようとオヤジギャグを連発し、母は何も聞かなかったように笑っていた。
おおよそ、わたしが微妙な空気の原因だ。
何かの拍子に、優香ちゃんがぽつりと言った。
「お母さん、わたしのせいで再婚出来ないんです。」
子どもというものは、存外に鋭い。
きっと紗枝は、今も変わらず鈍いのだろうと思った。
今さら、わたしの出る幕ではないのかも知れない。
けれど、紗枝に何か言ってやれる人間は、わたしだけかも知れないと思った。
もしかしたら、紗枝は助けを求めているのかも知れないと。
少なくとも、今、目の前にいる二人の子供はわたしに助けを求めていた。
うぬぼれかも知れないけど。
勇気を絞り出さなくちゃいけない。
いつまでも逃げていちゃいけない。
それはきっと、紗枝もだ。




