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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
第三章 親友の娘
118/124

1-5

 娘の解説がすべて終了する頃には、わたしの頭からは煙が立ち上っていたに違いない。

 整理整頓しようにも、まだなんだか訳が解からなかった。

 ドラマみたいな家族関係というものが、本当にあるんだと衝撃を受けた。

「ちょっと待って。もう一度、確認するけど、」

 わたしはこめかみを指先で押さえつつ、娘に向かって念を押しにかかっていた。

「うん。だから言うたやん、ヤヤこしいでって。」

 ドヤ顔の娘が、さぁどうだとばかりの返事をした。

 わたしは何度もトイレの方向へ首を伸ばして、彼女の帰りがまだなのを確認してしまう。

 本人不在で話している事に罪悪感がふきこぼれそうだ。


 紗枝は、波乱万丈の人生を歩んでいるらしかった。

 なかなか帰ってこない優香ちゃんは、どうやら紗彩と口裏を合わせていたらしい。

 なるほど、自身の口からはなかなか言えそうにない複雑さだ。

「優香ちゃんのお母さんが付き合ってる男の人は、優香ちゃんのお父さんとは違う人やん。で、実はその人は……」

 紗枝の元カレで。


 つまりなに?

 一旦、祐介と別れた後に出来た子供が優香ちゃんで、相手の男は結婚前に死んでしまって。

 シングルマザーで育てて、相手の男の両親に今は娘を預けている……?


 ドラマだ、ありえない。笑ってしまいそうで、膝をつねった。

 娘たちにとっては深刻な問題だ、フィクションなどではなく、これはリアルだと充分に理解している。

 目を伏せて、紗彩は真剣な声を出した。

「優香な、ものすごい気ぃ遣いやねん。東京のおじいちゃんたちにも、こっちのおばあちゃんにも、目一杯気ぃ遣ってんねんて。しんどいって愚痴こぼしてるわ。」

 娘は言下に、なんとかしてくれと含んでいた。


 その後、優香ちゃんが席に戻り、なんとなくギクシャクした空気の中で違う話題が流れて。

 懸命に紗彩は場を盛り上げようとオヤジギャグを連発し、母は何も聞かなかったように笑っていた。

 おおよそ、わたしが微妙な空気の原因だ。


 何かの拍子に、優香ちゃんがぽつりと言った。

「お母さん、わたしのせいで再婚出来ないんです。」

 子どもというものは、存外に鋭い。

 きっと紗枝は、今も変わらず鈍いのだろうと思った。


 今さら、わたしの出る幕ではないのかも知れない。

 けれど、紗枝に何か言ってやれる人間は、わたしだけかも知れないと思った。

 もしかしたら、紗枝は助けを求めているのかも知れないと。

 少なくとも、今、目の前にいる二人の子供はわたしに助けを求めていた。


 うぬぼれかも知れないけど。

 勇気を絞り出さなくちゃいけない。

 いつまでも逃げていちゃいけない。

 それはきっと、紗枝もだ。


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