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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
第三章 親友の娘
114/124

1-1

 歳月が走り抜けていく。

 時が流れ去っていく。

 幾つかの季節に観た覚えのある景色の中で、春の終わりを告げるように桜が散る。


「お母さん! 早く!」

 紗彩さあやが呼んでるけれど、そんなに急げない。歳は取りたくないものだわ。

 第一、娘の通う学校の通学路はずっと坂道で辟易してしまう場所だし。

「待ちなさいや、紗彩。お母さんもお祖母ちゃんもあんたほど若くないんやから!」

「せやけど面談は四時からって言ぅたのに、のんびりしてたんはお母さん等やない、うちが悪いんやない!」

 誰に似たんだか、娘は一を言えば十まで返す口の達者な子供だ。


 わたしは何だかんだとあって、数奇な縁の果てにかの板前さんと結婚した。

 紗枝に宛てた招待状は今も引き出しの奥に眠っている。

 それにつけても、京都の学校というものは建てる場所を選ぶべきだと思う。

 バスを降りた後で、どうしてこんなに歩くのよ。バスの意味は?


「初めての面談やねんで! 遅刻したら、うち、教室で嗤われてまうやんか!」

 それを言われると辛い。昨今は何がイジメの引き金になるか解からないから。

 娘は京都でも有数の私立高校へ入学した。この学校は有名大学へのパスポートでもある。付属高校というやつで、エスカレーター式に全国屈指の有名大学へ進める。……本人の学業が疎かにならねば。

「お母さん怖いわ。先生になに言われるやろ。」

 少し声を大きくしてそう言うと、紗彩は露骨に不機嫌な顔を作ってこっちへ戻ってきた。

 先に先に進む娘を呼び戻すには打ってつけの台詞だった。


「ヘンなこと言わんとってや! ちゃんと勉強してるし、成績も中間くらいから落ちてないわ!」

「最初はトップやったやない。」

 娘は黙り込んだ。

 仕方ないことだとは承知している。さすがに全国から生徒が集まる有名私立だけに、生半可な努力などまったく報われることがない。あまり言うのは可哀そうだ。

 慰める言葉のフォローは忘れることなく付け加えるようにしている。

「解かってるよ、頭良い子が沢山来てるんやし、あんたも頑張ってるよ。」

「外部より大学受験が楽やて聞いたのに……、ああもう、死にたい。」

 誰に似たのかネガティブな紗彩の、それは口癖だった。『死にたい』。

「死んだらお祖母ちゃん悲しいから、やめてね、紗彩ちゃん。」

 親身に受け止めたフリで母が切り返すこのセリフも、お決まりのものだった。

 母は多少背が曲がり、白髪が全面に及んで毛染めを止めた。すっかりおばあちゃんになった。

 わたしはずいぶん、大阪弁が馴染んでいた。


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