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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
小石ほどの運
110/124

8-1

 メールが届いたのは、帰りの電車の中だった。知らないハンドルネーム。

 文面を開くと、軽い挨拶と帰りを見送れなかったお詫びとわたしを心配する言葉が連なっていた。

 平井君だ。

「え? なんで、どうして?」

 どぎまぎして独り言で小さく叫んだら、隣に座っていた母が覗きこんできて言う。

「びっくりした? 母さん、気が利くでしょ?」

 イタズラが成功したみたいに、満足げな笑みを浮かべていた。


「もうっ、お母さんったら……、」

 いつの間に彼にメールを教えたんだろう。

 恐らくは、わたしが酔っ払って帰った夜だろうけど。

「お帰りの頃は仕事で抜けられないって、しきりに残念がってるからね、ピンときちゃったの。で、昼休みにでもメールで伝えてやってって。その頃にはすっかり酔いも醒めてますからって。……律儀な人よねぇ、ちゃんと送ってくれたのねぇ。」

 酔いも醒めてるってあたりは余計なお世話だけど、心底有難かった。

 わたしも、一言のお礼もなしに別れたことを悔いていたから。

「今度はしっかりやんなさいよ、遙香。」

 違う、と否定しようと思っていたのに、正直なもので、思い切り頷いてしまっていた。


「いい? 遙香。」

 母のお説教は続く。

「人生なんてものは、運なのよ。出会いも運。ちょっとした偶然のタイミングで、良い方にも悪い方にも転ぶのよ。サイコロを握ったまま、過去目の悪さをいつまでも嘆いているなんて、馬鹿げているわ。前を向いて歩きなさい、遙香。ほら、歌にだってあるでしょ、泣くのが嫌ならさぁ歩けって。」

「やだ、お母さん。せっかくイイ事言ったのに、一気にお笑いになったじゃない、」

 笑いにしようとしてくれる母の意図は、今度はちゃんと伝わった。


 確かに母の言うとおりだ。もし、彼の元カノが彼に連絡を寄越さなければ、もっと別の日であれば、わたしは彼と知り合うことなどなかったはず。もし、あの日、紗枝が転校してこなければ……男子のからかいの標的にならなければ……親友にはなっていなかったかも知れない。

 運、か。


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