表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
真冬のビール
105/124

7-5

 天井の板目はそういえば見覚えがないような気がした。自宅の天井なんて、そんなにしげしげと眺めた記憶もないんだけど。カーテンのレース模様に合わせた形の切り抜きで、白い日差しが室内に差し込んでいる。

 そういえば温泉旅行中だったことを思い出した。


 わたしは、まるで記憶がないながらも布団の中で寝返りをうって、母へと視線を向ける。誰が着せてくれたものだか、旅館の浴衣がごそりと解けてわたしの首を引っ張った。寝相がよほどに悪かったのか、布団の中を覗くと両足が剥き出しに、浴衣の裾はお腹のあたりで丸まっていた。

 ぐるりと見回せば、見慣れないけど見慣れた客室だ。

 二間続きの奥の部屋は、到着当初はがらんとした畳の間だった。今は布団が二組並んでいる。

 その片方に、わたしは潜りこんでいた。

 窓辺は板張りのちょっとした廊下。中庭風の廊下の先には家族風呂が付いている。ちょっとお高い部屋だ。

 その廊下に母が立っていた。お風呂と逆方向の突き当りに洗面台とトイレがある。洗顔途中の母は、髪をヘアバンドで上げて、腰に手をやって、仁王立ちだ。苦い表情を貼り付けてこっちを見ていた。


 わたしが口を開くより先に母は言った。

「遙香っ、昨夜は大変だったんだからね! 板さんにまで迷惑かけて……あんた、彼におんぶされて戻ってきたの、覚えてないでしょ!?」

 母に言われた言葉を俄かには受け止められなかった。いや、信じたくない。

 一瞬、胃のあたりがすーっとして、それから顔が熱くなった。母の溜息がこれみよがしだ。

「今さら赤くなってもしょうがないでしょ。」

 母は怒りを解いた様子で、それから呆れたような顔をした。

「けどまぁ、よかったよ。いつまでも塞いでるから、心配してたの。ここへ来た甲斐があったじゃないの、新しい出会いを喜ばなくちゃ。」

「お母さん、そんなんじゃないわよ、」

 わたしが否定すると、母は急に真顔になってこっちへ向き直った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ