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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
真冬のビール
103/124

7-3

 溢れそうなビールの泡をよけて、冷えた液体を口の中へと誘導する。

 真冬にビール。

 ぽかぽか、ちょっと暑いくらいに暖房が利いた室内で呑むビールは、プチリッチな味がする。

 おつまみにアイスクリームを舐めてみたい気分だ。

「うん。なんだか、贅沢。」

 グラスをチビチビやりながら一人ごちる。

「腹ん中が冷えたままやと帰りがつろうなります、ここらであったまる料理でも頼みましょか。」

「おまかせでよろしく~、」

 我ながら、ずいぶん遠慮がない物言いだわ。

 平井君もどうやら人を調子付かせてしまう性質のようだった。まるで古くからの友人のように、打ち解けた空気の中でわたしはくつろいでいる。


「ソースカツ、どないでした?」

 彼のお勧めナンバー1なのだろう、探るように落とした声音がちょっと遠慮気味だ。

 不安げな彼を悦ばせたくなって、わたしは大袈裟なくらいに褒めた。

「すごく美味しかった! 後でお土産に注文して帰ろうと思ってるくらい。」

 母のご機嫌取りには満点の合格だから。

 途端に彼の目が輝いた。すかさず釘打ち。

「それは自分で買うからね。これ以上の分を甘えちゃ、さすがに気が引けるわ。」

「遠慮せんでもええのに……、」

 苦笑で平井君が答える。そうそう先回りばかりはされてませんって。


 ソースカツはその名の通りの一品だった。

 からりと揚げられたひと口大のトンカツを、ソースにどぼんと突っ込んだような、真っ黒に染まって汁もしたたりそうなカツだ。

 衣が台無しになったんじゃないかと思わず心配になったほど。

 けれど、口にしてみれば解かる。べしゃっ、とも、カリッ、ともしていない中間の歯応えが癖になる。

 甘辛いタレがじゅわっと広がって、こんなの初めてかも知れないと思った。

 食べる前と、食べた後。

 いかにも真っ黒でちょっとなぁなんて思っていた見た目すら、とても美味しそうな艶に化けた。

 シンプルなんだけど、絶妙の味付け。ちょっとやそっとじゃ真似の出来ない美味しさだった。



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