accelerando
ものすごくお久しぶりです。
放置してました。すみません。
これからは適度の更新できたらいいな・・・。
音楽の女神、ハクアリナ。
彼女は様々な音楽を紡ぎ出していた。
その中でも、一番の大作と言われているのが『音楽の世界』。
彼女は、音楽の中に世界を創造し、音楽に飢える人々をそこへ導いた。
―――――あなたたちに、音楽の祝福を。
「読み覚えがある・・・気がする」
背表紙には、『音楽の世界』と書いてある。
「やっぱり、わたしの本なのかな・・・」
何かの事典のように、分厚くて重い本。
「でも、こんなに古そうな本・・・」
発行日は書いてなかったが、本の状態から見て、おそらくわたしが生まれるよりずっと前に書かれたものだろう。
「・・・でもお母さんもお父さんもこんな本知らないって言ってたし」
わたしもこんな本に見覚えはない。・・・けれど、内容には覚えがある。
「・・・・・音楽の世界・・・かぁ」
どこか、魅力的な響き。
音楽は、好き。
だけど、
「―――部活、行かなきゃ」
正直、あまり行きたくない。
「あ、白明、おはよう」
「・・・おはよう」
「眠そうだね」
「ん・・・朝から部屋の掃除してて・・・」
ウトウトしながら楽器ケースを開ける。
どうして朝から部屋の掃除なんかしてしまったんだろう。
・・・・・眠い。
組み立てた楽器を持ったまま、下のホールを出て階段を上がり、上のホールにむかう。
「えーと・・・午前中は、わたしののってる曲の合奏は無し・・・ずっと個人練かぁ」
上のホールの黒板に書かれた、『今日の練習予定』を確認する。
「はぁ」
あぁ、憂鬱だ。
どうしてこんな部活に入ってしまったのだろう。
我が校の吹奏楽部は、一応、全国大会常連校の一つとされていて、そこそこ知名度もある。
そのため、部員も120人以上と、他の部活と比べて圧倒的に多い。
だから合奏の曲は、毎回実力重視で割り当てられる。
夏のコンクールや、冬のアンサンブルに出られるのも部員の半分以下。
わたしは高校に入ってから、コンクールというものに出ていない。
もう二年生の冬だというのに、今わたしが合奏にのっている曲は、一年生中心の簡単なものばかり。
三年生になってもきっと、コンクールメンバーには選ばれないだろう。
わたしの担当楽器のファゴットは、三年生一人、二年生二人、一年生二人と、計五人いる。
そして四人とも、わたしより圧倒的に上手いのだ。
一つの合奏に、ファゴットは多くても三本ほどしかいらない。
わたしなんて、必要ない。
「・・・・・」
出席の時間まで、あと20分ほどある。
―――みんな練習熱心で、一時間前には既に三分の二以上の部員が、部室である吹奏楽部専用のホールで個人練習を始めている。
二階建てで、一階の通称『下のホール』、二階の通称『上のホール』と、それからいくつかの小部屋があるが、どこも既に人でいっぱいだ。
「練習・・・しなきゃ」
わたしは、そこまで熱心にはなれない。
音楽は好き。
ファゴットは好き。
この学校に入ったのだって、部活が理由。
「・・・・・帰りたい」
でも、違う。
どこか、違う。
やる気なんて、出るはずもない。
「・・・・・練習」
今日は土曜日。
当然、一日練習。
夜まで、帰れない。
わたしはさっさと楽器を片づけていた。
部活が終わり、今は18時30分すぎ。20時まで自主練習が可能で、みんなそれぞれ個人練をしている。
楽器ケースを閉じると、ダブルリード専用の小部屋、通称『aの部屋』に楽器ケースを置いて、わたしは部室を出た。
「さぁ、帰ろう」
こんなことをしているから、上手くならない。
みんなにおいていかれる。
―――――どうでもいい。
歌を歌いながら帰る。
周りには聞こえないように、自分にしか聞こえないくらいの小声で。
寒いけれど、ひたすら歩く。
家までは徒歩で一時間半くらい。
自転車で通っていた時期もあったけれど、
わたしは、この時間が好きだから。
「すみません、あの」
そして
後ろから声をかけられ、
わたしは振り返る。
「うわ・・・」
ツヅミは呆然と突っ立っていた。
「・・・・・変な感じ」
そう呟いたのはリト。
「空気が、空気だな」
イスナが言うと、サクリは可笑しそうに笑う。
「空気が空気なのは、当然だよ。僕たちは今、空気で呼吸してる」
「オレたち、音楽以外でも呼吸できるんだね」
「あたりまえでしょ。ボクたち人間なんだし。・・・変な感じだけど」
物珍しそうに何度も深呼吸を繰り返すツヅミを見て、リトが言う。
「・・・現在位置を確認するためにも、もう少し広い道に出てみましょうか」
セツラが歩き出すと、皆、そのあとをついて行く。
「・・・別行動でも構いませんからね」
そう言ってみるが、やはりついて来る。
「・・・・・」
住宅地を抜けると、車の通りの多い、少し広めの道路へ出た。
「わ、明るい」
ツヅミが思わず呟く。
今は夜。
だが、この道は車の通りが多く、道路の両側には店も並び、街頭も必要ないほどの明るさだ。
「・・・それで、どうするんですか?あなたたちは」
クルリと四人に振り返り、セツラが言った。
「セツラはどうするの?」
サクリが質問に質問で返す。
「イスナはともかく、あなたたち三人に特に目的はないはずです。イスナも連れて四人で遊んできたらどうですか?」
セツラはサクリの質問を無視した。
「勝手なこと言わないでよ。ボクだって探す気でいるんだから」
「え、リト探す気でいるんだ」
ツヅミが意外そうに言う。
「リトにはまだ早いんじゃないのか?」
「ひどいなぁ、イスナまで。まぁ、セツラみたいに早急で必要なわけじゃないけどさ」
「それでは、それぞれ個別行動でいいですね」
セツラは笑顔で小さく溜息を吐きながら言った。
「俺は、お前といる」
「それならオレもイスナについてく」
「サクリももちろんセツラたちと一緒に行くよね」
「そうだね、リト」
「・・・・・」
セツラは今度は笑顔で大きな溜息を吐きながら言った。
「皆さん、私がここに来た目的わかってますよね。邪魔しないでいただきたいのですが」
「女の人さらいに来たんでしょ?もちろん、邪魔なんてしないよ」
「うん。これじゃあ本当に、ただの集団ナンパだね」
リトの言葉に、サクリが楽しそうに笑う。
「俺は、セツラが心配だから・・・」
「オレも、イスナが心配なんだって!」
「・・・・・」
セツラは四人の存在を無視し、歩き始めた。
だが、すぐに足を止める。
「どうした?」
イスナが尋ねる。
「歌・・・が、きこえませんか」
「歌・・・?俺にはきこえない」
「きこえるよ、歌。女の子の声だね」
「・・・セツラとツヅミの耳はさすがだね。ボクにはきこえないや。サクリはどう?」
「・・・・・どう、かな・・・」
セツラは、その音色へと足をむける。
『女性の歌』というものを、きいたことがないわけではない。
こちらの世界から持ち帰ったらしいCDなどが、むこうの世界でもよく売られていた。
その歌をきき、男たちはよく、こちらの世界にあこがれたものだ。
だが、違う。
「・・・なんて、不安定な・・・」
『上手い』とは思う。けれど、とても不安定。
まだ、自分の歌い方というものを―――『自分の音楽』というものを持っていない、透明な歌声。
ひどく、魅力的な―――・・・
「あ、あの子じゃない?」
ツヅミが、一人の少女へ目をむける。
「すごく小さな声だけど・・・『上手い』ね。女の子が歌ってるって、不思議な感じ」
ツヅミが呟き、セツラもその少女の後ろ姿に目をむける。
「高校生・・・ですね」
「この距離なら、俺にもきこえる」
「ほんとだ。ボクもきこえるよ」
「そうだね」
イスナ、リト、サクリの三人も、ぞろぞろとついて来た。
「で、どうするの?このまま五人でぞろぞろとストーキングするわけにもいかないでしょ」
「え、でも、どうするって、なにが?」
歌にきき惚れているらしく、ツヅミはぼぉっとしながらリトに尋ねた。
「だから、声かけるとかさ。だれも行かないならボク行っちゃうけど、いいの?」
「このまま盗聴しながらストーキングっていうのも楽しそうだけどね」
サクリは相変わらずにこにこしている。
「・・・セツラ?」
イスナは思わず、セツラの様子をうかがった。
「私が―――・・・」
セツラは、動揺していた。
「私が、行きます」
彼は、足を速めた。
「すみません、あの」