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MUSIC WORLD  作者: 曲楽 ゆず
2/2

accelerando

ものすごくお久しぶりです。

放置してました。すみません。

これからは適度の更新できたらいいな・・・。

音楽の女神、ハクアリナ。

彼女は様々な音楽を紡ぎ出していた。

その中でも、一番の大作と言われているのが『音楽の世界』。

彼女は、音楽の中に世界を創造し、音楽に飢える人々をそこへ導いた。

―――――あなたたちに、音楽の祝福を。




「読み覚えがある・・・気がする」

背表紙には、『音楽の世界』と書いてある。

「やっぱり、わたしの本なのかな・・・」

何かの事典のように、分厚くて重い本。

「でも、こんなに古そうな本・・・」

発行日は書いてなかったが、本の状態から見て、おそらくわたしが生まれるよりずっと前に書かれたものだろう。

「・・・でもお母さんもお父さんもこんな本知らないって言ってたし」

わたしもこんな本に見覚えはない。・・・けれど、内容には覚えがある。

「・・・・・音楽の世界・・・かぁ」

どこか、魅力的な響き。

音楽は、好き。

だけど、

「―――部活、行かなきゃ」

正直、あまり行きたくない。



「あ、白明はくあ、おはよう」

「・・・おはよう」

「眠そうだね」

「ん・・・朝から部屋の掃除してて・・・」

ウトウトしながら楽器ケースを開ける。

どうして朝から部屋の掃除なんかしてしまったんだろう。

・・・・・眠い。

組み立てた楽器を持ったまま、下のホールを出て階段を上がり、上のホールにむかう。

「えーと・・・午前中は、わたしののってる曲の合奏は無し・・・ずっと個人練かぁ」

上のホールの黒板に書かれた、『今日の練習予定』を確認する。

「はぁ」

あぁ、憂鬱だ。

どうしてこんな部活に入ってしまったのだろう。


我が校の吹奏楽部は、一応、全国大会常連校の一つとされていて、そこそこ知名度もある。

そのため、部員も120人以上と、他の部活と比べて圧倒的に多い。

だから合奏の曲は、毎回実力重視で割り当てられる。

夏のコンクールや、冬のアンサンブルに出られるのも部員の半分以下。

わたしは高校に入ってから、コンクールというものに出ていない。

もう二年生の冬だというのに、今わたしが合奏にのっている曲は、一年生中心の簡単なものばかり。

三年生になってもきっと、コンクールメンバーには選ばれないだろう。

わたしの担当楽器のファゴットは、三年生一人、二年生二人、一年生二人と、計五人いる。

そして四人とも、わたしより圧倒的に上手いのだ。

一つの合奏に、ファゴットは多くても三本ほどしかいらない。

わたしなんて、必要ない。

「・・・・・」

出席の時間まで、あと20分ほどある。

―――みんな練習熱心で、一時間前には既に三分の二以上の部員が、部室である吹奏楽部専用のホールで個人練習を始めている。

二階建てで、一階の通称『下のホール』、二階の通称『上のホール』と、それからいくつかの小部屋があるが、どこも既に人でいっぱいだ。

「練習・・・しなきゃ」

わたしは、そこまで熱心にはなれない。

音楽は好き。

ファゴットは好き。

この学校に入ったのだって、部活が理由。

「・・・・・帰りたい」

でも、違う。

どこか、違う。

やる気なんて、出るはずもない。

「・・・・・練習」

今日は土曜日。

当然、一日練習。

夜まで、帰れない。



わたしはさっさと楽器を片づけていた。

部活が終わり、今は18時30分すぎ。20時まで自主練習が可能で、みんなそれぞれ個人練をしている。

楽器ケースを閉じると、ダブルリード専用の小部屋、通称『aの部屋』に楽器ケースを置いて、わたしは部室を出た。

「さぁ、帰ろう」

こんなことをしているから、上手くならない。

みんなにおいていかれる。

―――――どうでもいい。


歌を歌いながら帰る。

周りには聞こえないように、自分にしか聞こえないくらいの小声で。

寒いけれど、ひたすら歩く。

家までは徒歩で一時間半くらい。

自転車で通っていた時期もあったけれど、

わたしは、この時間が好きだから。



「すみません、あの」



そして

後ろから声をかけられ、


わたしは振り返る。




「うわ・・・」

ツヅミは呆然と突っ立っていた。

「・・・・・変な感じ」

そう呟いたのはリト。

「空気が、空気だな」

イスナが言うと、サクリは可笑しそうに笑う。

「空気が空気なのは、当然だよ。僕たちは今、空気で呼吸してる」

「オレたち、音楽以外でも呼吸できるんだね」

「あたりまえでしょ。ボクたち人間なんだし。・・・変な感じだけど」

物珍しそうに何度も深呼吸を繰り返すツヅミを見て、リトが言う。

「・・・現在位置を確認するためにも、もう少し広い道に出てみましょうか」

セツラが歩き出すと、皆、そのあとをついて行く。

「・・・別行動でも構いませんからね」

そう言ってみるが、やはりついて来る。

「・・・・・」

住宅地を抜けると、車の通りの多い、少し広めの道路へ出た。

「わ、明るい」

ツヅミが思わず呟く。

今は夜。

だが、この道は車の通りが多く、道路の両側には店も並び、街頭も必要ないほどの明るさだ。

「・・・それで、どうするんですか?あなたたちは」

クルリと四人に振り返り、セツラが言った。

「セツラはどうするの?」

サクリが質問に質問で返す。

「イスナはともかく、あなたたち三人に特に目的はないはずです。イスナも連れて四人で遊んできたらどうですか?」

セツラはサクリの質問を無視した。

「勝手なこと言わないでよ。ボクだって探す気でいるんだから」

「え、リト探す気でいるんだ」

ツヅミが意外そうに言う。

「リトにはまだ早いんじゃないのか?」

「ひどいなぁ、イスナまで。まぁ、セツラみたいに早急で必要なわけじゃないけどさ」

「それでは、それぞれ個別行動でいいですね」

セツラは笑顔で小さく溜息をきながら言った。

「俺は、お前といる」

「それならオレもイスナについてく」

「サクリももちろんセツラたちと一緒に行くよね」

「そうだね、リト」

「・・・・・」

セツラは今度は笑顔で大きな溜息をきながら言った。

「皆さん、私がここに来た目的わかってますよね。邪魔しないでいただきたいのですが」

「女の人さらいに来たんでしょ?もちろん、邪魔なんてしないよ」

「うん。これじゃあ本当に、ただの集団ナンパだね」

リトの言葉に、サクリが楽しそうに笑う。

「俺は、セツラが心配だから・・・」

「オレも、イスナが心配なんだって!」

「・・・・・」

セツラは四人の存在を無視し、歩き始めた。

だが、すぐに足を止める。

「どうした?」

イスナが尋ねる。

「歌・・・が、きこえませんか」

「歌・・・?俺にはきこえない」

「きこえるよ、歌。女の子の声だね」

「・・・セツラとツヅミの耳はさすがだね。ボクにはきこえないや。サクリはどう?」

「・・・・・どう、かな・・・」

セツラは、その音色ねいろへと足をむける。

『女性の歌』というものを、きいたことがないわけではない。

こちらの世界から持ち帰ったらしいCDなどが、むこうの世界でもよく売られていた。

その歌をきき、男たちはよく、こちらの世界にあこがれたものだ。

だが、違う。

「・・・なんて、不安定な・・・」

『上手い』とは思う。けれど、とても不安定。

まだ、自分の歌い方というものを―――『自分の音楽』というものを持っていない、透明な歌声。

ひどく、魅力的な―――・・・

「あ、あの子じゃない?」

ツヅミが、一人の少女へ目をむける。

「すごく小さな声だけど・・・『上手い』ね。女の子が歌ってるって、不思議な感じ」

ツヅミが呟き、セツラもその少女の後ろ姿に目をむける。

「高校生・・・ですね」

「この距離なら、俺にもきこえる」

「ほんとだ。ボクもきこえるよ」

「そうだね」

イスナ、リト、サクリの三人も、ぞろぞろとついて来た。

「で、どうするの?このまま五人でぞろぞろとストーキングするわけにもいかないでしょ」

「え、でも、どうするって、なにが?」

歌にきき惚れているらしく、ツヅミはぼぉっとしながらリトに尋ねた。

「だから、声かけるとかさ。だれも行かないならボク行っちゃうけど、いいの?」

「このまま盗聴しながらストーキングっていうのも楽しそうだけどね」

サクリは相変わらずにこにこしている。

「・・・セツラ?」

イスナは思わず、セツラの様子をうかがった。

「私が―――・・・」

セツラは、動揺していた。

「私が、行きます」

彼は、足を速めた。



「すみません、あの」




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