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第41話「夢のような」

それからは本当に恐怖の連続だった。

道中で数々の巧妙に仕掛けられたお化けやらトラップに襲われることになり、一息つく暇もまったくなく、地図の道をただひたすら辿っていく。

蒟蒻なんて仕掛けが序の口だったことに今更ながら気付き、自分の失態を思い出してまたひとり赤くなってしまった。


仕掛けにあうたびに、口から心臓が飛び出しちゃうんじゃないかと思ったけれど、それでも何とか抜けてこれたのは間違いなく健人君のおかげだ。

私1人だったらきっと、その場で固まって動けなくなってしまっていただろう。


「怖いなら目閉じてろ」

「う、うん…」


ぎゅっと強く手を握ってくれた健人君に、怖さを一瞬忘れて、また大きく心臓が高鳴った。

赤面してしまっているだろう顔を隠すようにして俯ける。


つい、差し出された手に甘えてしまったけれど…

これで本当に良かったんだろうか?


必死に健人君の後ろを付いていきながら、繋がれた手にそっと目を移す。


大きな手だなぁ…


すっぽりと自分の手を覆うように握ってくれている少し骨ばった温かい手。

しばらくぼうっと見つめていたけれど、慌てて我に返り首を振る。


や、やだ。

何考えてるんだ、私ってば…

今はそんな事考えてる場合じゃないのに。


「…着いたみたいだな」

「え?」


足を止めて、健人君がそう呟く。


顔を上げてきょろきょろと辺りを見回すと、暗闇の中、数メートル離れた先に祠のようなものがあった。

香帆先輩が言っていた祠というのは、おそらくあれの事だろう。

周りに草木が生い茂っていて、なんだか一層不気味な雰囲気が漂っている。


すると健人君がいきなり視線をこっちに向けたので、何事かと思って驚いていると、健人君は「ほら」と促すように告げた。


「え?」

「持ってるだろ。巾着袋」

「あっ、うん」


そ、そうでした…


しっかりともう一方の手に握り締められている巾着袋の存在をすっかり忘れていた。

視線を落として確認してから、もう一度健人君を見つめる。


視線でくいっと合図されるのが分かって、身体が硬直するのが分かった。


ま、まさか、これを私に置けというのでしょうか…?


「えと、私が…ですか?」

「当たり前だろ」


無情にもきっぱり冷たく言い放たれてしまった。

健人君は繋がれていた手を解き、じっと私が動くのを待っている。


け、健人君、意地悪だ…

祠に置くぐらい、代わりにやってくれてもいいのに…


そこまで考えてから、ハッと気付く。


でもここまで誘導してきてくれたのは健人君なのだ。

思い返してみれば、私はただただ後をついていくだけ。

何の役にも立てていないし、言うなれば足手纏いでしかなかった。


これぐらい私がしなくてどうする!と自分を奮い立たせて、祠に向き直る。


だけどいざやるとなると、やっぱり足が竦んでしまって動かない。


私の馬鹿馬鹿…

小学生じゃないんだから…もういい年した高校生なんだよ!?

こんなの怖がっててどうするの。

置くだけ、置くだけなんだから…


そう自分に何度も言い聞かせてみるも、一向に足が動いてくれる気配がなくて。


隣で健人君が小さくため息をつくのが分かった。


「―――もういい。貸せ」

「え?は、はい…」


ずい、と差し出された手に、言われるがまま大人しく巾着袋を渡す。

健人君はそのままつかつかと早足で祠に歩み寄ると、巾着袋を台の上に静かに置いて、「行くぞ」と歩き始めた。


あまりにもあっけなく終わってしまった事に、私はぽかんと見つめている事しか出来なかった。


こ、こんなに簡単な事だったなんて…


情けなさのあまり泣きたくなる。


「ご、ごめんなさい…」


絶対健人君呆れてるよね…

私なんかとペアを組まされたことに、申し訳なさで胸がいっぱいになる。

他にも健人君と組みたい女の子だって沢山いたのに…


顔を俯けていると、本当にぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。


や、やだ…

こんな事で泣くなんて…


―――――途端に、ぐいっと力強く腕が引かれるのが分かった。


驚いて顔を上げると、健人君はさっと腕時計を確認するような仕草を見せてから、帰り道とは逆の方向に歩き始める。


「け、健人君!?」

「―――いいから黙ってついて来い」


有無を言わさない口調に、私はそれ以上何も言う事ができずに口を噤む。

さあっと顔が青褪めていくのが分かった。


ど、どうしよう…

もしかしなくても健人君のこと怒らせちゃった…?


どうしよう、どうしよう、と同じ事だけが頭の中でぐるぐると渦巻いていく。


もしかしてお仕置きとか、されたりするんだろうか。

森の中に置いていかれるとか…?


そこまで考えて、ぞっとし身体を震わせる。

けれど今の自分に抗えるわけがなかった。


そうこうしているうちに、辿り着いたのは川原のようだった。

視界が暗くて一瞬どこだか分からなかったけど、川の流れるせせらぎの音が微かに聞こえてくる。


そして私はある現象に気付き、この時ばかりは泣いていた事や怖がっていた事もすっかり忘れて、わあっと思わず感嘆の声を上げてしまった。


―――無数の淡い光がゆったりと踊るように舞っていた。

まるで天の川のように、川原がキラキラと幻想的に輝いている。


あまりに美しい景色に、私は呆然としてしまった。


す、すごい…!


「け、健人君、これって―――」


蛍だよね?と興奮しながら後ろを振り向く。

けれどそう尋ね終える前に、いきなり唇に何か熱いものが覆いかぶさってきた。


驚く暇もなく、私はそれを受け入れる。


「んっ……」


何度も何度もじっくりと確かめるように唇を合わせられて、ドキドキと苦しくなるぐらい心臓が鳴るのが分かったけれど、何も考えることができなかった。

荒々しく、けどどこか優しい唇に身体が溶かされていくような感覚…


ぎゅっと瞑っていた目をふと開くと、ばちっと健人君と目があった。

熱っぽい真剣な瞳にドクンと大きく心臓が飛び跳ねる。


―――と同時に、強く身体を引き寄せられてきつく抱き締められた。


「―――」


…え?


何か耳元で囁かれたけど、ぼうっとする思考で聞き取ることができなかった。

耳元に熱い息がかかり、くすぐったさにぎゅっと身を竦める。


だめ…

頭に血が上って何も考えられそうにない。


されるがままじっと身を任せていると、しばらくして健人君が腕の力を緩めるのが分かった。

小さく息をついて私の手をとると、健人君は黙ったまま再び来た道を引き返し始める。


―――きっと今林檎みたいに顔が真っ赤になってる…

ドキドキとおさまりそうにない心臓を持て余しながら、私は健人君の後姿を見つめた。


健人君が何を考えているのか、まったく分からなかった。



―――ねぇ、健人君。

なにを今、考えてるの…?



胸がぎゅっと鷲掴みされたように苦しくなる。



―――――どうして、私にキスしてくれるの…?




声にならない問いだけが、たちまち闇の中に紛れていった。









―――こんにちは。もしくは初めまして。夕氷嘩と申します。

本当にお久しぶりです(滝汗)

更新が本当に遅くなってしまってごめんなさい!たくさんの応援メッセージを下さった方々、本当にありがとうございます;_;すごく励みになりました…!

こんなに長らく更新していないのに、ずっと待っていて下さる方達がいてとても嬉しかったです。ありがとうございます。…本当に一体この話はいつになったら終わるんだ(汗)何年かける気なんでしょう自分…

ちなみに当初の予定の通り行くと、話の筋的に3分の1も終わっていないような…(苦笑)すみません、本当に頑張ります(T_T)


ちなみにこれにて一応合宿編は終了です(←え)

次話の予告ですが、幕間です。

珍しいひとが視点になっております。

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