第31話「何かが変わる日」
いつもより長くなってしまいました……(汗)
最後までお付き合いしていただけたら嬉しいです。
羽織さんの作ったオレンジケーキと紅茶をご馳走になった。
いくらなんでもそれは図々しすぎるだろうと一度断ろうとしたのだが、羽織さんに有無を言わさずリビングにまで引っ張ってこられてしまったのだ。
だが遠慮していたのも束の間、目の前に出されたものを見た瞬間あっけなく心が折れる。
うわぁっ……おいしそう!!
これ、店で売ってるのじゃないんだよね!?
す、すごい……こんなの作れるんだ……
誘惑に見事に負け、おそるおそる口にケーキを運ぶ。
口に甘みが広がった瞬間、ぱぁっと一気に幸せな気分になった。
お、おいしいぃぃ〜〜
柑橘系の微かな香りとケーキの甘さ加減が絶妙で、思わず頬っぺたがとろけちゃうんじゃないかと思ったぐらいだ。
自然と笑顔がこぼれる。こんなに美味しいものを毎日食べれるなんて早坂君が羨ましい。
「すごく美味しいです!!今までで食べてきた中でいちばんってぐらい」
「あはは、口に合ったようで嬉しいよ。なんかそう言ってくれるとすっげー作りがいがあるもんだな。ほら、健人も彰もあんま甘いもの好きじゃねぇみたいだからさ。まあ、小百合だけは甘いものに目がないけどな」
「ええっ!?そうなんですか!?」
信じられないような気持ちで早坂君を見つめる。
こ、こんなにおいしいものが苦手!?
だけど早坂君は黙ったまま冷たい目を返してきただけだった。
その威圧感に1人で勝手に興奮していた自分が急に恥ずかしくなって、しゅるしゅると萎んだ。
「ご、ごめんなさい」
「……なんで謝る」
「だ、だって……なんか1人ではしゃいじゃったから…」
「別に」
早坂君のそっけない短い返事に更に落ち込む。
や、やっぱりうるさかったよね……
自己嫌悪の渦の中にぐるぐると入っていると、羽織さんが突然くっくっと堪えるようにして隣で笑い始めた。
驚いて顔を上げると、羽織さんは心底可笑しそうに笑っている。
「くくく……はは!ごめんなぁ〜こんな息子で。あんま気にしないでくれていーぞ?どーせ拗ねてるだけなんだからさ、そこのお坊ちゃんは」
「拗ねてない。適当なことを言うなよ!」
「よく言うよまったく…。女の子に八つ当たりなんて見っとも無いだけだぞ?」
早坂君は鋭い睨みを羽織さんに向けたあと、深くため息を吐き出した。
重々しい雰囲気にいたたまれない気持ちが襲ってくる。
ど、どうしよう……!!
「あ〜あ、葵衣ちゃんみたいな娘がほしかったなぁ〜。こんな可愛げのない息子なんかより断然マシ!可愛いし、いい子だし、ケーキの美味しさも分かってくれるし、サイコーッッ!!」
「へ、へ?」
「なぁ葵衣ちゃん、いっそのこと養子にこないか?」
「え、え?よっ、養子ですか!?」
「ああ。いや、それよりもっと良い方法があるな……」
そこで意味ありげにいったん言葉を止めると、羽織さんはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「どうだ?葵衣ちゃん。健人のお嫁さんに来てみないか?」
「ぶっ!!!ぅっ、ゲホゲホ……」
予想もしなかった言葉に口にしていた紅茶を噴き出しそうになって、何とか堪えようとしたら逆に胸につまって咳が止まらなくなる。
「大丈夫か?」と私の様子に驚いた羽織さんに背中をさすられながらも、顔が自分で真っ赤になっていくのが分かった。
おおおおおおおお嫁さん!!!!?
あの、は、早坂君の!!!?
お嫁さんってつまり、その、奥さんになるってことだよね!?
は、羽織さん、冗談にしても限度ってものがありますって……!!
「す、すみません。でも、あの、ええっと、そ、その…」
うまく切り返そうとしても、上手な返事がなかなか思いつかず、そのまま言葉に詰まってしまう。
「あはは…ごめんごめん!冗談だからそんなに慌てなくてもいーって!でも、まあ、ちょっと本気だったんだけどなぁ〜…なあ、健人もそう思うだろ?」
(!!!!!)
なっ!!!?
な、なななんで、そこでそんな話を早坂君に振るんですか!!!?
ぱくぱくと魚のように口を開けたり閉じたりしながら、話を別の方向へと転換させたいのに、動揺のあまり言葉が出てこない。
そんなことを言ってみろ!
早坂君のことだ。
きっと「こんなバカなやつが嫁?ふざけんな」と怒りまくるに違いない。
ああ。
清々しいぐらいの沈黙が部屋中に充満している。刺すような空気が痛い。
私は俯いたままこの状況をどうすればよいのか必死に悩んでいた。
こ、これはやっぱり今からでも別の話題を出すしか……!!
でも話題っていったって一体何が……
と、その時。
いきなり腕をとられて、勢い良く誰かに後ろへと引っ張られた。
そしてそのまま、玄関へずるずると強制的に引き摺られていく。
「え、は、早坂君!?」
吃驚して名前を呼ぶと、早坂君は私の呼びかけに背を向けたまま足を止めた。
そして僅かに振り返ったその表情を目にしたとたん、体が強張る。
う、うわあああ〜〜〜!!
や、やっぱり、怒っていらっしゃる……!!
「……もう遅いから帰れ。家まで送るから」
「え、え!?だ、大丈夫です!そんな事までして貰わなくても……!!」
もちろん、恐れ多い気持ちもあるのだが……
なにより今の早坂君と二人で帰ったりしたら、命が無事に済みそうにない。
そ、それだけは避けなきゃ…!
「おいおい、なんだぁ?もう帰っちゃうのか?…まぁ、もう遅いししょうがないか」
後ろからどこか残念そうな羽織さんの声が追いかけてくる。
私は申し訳なく思いつつ、ぺこりと頭を下げた。
「今日はご馳走にまでなっちゃって、本当にありがとうございました。すごくケーキ、おいしかったです」
「いやいや、こっちこそ食べてくれてありがとな。明日もまたウチに来てくれるんだよな?」
「は…」
はい、と返事をしかけて言葉を止めた。
ちょ、ちょっと待って…そもそも今日早坂君の家に来た理由は……
思い出した瞬間、顔がさっと青ざめる。
ああ〜〜〜っ!!
べ、勉強……!!!
「行くぞ」
私が羽織さんに返事を返す前に、早坂君に腕を掴まれたまま強引に外に連れ出されてしまった。
玄関のドアがしまるのと同時に、羽織さんの「じゃあまた明日な〜」と笑顔で手をひらひらと振る様子が視界に入る。
閉ざされたドアを呆然と見つめながら、私は慌てて早坂君の方に向き直った。
「あ、あの…!早坂君、本当に送ってくれなくて大丈」
「うるさい。何か文句があるのか?」
「い、いえ!め、滅相もございません!」
まさに蛇に睨まれた蛙状態。
結局断りきれずに、早坂君に家まで送ってもらう事になってしまい、自分の行く末を案じずにはいられなかった。
***** ***** *****
時刻はすでに夜の7時を回っていた。
外はすっかり闇に包まれていて、空の月も生憎雲ですっぽり覆われてしまっている。
ぽつぽつと街灯の明かりが照らし出されている道路を、私は早坂君の半歩後ろに並びおどおどしながら歩いていた。
うう〜…気まずい……
早坂君の表情は周りが暗くて読み取る事は出来なかったが、怒っているのは明らかだ。
前に私がお酒を飲んで倒れちゃった時もこういう風に家まで送ってもらった事があったが、その時もほとんど会話はなかったけれど、ここまで気まずい空気ではなかった。もう今にも酸欠で倒れてしまいそうである。
なんで早坂君こんなに怒って…
首を傾げながら、ハッとすぐに思い当たる。
そ、そうだった!
も、もももしかしなくとも
私が奥さんになるって言われたの、冗談だとしてもすごい嫌だった……んだよね?きっと……
チクリと胸に小さな痛みが走る。
たとえ憶測だとしても、妙にリアリティーがあった。
思わず自分でもその考えに頷いてしまう。
そ、そうだよね……世間一般にみてもこんな私を誰もお嫁さんにしたいなんて思わないよね。
私だって男だったら、自分みたいなのとは結婚したくないもん……
「ハア……」
自分で言っておいて、なんだか急に落ち込んだ。
取り柄といっても特になにもない単なる本好きの根暗女である自分に、今更どうしようもないと分かっていても悲しみすら湧いてくる。
勉強だって、もともと頭がいいわけでも何でもないのだ。単にいつも必死になって勉強しているから少し出来るだけであって……
現に数学だって自分ひとりの力では全然解けない。
数学………
「……あ!」
わ、忘れてた……!
今日は本当は数学を教えてもらうはずだったのに、結局何もやらないまま厚かましくも何故かケーキと紅茶まで頂いて、単に早坂君に迷惑を掛けただけではないか!!
「は、早坂君……あの、今日は本当にごめんなさい!!」
謝って済む事じゃないけれど……
私は慌てて直角に体を曲げ、早坂君に向けて精一杯頭を下げる。
早坂君は立ち止まると、私を怪訝そうに見た。
「……何が?」
「だ、だって、せっかく数学を教えてくれるって言ってくれたのに……」
「…別にいい。それにそれは第一俺が―――」
「俺が?」
「……何でもない」
早坂君はどこか疲れたようにため息を吐くと、空を仰いだ。
うう……
や、やっぱり迷惑だったよね………
しゅんと項垂れていると、いきなり「ペチッ」と良い音を立てて額を叩かれた。
びっくりして早坂君の顔を見上げると、そのまま髪をくしゃくしゃと掻きまわされる。
「バーカ。明日からみっちり教えてやるから気にするな。まだ試験まで日にちはあるんだし余裕だろ」
気遣いが篭った優しい目に、胸がきゅんと締め付けられた。
きゅ、きゅん?
一体どうしたというんだ、自分は??
ワケの分からない感情に疑問符が飛び交う。
なぜだか早坂君の目を直視することが出来なくて目を泳がせていると、いつのまにか私の家の前までたどり着いていた。
「じゃあ、明日な。学校終わったらすぐに俺の家に来いよ。もしまだ俺が帰ってきてないようなら、先に上がってていいから」
「あ、あの、本当にいいの?早坂くん、迷惑じゃない?」
「それ」
「え?」
そ、それ?
何の事を指しているのか分からず戸惑っていると、早坂君はまた小さくため息をついて言う。
「お前さ、学習能力ないとかよく言われない?“早坂くん”って呼ぶのいい加減やめろって言ってんだけど。また罰でも受けたいわけ?」
「あ……」
そ、そういえば……。
気まずい気持ちを抱えてちらりと早坂君を見つめると、怒りはおさまったのか、目の前の早坂君はいつも通り意地の悪そうな目つきになぜか戻っている。
や、やな予感……
「一回言ってみろよ。お前の場合、こうでもしないと絶対呼ばないままな気がするし」
はは……
まさにその通りなので反論することができない。
私は苦笑いを浮かべつつ、危険を感じて、一歩後ろにさりげなく下がった。
「葵衣?」
絶対零度の微笑みに、逃げ腰になっていた体が凍りつく。
「呼ばないんだったらどうなるか分かってるんだろうな?」という意思が笑顔の裏に含まれているような気がしてならなかった。
だ、だめだ……!
これは呼ばなかったら確実に天国にいくことになる……!!(むしろ魔界?)
その迫力にあっけなく負け、私はごくりと唾を飲み込んで意を決した。
「け……」
早坂君にじっと見つめられているうちに、変な緊張が押し寄せてきた。
体の横でぎゅっと握り締めた手は汗ばみ、心臓は荒れ狂うように早鐘をうち始めている。
しょせん名前、たかが名前なのだ……!
単に「け」と「ん」と「と」という文字をひとつずつ発音するだけですべてが終わると思えば良い。
し、しっかりするんだ、自分……!
すでに混乱しかけている頭に必死に言い聞かせる。
よ、よし!
「け…、け、けけけけけけ」
「おい、何やってんだよ。不気味な笑い声みたいになってるぞ」
呆れ顔の早坂君に、羞恥のあまり一気に顔が熱くなった。
時折吹く涼しい夜風すら今の自分にとったら何の意味もない。
え、えーい!!
もうこうなったらヤケクソだっ!!!
「け、健人くん……!」
い、言ったぁ!!!
言ったぞ、わたし!!よくやった!!
自分を心の中で褒めちぎる。
ものすごい達成感を感じて、無意識のうちに笑顔すら浮かんだ。
私は嬉しさのあまりしばらく意識をべつの場所に飛ばしていたが、ふと何の反応も返ってこないことに気がついて、慌てて我に返った。
おそるおそる早坂君の顔を見つめる。が、私と目が合うと早坂君にそのままスッとすぐに目をそらされてしまった。
「は、はやさか―――」
ギロリと睨みつけられて、反射的に口を噤む。
「あ…えっと、け、健人くん……?」
「なに」
つっけんどんな返答に、肩がびくっと震え上がる。
表情の険しさに冷や汗を感じながら、おそるおそる尋ねた。
「あの、この呼び方って、ずっと……なんですよね?」
なぜか口調まで丁寧になってしまう。
一回呼ぶだけで、かなりの神経が擦り切れたような気がした。
「当たり前だろ。学校では面倒臭いことは避けたいし今まで通りでいいけど、学校以外の場所ではそう呼べよ。……いいな?」
「は、はいっ!!!」
急に声が低くなって凄みを増したため、咄嗟に上ずった声で返事をしてしまった。
早さ――、け、健人君は(うぅ〜慣れない…)私の答えに満足したようで僅かに口元を上げた。
「ああ…それとさっきの話だけど、別に迷惑じゃないから」
「へ?」
「迷惑だと思うようなことをわざわざ俺がする筈がないだろ。とにかくお前が気にする必要は全くないから」
「あ、はい…。えっと、ありがとうございます……」
け、健人君は、優しいから気を遣ってそう言ってくれているのだろう。
躊躇いを感じないわけじゃなかったが、実際に数学のテストが危険であることも否めない事実だったので、今回だけはその好意に甘えさせてもらうことにした。
「じゃあ、俺もう帰るから」
「は、はい…。あっ、送ってくれてありがとうございました!」
ぴょこんと慌てて頭を下げると、健人君はぽんと私の頭に軽く手を乗せてから、帰っていってしまった。
私は今の嘘みたいな出来事にしばらくぼーっとして家の前で立ち尽くしていると、いきなり背後で「キキーッ」と自転車のブレーキをかける音が聞こえた。
「ね、姉ちゃん」
心なしか震えているように感じる声に振り返ると、そこにいたのは案の定、祐だった。
「ゆ、祐?お帰りー今、部活終わったの?今日はどうだった?」
祐はテニス部に所属している。ついでに祐は私と同じ学校の生徒だ。
だけど中学生と高校生は校舎が別になっているので、そう滅多に学校では会うこともなかったりする。
「そんなの今はどうでもいいよ!なぁ、姉ちゃん!今のってあの“早坂さん”だよな!?」
「えっ!?ゆ、祐、見てたの!?」
い、いつから!?
驚いて祐を見ると、祐は仰天したように体を反り返らせた。
「見てたって…う、嘘だろ!マジであの早坂さんなわけ!!?」
「え、え〜っと…有名なの?祐たちの間でも」
「あったり前じゃん!!!だってあの容姿だぜ!?勉強もスポーツも出来るし、性格もクールでカッコいいしさ。うちのクラスの女子だってたまに教室から早坂さんの校庭にいる姿を見れただけで大騒ぎしてるぐらいだし!男の俺でも憧れるよ」
そ、そんなに人気なのか……
改めて健人君の凄さを知って吃驚する。
比較的いつも落ち着いている祐でさえ、めったに見られないぐらい興奮しているのが見てとれた。
「なんでそんな人と姉ちゃんが一緒にいるんだ!?まさか友達!?」
「う、うん…え〜と、そんな感じかな?」
自分でも「友達なのか?」と疑問に思いつつ、曖昧に返事を返す。
知り合いぐらいにしか思われていないような気もするが……
「すげ〜…うわー姉ちゃんを尊敬するわ。しかも、あの早坂さんが姉ちゃんを家まで送ってくれたとかじゃないよな!?」
「ち、違うよ……たまたま会っただけで……」
気づいた時には違う言葉が口から出ていた。
罪悪感を感じつつ微笑んで見せると、祐はほっとしたように一息ついた。
「だよなぁ〜〜!!!あの早坂さんが女の子を家まで送るなんて聞いた事がないし。ああ、びっくりした。もしそんなことあったら前代未聞すぎて他の女の子たちとかヤバイことになってるよな」
祐は苦笑しながらそう言った。
言われて初めてその事実に気が付き、動揺しまくっていた私は「ソ、ソウダネ…」と思いっきりうろたえた返事しか出来なかった。
***** ***** *****
お風呂に入って髪の毛の水分をタオルで拭き取りながら自分の部屋に戻ると、私はそのまま「ボスッ」とベッドに倒れこんだ。
シーツから心地よい洗剤の香りがする。
「はああああぁぁ〜〜〜〜〜」
さっきから何度目になるか分からないため息を吐き出しながら、ごろんと両手を広げて「大」の文字に体を伸ばす。
真っ白な天井を見つめながら、どうすればいいのか考えあぐねていた。
ど、どうしよう……
なんだかどんどん不味いことになってる気がする……
健人君ってやっぱり人気者なんだな……
健人君……だめだ、やっぱりまだ呼ぶのに抵抗があるよぉ〜…
勉強まで教えてもらうことになり……
祐ですらあの反応なのだ。他のひとたちに知られたら、一体自分はどうなってしまうんだろう。身の安全が保障できない事はまず間違いない。
風呂上りで体が冷えたからなのか恐怖からなのかぶるっと身震いする。
時計の秒針のカチカチという音をしばらく聞きながらふと小百合さんから名刺のことを思い出した。
あ…!
そうだ、小百合さんにメールしなきゃ……!
時間はすでに11時を過ぎてしまっている。
私は慌てて体を起こすと、携帯を鞄から取り出した。
どうしよう……なんてメールしたらいいんだろう?
自分の場合、携帯を持っていてもほとんどいつも意味をなしてなかった。
もともと「女の子だから、一応何か危険が降りかかった時のために」と父親から渡されていた携帯だったので、メールをするといっても家族と恵理や由里香や玲ちゃんとぐらいでメモリーにだってほとんどアドレスは登録されていない。
電話もごくたまに緊急時に使うぐらいだ。
私は数十分程度、文章をうったり消したりして、やっとのことで文章を完成させた。
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宛先:小百合さん
件名:白崎葵衣です
本文:メールするのが遅くなってしまってごめんなさい。
今度ぜひ小百合さんとお話してみたいです。
葵衣
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数十分も悩んで内容がたったこれだけかよ!と由里香が見たら散々に言われそうなメールである。
だがメールをうちなれていない自分にとったら、このメールは割と良い出来だった…ように思う。
よし……!
これでいいかな……?
私はメールの送信ボタンを押し終えると、再びベッドに横になった。
じっと宙の一点を見つめていると、ふと今更になってキスされたときのことを思い出す。
思えば今と似たような状態で……
あの時の温かな体温を妙に思い出してしまい、ありえないほど顔が真っ赤になる。
わあああああ〜〜〜!!
な、ななななんで思い出しちゃったんだろう……!!
ど、どうしよう、こんなんじゃ寝れないよ……!!
両手で赤面した顔を覆ってそんな事を心配していたが、3分後にはきっちりと心地よい眠りの中へと誘われていたのだった。
31話の一部をご指摘頂いて修正しました。
教えて頂きありがとうございました><