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第28話「見間違い?」

き、き、来ちゃった……


目の前の煉瓦造りの建物を見て、それから落ち着きなく周りをきょろきょろと見渡す。

玄関先の鮮やかな緑が広がる庭は、マメに手入れされていることが見てとれた。


…早坂君のお母さん、がやったのかな?

そういえば早坂君のお母さんって見たことないかも……お父さんも見たことない……


どんな人なのかな、と想像しかけてすぐに頭をぶんぶんと振った。


長男「彰」、長女「小百合」、そして次男「健人」――――――

見事に才色兼備すべて揃った、神の領域にまで踏み込むぐらいこの美しい姉兄弟なのだ。

早坂君の両親がさぞ素晴らしい人達であることは容易く想像できる。

家族全員が並んで立ったアカツキには―――


「……」


だ、だめ!

神々しすぎて脳内がおかしくなっちゃう!


訂正――想像力の限界を超えるので容易く想像できるなど言った事は戯言でした……


はっと我に返って顔を上げる。


そ、そうだ……!

それどころじゃないんだった……!!


不機嫌なオーラを放っていた彼はいつのまにか鍵を取り出して玄関の扉を開けていた。

おそるおそる顔を上げると、早坂君は冷たい眼でこちらを見つめている。


「早く入れ」


一言そう言い放つと、早坂君は家の中へと姿を消していく。

その後ろ姿を呆然と見つめながら、思考はパニックに陥っていた。


ど、どうしよう……

完全にこれは怒ってるよね?

ここで帰ったりなんかしたら、間違いなく殺されるかも……

うう〜……、やっぱりあがるしかないのかな?


頭を捻って必死に考えるが他に選択肢が思いつかず、結局家に上がる羽目になってしまうほか道はないらしい。

しぶしぶ玄関で靴を脱いで上がると、ちょうど2階から降りて来た小百合さんと鉢合わせになった。


わあ……相変わらず綺麗だなぁ……


今日の小百合さんはは長い茶色い髪を結わずにそのまま垂らしていて、そこらへんのモデルなんか比べ物にならないほど美しい姿に思わず見蕩れてしまう。


小百合さんは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに満面の笑顔で出迎えてくれた。


「きゃあぁ〜!!葵衣ちゃんじゃないっ!!」


前に初めて小百合さんと会ったときみたいに、ぎゅっと抱きつかれる。

その瞬間、甘い良い香りが漂ってきて女の人なのに妙にドキドキしてしまった。


「お、お久しぶりです、小百合さん」


ぎこちなく笑みをつくると、小百合さんは何故かはっと息を呑んだように見えた。


「ああん、もうっ!可愛すぎよ、葵衣ちゃん!!」


「え、え?」


そんなわけない。

むしろ可愛いのは貴女ですって……

相変わらず、小百合さんの目のおかしさも健在のようだ。


「今日はどうしたの?まさか私に会いに来てくれたとか?」


「え、えっと……」


ここのところ色々あって頭から抜けていたけど、小百合さんは私の尊敬する作家「天音夜椰」さんなのだ。

今でも信じられないような衝撃……

だってこんな身近に、しかもこんなに綺麗な人だったなんて驚かない方がおかしい。

実はあれから小百合さんに一度で良いから本の話を聞いてみたいなぁ〜なんて密かに図々しくそんな事を考えたりしていたし……


すると、いきなり背後から声が聞こえた。


「…んなわけないだろ。暇な姉貴とは違って、勉強すんだから邪魔するなよ」


吃驚して後ろを振り返ると、そこには早坂君が立っていた。


「ひ、ひまっ!?アンタ、それ誰のこと言ってんのよ!!」


「姉貴」


「なんですってぇ!?これから出版社に打ち合わせに行こうとしてるお姉さまに向かってその台詞!?」


「ああ。あの担当の人、この前姉貴がどっか遊びに行ってる間に姉貴が全然仕事しないって散々喚いてたし」


都子ミヤコめぇ……人のいぬ間に」


小百合さんはそう言って、悔しそうに唇を噛み締めている。


…もしかしてお仕事行き詰ってたりするのかな?


「……ん?って今アンタ勉強するって言った?」


「ああ」


「葵衣ちゃんと?」


「ああ」


「…アンタの部屋で?」


「ああ」


早坂君が同じ答えを淡々と返すたびに、だんだんと小百合さんの眉間にしわが寄っていく。

そしてそのまま黙り込んでしまったかと思うと、小百合さんが急に叫んだ。


「な、な、なんですって!!!?」


「五月蝿い。早く仕事行けって」


早坂君が面倒臭そうにため息をつく。

そんな早坂君の態度が気に入らなかったのか、小百合さんの表情がより一層険しくなった。


「ふざけんじゃないわよ!!このまま私が見過ごして仕事に行くとでも思ってるの?」


「ふざけてない。いいからさっさと行けよ。行かないなら今すぐあの担当の人に強制的に姉貴を連れて行くよう電話するけど?」


「なっ……!だって彰も今日はいないのよ!?」


「知ってる」


即答する早坂君の言葉を聞いて小百合さんは眉間にしわを寄せたまま、また黙ってしまう。

小百合さんは気持ちを抑えるかのように目を伏せていたが、数秒していきなり大きく目を開いた。

そしてそのまま、「ニヤリ」と唇を上げる。


「じゃあ、私は行ってくるわ」


え……えぇっ!?


今の話の流れでどこからそんな、と思うような言葉に仰天している間に小百合さんはいつのまにかヒールの靴を履き終えている。


ええ?

だ、だって、よく分からないけど、小百合さん出かけることを渋っていたのになんで急に…?


早坂君も驚いたのか、不審そうに小百合さんのことを見つめている。


「さ、小百合さん……?」


「葵衣ちゃん、ごめんね〜!残念だけど、お話はまた今度しましょ。私のメアド渡しておくから今日の夜、メール送ってくれる?」


そう言って小百合さんは白いオシャレな鞄の中からお財布を抜き出し、そこから名刺サイズの白い紙を私にくれた。

そこには綺麗な字で小百合さんの「早坂 小百合」という文字と携帯のアドレスと番号が載せられている。


さっ、小百合さんの!?

いいんだろうか私がこんなのを貰ったりして……


私が頷くのを見て、小百合さんは満足そうに「楽しみにしてるわね♪」と微笑むと早坂君に向き直る。

小百合さんは微笑を深くして言った。


「……ふふ♪健人、覚えてなさいよ」


……あれ?

今、なんか――――


一瞬、小百合さんの微笑んでいる姿があの早坂君の「悪魔の微笑」とかぶって見えてしまった。

ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、小百合さんはいたずらっ子のように笑っている。

どう見ても「悪魔の微笑」ではない。

やっぱり私の見間違いだったのようだ。


そんなわけないよね……

小百合さんだもん……。私目でも悪くなったのかな?


そして小百合さんは「それじゃあ葵衣ちゃん、またね」と言い残して嬉しそうに出掛けて行ってしまった。










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