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第27話「開始宣言」

ど、どうしよう………。


HRの終わりを告げられたにもかかわらず、座ったまま動けなかった。

膝の上で拳を握りしめじっと机を見つめていたが、頭の中はきれいさっぱりに真っ白……。

嫌な汗が背中を伝っていくのが分かる。


うぅ……

なんであのとき何も考えずに逃げ出しちゃったんだろう。

馬鹿にも限度がある、ってまさにこの事だ。


今日は恵理も由里香も玲ちゃんもみんな用事があって、一緒に帰ることができない。なんでこういう時に限って……と思わず愚痴をこぼしたくなるほど、謀ったようなタイミング。


「どうしよう……」


今度は口に出して呟いてみる。そうしたところで何も変わらないのは分かっていた。だけど、口に出さなきゃやっていられないほど追い詰められているのもまた事実で。


あの場を逃げ出したあと、形振りかまわず教室にかけこんだ。

胸をおさえて上がった息を静めながら、そこでやっと気付く。

……なんて自分は馬鹿なことをやってしまったのか、と。

その途端激しい後悔が胸を貫き、先生が教室に入ってくるまで私はその場に呆然と立ち尽くしていた。


頭、痛くなってきた……


やってしまったことは取り戻せない。

けれど、あの時は本気で怖かったのだ。今だってマブタに焼き付いて離れない。

あの鋭い視線に冷たい表情……

見た瞬間、体が凍りついた。彼に纏わりつく重い空気がひしひしと体に伝わってきて、恐怖のあまり耐えられなくてつい逃げ出してしまったが………


なにかまたやらかしてしまったんだろうか……無意識に……


はっきりとした確信はないけど…けど早坂君、怒ってたよね?

だとしたらなにが早坂君の怒りに触れちゃったんだろう……もしかして昨日、返事をすることを私が渋っていたから…とか?


今日だってこれから一体どうなってしまったんだろう?

早坂君の家で勉強を教えてもらう約束……

確かに昨日約束してしまったけれど、細かいことは何一つだって決まっていなかった。

まさか学校から一緒に家に向かうなんて天地がひっくり返ってもありえないし……

かと言って早坂君の家の前で待っているわけにも……


今この状態で早坂君に会うのは非常に気まずい。考えるだけで怖くて泣きそうだ。

でも約束をすっぽかしてしまったら、それこそどうなるか分からないし……


う、うわーん!!!

もう、どうしたらいいの?


教室掃除の係の人の邪魔になってしまうので、いつまでも席についているわけにもいかず、とぼとぼと校門まで歩き始める。


しょうがないよね……校内で人気者の早坂君に私が話しかけたりなんかしたら、リンチになるのは確実だし……

とりあえず一回家に帰ろう。それから様子をみて考えるしかない。

それに……もしかしたら早坂君も忘れてるかもしれないし。


自分を納得させるように1人で「よし」と小さく頷くと、私は駅へと足を向けた。



***** ***** ***** ***** *****



それは改札を通り抜けて、駅の構内から出たときのことだった。

改札の脇の壁に寄りかかるようにして立っている、背の高い1人の男子生徒。

人目を避けるように隅のほうにいるにもかかわらず、彼の人並み外れた美貌に惹きつけられ、たくさんの視線が集まっていた。


その姿を目にした瞬間、私は咄嗟にばっと背を向けた。

理解不能な情報を猛スピードで頭の中で解析していく。


い、いまのはなに……?

まぼろし……幻だよね……?

は、走りすぎて目も疲れちゃったのかなぁ?

うん、そうに違いないよね!はは……


――――その時。

急に「ゾクッ」と背筋が震えた。

周りの空気の温度が信じられないような速さで急激に冷えていく。


どくどくどくどくどく……


体を硬直させたまま、激しい鼓動だけが胸の中に響き渡る。

背中に痛いぐらいに感じるのは、突き刺さるような強い視線。

振り返っちゃいけない…振り返っちゃいけない…と警鐘がうるさいぐらいに頭の中で鳴り響いていく。


鞄を右手にぎゅっと握り締めて、俯く。

だらだらと大量の冷や汗が額に浮かぶのを感じた。


ど、ど、ど、どうしよう……!!!


緊張のあまり視界が涙でぼやけていく。

そうこうしているうちに、規則的な足音がだんだんとこちらに近づいてきた。

そして、真後ろでその音はピタっと止む。


「!!」


呼吸が止まったような気がした。

その瞬間、左腕を強く掴まれたかと思うとぐいっと体を反転させられる。


「きゃ」


バランスを失って転びそうになるのを何とか踏みとどまる。

驚いて顔を上げるが、それを目にした途端、顔がひきつった。


ひ、ひえぇっ………!!!


「は、早坂くん………っ」


まさに彼は「不機嫌」そのものだった。

あの悪魔の微笑みですらどこにも見当たらない。

無表情であるがゆえに、彼の精巧な顔立ちがより一層際立っているが、今はその美しさが何か不吉なものを象徴している気がしてならない。

淡い期待ががらがらと虚しくも目の前で崩れ去っていく。


目を見たら最後だと分かっていたのに……

視線が絡まると、捕らえられてしまったかのように視線がそこから動かせなくなってしまった。


「……っ…ぁ……えっと……」


だめだ。

声がどうしても震えてしまう。


すると、早坂君はふっと口元を緩めた。

そして抑揚のない、淡々とした声で告げる。


「……なぁ?なんで今日逃げたんだ?」


「……っ!」


「俺のことは無視しておいて直樹とは楽しそうに喋りやがって……随分偉くなったもんだな?お前も」


「そっ、そんなつもりじゃ…!」


「直樹」って芳沢君のこと…だよね?

た、たのしそうって……芳沢君とはあの時たったニ、三言しか言葉を交わしていないのに……


「ふーん?そんなつもりじゃなくても、こっちはそれなりに傷ついたんだけど?」


「ご、ごめ……」


「責任とれよ」


「え?」


目を丸くして聞き返すと、左腕を掴んでいる手の力がコモる。

ばくばくと心臓の暴れまわる音が耳にまで響いてくる。


な、なんだか……

どうしようもなく嫌な予感がするのは気のせい……?


早坂君は体を屈める様にしてわずかに顔を近づけると、囁くように低い声で言った。


「責任取れって言ってんの。俺を傷つけたんだ…それなりの代価は払ってもらうぞ」











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