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第24話「友情とは」

「葵衣ー!アンタ今日どうするの?図書室で勉強してく?」


「ううん、たぶんテスト前だから混んでると思うし……どうしよう。図書館にでも行こうかなぁ」


家に帰っても勉強に手付かずだろうし、最初は学校の図書室で勉強してから帰ろうと思ってたんだけど…


板倉先輩の情報によると、試験1週間前を切ると図書室はいつも自習する生徒達で満員になるらしい。

上級生から下級生まで含め多くの生徒が図書室に殺到するため、想像を絶するほど違った景色が広がるそうだ。


「よし、じゃあ途中まで一緒に帰ろ。…由里香は?もう帰る?」


「帰るよー!さっさと帰って雌蜘蛛を蹴散らす為に対策練らなきゃならないしっ」


鼻息を荒くした由里香が力強く答える。


め、めすぐも!?


驚いて由里香の顔を見つめるが、由里香は平然としたままだ。

思わず眉間にしわが寄ってしまう。


蹴散らすって……駆除する必要性があるほど家に大量に蜘蛛が発生したということ?

だとしたら悠長に構えている暇などこれっぽっちもない筈では……。


思わずうじゃうじゃと蜘蛛がいる様子を思い浮かべてしまい、うっと気分が悪くなって口元をおさえる。


由里香の家ははたして大丈夫なんだろうか……

というか……蜘蛛って性別をどうやって判断しているんだろう?

いつも蜘蛛に出くわすと怖くて咄嗟に逃げてしまうので、まじまじと蜘蛛を見つめたことがないから分からないが……


「あ、あの」


「葵衣?……って、どうしたの!?顔真っ青じゃない!」


一瞬にして恵理と由里香の表情が慌てたものに変わる。


「い、いや、これは別に大丈夫なんだけど……それよりも聞きたいことがあって」


一呼吸置いて気持ちを落ち着かせてから、言葉を繋げる。


「えっと……雌蜘蛛メスグモ雄蜘蛛オスグモの違いってどうやって見分けがつくの?」


その疑問を投げかけた瞬間、あたりの空気が水を打ったように静まり返った。


え……、ええっ!?


焦って2人を見比べるが、両者とも今まで見たことのないような表情を浮かべ、人外のものを見るような目つきでこちらを凝視している。


な、なんでこんな急に静かになっちゃったの!?


どうしたらいいのか分からず戸惑っていると、しばらく経ってから恵理がそんな空気を一掃するように息を吐き出した。


「前々から事あるごとに天然だとは思っていたけど……ここまでくると天然記念物級だわ……」


由里香も呆れたように額を左手でおさえている。


「葵衣……この鈍感娘!雌蜘蛛っていうのは単なる比喩表現で、さっきのファンクラブの奴らのことを指してたのっ!分かった!?」


由里香の畳み掛けるような怒鳴り声に反射的に首をこくこくと縦に振る。

そして由里香は疲れたように目線を宙に上げてから「…ついでに私もさすがにクモの性別の見分け方までは分からないわ」とぼそっと呟いた。


そ、そっか……そうだよね。

よくよく考えてみればすぐにファンクラブの人達のことだって思い当たったはずなのに……。

本当に莫迦だ、わたし……


自分の思考の回転があまりにも鈍すぎて、自分が自分で情けなくなってくる。


「ご、ごめんなさい……」


すると、恵理と由里香がきょとんとして見つめ返してきた。


「なーに謝ってんのよ、葵衣。それがアンタの良さのひとつなんだから。別に怒っちゃいないわよ……ちょっと呆れただけで」


恵理の言葉に由里香がぷっと吹き出した。


「そうそう!私の表現の仕方も悪かったし……」


「そうね」


恵理があっさりと肯定の意を示す。


「はぁ!?」


「だって普通にファンクラブって言えば、葵衣の考えがあんなに飛躍することもなかったじゃない」


きっぱり恵理が言ってのけると、由里香は拗ねたように口を突き出した。


「そりゃそぉだけど〜…アイツらホントにクモみたいなんだもん」


2人のやり取りに思わず笑ってしまった。


本当に……なんでこんなに2人とも優しいんだろう。

2人の気遣いにじんと胸が沁みてくる。

こんな素敵な友達に巡り合わせてくれた神様に感謝の気持ちでいっぱいだった。


ふと思い出したように恵理が言った。


「っていうか由里香、さっきから言おうと思ってたんだけど…。アンタ、来週から試験だって意気込んでたのもう忘れたんじゃないでしょうね?」


「………!!」


由里香の顔からさあっと血の気が引いていく。

どうやら本当に忘れていたらしい。


恵理は「バカ?」と冷ややかな目つきで由里香を睨むと、すっかり言葉をなくしてしまった由里香を無視して帰りの用意を始めた。

そんな様子に苦笑しつつも、ふと違和感を感じて辺りを見回す。


あれ……?そういえば玲ちゃんは……?


「恵理、玲ちゃんは?」


「玲はいつものごとく、バスケよ」


「えっ!?な、なんで!?だって部活動ってテスト一週間前から禁止されてるんじゃ―――」


「先輩達の試合が近いんだって。だから今回は例外で認められたらしいわよ」


「へえぇ〜」


思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

玲ちゃんが前に「今度の試合は負けられない試合なんだ」と意気込んでいたのを思い出す。


そっかあ、試合か…すごいな〜さすが玲ちゃん。

一年生ももう試合に出られたりするのかな?


「まぁ、玲はそこそこ頭いいし部活やっても試験には影響ないでしょ。……誰かさんと違って」


「ちょっと!?なんでそこで私を見るわけ!?」


ちらりと由里香を見つめてきた恵理を、心外だというように由里香が叫ぶ。


「なんでって……この4人の中で一番危機的状況にあるのは間違いなくアンタでしょ。授業中だってほとんど寝てるじゃないの」


指摘されて由里香は言葉にぐっと詰まる。


「ほら、いいから早く帰る準備して。余計な事考えてないで、今は試験勉強に励んだ方がいいわよ。噂によると夏休みに補習があるかもしれない、って話だし」


「ほっほしゅうぅ〜〜〜!!!?」


由里香は素っ頓狂な声を上げてから、腰が抜けたようにへなへなと床に座り込んでしまった。


「ゆ、由里香!?」


慌てて声をかけるが、由里香は呆然とした表情のまま視点の先は一点に固定されて動かない。


「あ、ありえない……なんで高一から補習なんて受けなきゃなんないわけえ?」


「逆に高一から補習を受けるぐらいの成績じゃマズイってことでしょ。このままアンタの夏休みが消えてもいいの?合宿も行けなくなるわよ?」


「よ、よくない!全然よくないっ!!早坂君との素敵☆ラブサマーバケーション計画を崩されるなんて冗談じゃないわ!!ふたりともっ、帰るよ!勉強しなきゃ!!」


「早坂君とのすてきらぶさまーばけーしょん計画」?

なんだ、それは……?

いつのまに由里香の脳内でそんな計画が進行していたというのだろう?


がらりと態度を変えた由里香がさっさと張り切って教室を出て行く様子を見て、恵理はハアっと溜息をつくと、肩を竦めて「単純なやつ……」と呆れ顔で呟いた。







 










や、約2ヶ月ぶりとなる更新です……。

本当に遅くなってしまってごめんなさい;;

更新履歴を見てもうこんなに月日が経ってしまっていたのか!と思い慌てて……という感じです(苦笑)

もう11月も半ばに差し掛かり……本当に一年って過ぎるのがあっという間ですね(^▽^;)

次話はもうちょっと早く更新できるよう頑張ります!(汗)

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