第22話「救いのチャイム、再び」
なんだか最近早坂君といると前にも増してドキドキする・・・
なんなんだろう?
このぽかぽかとした暖かい気持ち・・・。
ふと気が付けば、目の前ではにっこりと微笑んでいる早坂君。
「葵衣、好きだよ」
そう言って早坂君は私の頬をそっと撫でる。
え?
え?
早坂君!?
いま、なんて・・・!?
早坂君は私の質問には答えず、目を閉じて顔を近づけてくる。
ちょっと待って・・・!?
好きって誰をって今言ったの!?
今のは空耳?
ま、まって、早坂君っ・・・
「お願いだからちょっと待ってぇぇ!!!!」
******** ********
「おいっ、姉ちゃん!?いきなりどうしたんだ!?」
「・・・・・ふぇ?」
目を開けて視界に飛び込んできたのは、心配そうな顔で私を見つめている祐の姿。
早坂、くんじゃない・・・。
あれ・・・?もしかして今のって全部夢??
「姉ちゃん起こしにくればさあ、いきなり『お願いだからちょっと待ってぇぇ』って叫ぶんだもん。しかも魘されながら。姉ちゃんなんか怖い夢でも見てたんじゃないの?(笑)」
祐はそうくすくす笑って言いながら窓のカーテンを開け、硬直して動けなくなっていた私を起こしにとりかかる。
煩いぐらいに心臓はばくばくと高鳴っていた。
ちょ、ちょっと待って・・・とりあえず落ち着こう、私。
今のはつまり夢でぇ・・・
・・・って夢!?
たっ、確か早坂君が私のことを―――・・・・・っっって私なんて夢を!!?////
「・・・姉ちゃん?顔真っ赤だけど大丈夫?熱でもあんの?つーか早く起きないと遅刻するよ?俺ももう行かないと遅刻しちゃうし後は自力で起きてね?母さんも父さんも出掛けちゃって家には誰もいないから」
「・・・うぇっ!!?ま、待って。祐、いま何時なの?」
「8時ちょうどだよ。ほら、姉ちゃん早く起きなって!朝食簡単に作って置いといたからさ。目玉焼きとベーコンとトーストだけどそれで良かった?」
「う、うん!ありがとう・・・祐」
「どういたしまして。それじゃあ俺もう行くから。姉ちゃん、くれぐれも学校行くとき走って転んだりするなよ?」
「しっ、しししません〜〜〜!!(汗)もう子供じゃないんだしっ!!」
「くすくす・・・どうだかなあ?なんだかムキになってない?もしかして図星だった?」
「ち、違いますっ!!!!いいからもう早く学校行きなって!遅刻しちゃうよ!?」
「(いや、むしろそれは姉ちゃんだろ・・・)ハイハイ。じゃあ行ってきまーす」
忍び笑いしている祐の背中を無理やり玄関の外まで押し出すと、私ははぁっと溜息をこぼした。
祐こと、白崎祐は正真正銘血の繋がった、私の1つ下の弟だ。
我が弟ながら昔から几帳面な性格である上にしっかりしていて、私が朝寝坊したりするとこうやって必ず面倒を見てくれるのだ。これではどっちが年上なのか分かりやしない。
にしても・・・朝っぱらから何ていう夢を見ちゃったんだろう。
妄想の次は夢?私の頭は本当に大丈夫なんだろうか?
それこそ熱でもあるんじゃないかと疑わずにはいられない。
病院に行ったほうがいいのかも・・・。
第一冷静に落ち着いて考えてみれば、早坂君があんな事言うわけないじゃない。
はあああぁぁぁ・・・・ありえない。恥ずかしすぎるよぉ〜!!////
私はもう一度盛大に溜息をつき、ふと時計に目をやると・・・・いつのまにか先程から5分経ってしまっている。
私は小さく悲鳴を上げると、慌てて洗面所に駆け込んだ。
***** ***** ***** ***** *****
「おはよう葵衣。ギリギリセーフだったわね」
「おはよー朝からお疲れさん」
予鈴と同時に教室に滑り込み、走り疲れて机に突っ伏した私に恵理と玲ちゃんが声をかけてくる。
「おはよ・・・うん、うっかり寝坊しちゃって。弟が起こしてくれなきゃ完全に遅刻してたよ」
僅かに顔を上げて返事をすると、いきなり前にいた恵理がぶっと吹き出した。
「えっ!?なに!?なんか変??」
な、なんで急に笑ったの!?
焦って玲ちゃんの方を振り向くと、なぜか玲ちゃんまでお腹を抱えて笑い始める。
「アンタ・・・っ、どうしたのよその額・・・っ」
「え?額?」
2人の視線の先は真っ直ぐに額に向けられていて、恵理も玲ちゃんも可笑しそうに笑い続けている。
何が何だか分からなくて手で額に触れると、鋭い小さな痛みが走り思わず顔をしかめた。
お、思い出した。
学校に来る途中、急いで走っていたときに確か躓いて転んだんだった。もしかしてその時に出来ちゃった傷!?
どっ、どうしよぉ〜〜!!
祐にあんな偉そうに啖呵を切っちゃったのにこの傷見られたら転んだ事がバレちゃう・・・・
は、恥ずかしいぞ、それはかなり・・・
姉としての威厳もへったくれもないではないか!
「葵衣の事だから、どうせ何もないところで転んで頭でもぶつけたのね?」
「うっ・・・・」
す、鋭い・・・さすが恵理。
「そ、そんなに目立つ?この傷・・・」
「まあ、前髪で隠せば分からない程度だから大丈夫だよ。気にする必要はないって」
と玲ちゃんが答えてくれたのでほっと一息つく。なんとかバレずにすみそうだ・・・
「ほ、ほんと?良かった・・・ってあれ?由里香は?」
「まだ来てないみたいよ。遅刻じゃ」「あ―――お――――い―――っっ!!!!!!」
恵理の言葉が遮られて聞こえてきた大声にぎょっとして声が聞こえてきた方向を見れば、ぜーはーと息を切らしている由里香の姿が目に入ってきた。そして由里香は鬼のような形相でそのまま猛スピードでこちらに向かって突進してくる。
ひえぇっ!!こっ、こわいっ!!!
「アンタッッ!!!!昨日どうだったのよ!!!!」
「ひっ・・・・・き、昨日、ですか?」
「ふざけんじゃないわよっ!?忘れたなんて言わせないから!!私気になって寝れなかったんだからね!?おかげで寝坊しちゃったじゃない!!」
「あ、あの、何の事だかさっぱり・・・」
「しらばっくれる気!?早坂君よ、は・や・さ・か・く・ん!!歓迎会の途中で酔っ払った葵衣をあの早坂君が送ってくれたんでしょ!?」
「う、うん・・・」
『え!?』
恵理と玲ちゃんが驚きの声を上げる。
「いや、えっと一番私の家に早坂君の家がたまたま近いからって送ってくれただけだから・・・・」
まさか起きたら早坂君の家にいたなんて言える筈もない。
「じゃあ特になーんにもなかったのね!?」
由里香が少し安堵した表情で確認するように尋ねる。
だがその途端早坂君とのキスが脳内に浮かび上がり、自分の顔に熱が集中するのを抑える事が出来なかった。
そんな様子を見た3人の目が驚きで大きく見開かれる。
「え?葵衣?まさかあの早坂君となんかあったの?」
「嘘。本当なの?」
恵理と玲ちゃんがそう慌てて尋ねつつも、どこか呆然とした表情を浮かべている。
「はあっ!!!?ちょっと待ってよ!!!嘘でしょっ!?ねえ、嘘よね葵衣!!?」
いきなり由里香に両手で顔を掴まれると、そのままがくがくと揺さぶられた。
「な、な、な何にもない、何にもないです!!!てかゆ、由里香、首が痛い・・・・いたいって!」
「ホントね!?何にもなかったのね!?」
「は、はい!」
こくこくと何度も首を振る。
するとその時、授業の始まりを告げる本鈴のチャイムが鳴り響いた。
由里香は納得したのか「何もなかったならいいわ」と納得して、顔を掴んでいた手を解放してくれた。
勢いよく頭が揺すられからか、ぐらぐらと視界がまだ揺れている。背中は冷や汗でびっしょりだった。
「まぁー葵衣だしねぇ。何かあるわけ無いわよね」
恵理がどこかつまらなそうに呟くのに、玲ちゃんも苦笑しつつ頷いた。
と、とりあえずピンチは脱出した、けど・・・・・
い、言えない。
今の3人の反応、いや特に由里香のを見たら今までの早坂君との事を話せるはずがない。
むしろ信じてすら貰えないんじゃないだろうか?
まさかあの早坂君と自分が何かあるなんて誰も思わないだろう。
彼と自分の差は天と地の差なのだから………
で、でも妄想じゃなくて確かにキス、したんだよね?早坂君と………。
それに……早坂君はなんで私なんかにキスしたんだろう。
友人3人はもちろんの事、自分ですら気付かないうちに葵衣はそう疑問に思いつつ健人とのキスを思い出し、また顔を真っ赤にしていたのだった。
第二部開始です(笑)お付き合いして頂けたら嬉しいです♪