第18話「映研歓迎会(3)」
「まず自己紹介からすると、俺の名前は知っている人もほとんどだと思うけど映研の部長の板倉栄司です。知っての通り映研の二年の人数は少ないから、これから君達のことを頼りにしちゃう事が多々あると思うけど、その時はよろしく。」
板倉先輩が軽く頭を下げると、隣に立っていた金髪の髪の男が板倉先輩の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょっ…、おい篤朗っ!何を…」
「ちぃーっす!金髪でつり目だから怖いお兄チャンにしか見えねえかもしんねぇけど、心は雨に濡れている子犬を放っておけない不良少年並みに心優しい伊淵篤朗だ♪一応、映研の副部長をやってんでよろしくぅ〜」
「ちょっと篤朗っ!!あんた、そんな自己紹介で恥ずかしくないわけっ!?もうちょっと先輩としての威厳を保ちなさいよ、威厳を!!」
「あ?なんだよ?俺は俺なりに後輩と仲良くなれるようにフレンドリーに接しようと努めてんじゃねえか!」
鷹のような鋭い目つきでぎんっと香帆先輩を睨む。
ち、ちょっと怖いかも……
「よくそんな事が言えるわね!?一年を見なさいよ。皆怯んじゃって、フレンドリーになれるどころかドン引きしてんじゃないの!!しかもどこが心優しいのよっ!!あんたは中身も外見もまさしく不良よ、ふ・りょ・う!!!」
「あぁっ!?」
「2人とも落ち着いて…。一年が戸惑うだろ?初っ端から喧嘩なんかしたら」
板倉先輩が宥めようとするが、伊淵先輩が食って掛かるような勢いで反論する。
「おいっ!栄司!!なんでお前こんな女と付き合ってんだよ!生き血を全部この女に吸い尽くされる前に、さっさと別れないとお前死ぬぞっ!!」
「いや、死なないって……いくら香帆でもさすがに」
「ちょっと2人とも!!私を一体何だと思ってるわけ!?」
激しい口論に呆気にとられてしまう。
というか、香帆先輩って板倉先輩と付き合っていたの?
隣にいる由里香に小声で聞いてみると「私も初耳だよ・・・香帆姉ってば黙ってたな」とぶつぶつ文句を言いながらも驚いているらしい。
周りの二年生はいつもこの状況に慣れているのか、笑いながらますます激しさを増していく口論を見守っていたが、さすがにつかみ合いにまで発展しそうになると慌てて途中で止めに入った。
「ふう…すまなかった。横道にそれたが、このあと歓迎会もあるしさっさと本題に入ろう」
ぜえぜえと息を切らしていた伊淵先輩と香帆先輩の2人に板倉先輩が呼びかけると、私達一年にプリントを配り始めた。
「今配ってるプリントは今年の映研の予定を載せたものなんだけど…。後ろまで回った?」
板倉先輩が確認するように見ると、一番後ろの席に座っていた女の子がこくりと頷いた。
「じゃあ大まかにまず映研の活動内容を説明すると、まあうちが一番力を入れているのは〈文化祭〉なんだ。これは去年もそうだったんだけど自分達で撮った数十分ぐらいの短い映画を文化祭という場を借りて公開させてもらってる。で、今年も7月の合宿で映画を撮影する予定だ。ただ今回はきちんとストーリー構成があってキャスティングも決めようと考えてる。」
周りで小さな驚きの声が上がる。
どうやら一年だけではなく他の先輩達も驚いているらしい。
「まあ確かに今まではあるテーマを決めて特に台詞とかもなく自由に撮ってたけど、せっかくの文化祭だし見に来てくれる人にも楽しんでもらえるようにって事で篤朗と話し合って決めたんだ。撮り方とかも色々変わってくると思うんだけど…どうかな?」
一瞬場が静まり返ったが、次々に「いいんじゃないか」と賛成の声が出てきた。
「なんだか面白そうね!ストーリー仕立てで撮るなんて!!」
「うん、いいんじゃないスか、ぶちょー!!」
一年生もどこか興奮したように、ざわざわとし始める。
それにしても…映画を自分達で撮影できるなんて凄すぎる!
由里香に半分引きずられたような形で何となく入った映画研究会だったけど、思った以上に楽しそうで胸が弾んだ。
ふと前から強い視線を感じてプリントから目をあげた瞬間、気付かなければよかったと激しく後悔した。
なんで一瞬でも目の前に座っている事を忘れてたんだろう…
ホントに馬鹿だ、私…!
必死に目の前の人と目を合わせないようにしていたのに、その努力も虚しく水の泡となってしまいそんな自分にひどく呆れてしまった。
顔は無表情だけどどこか面白そうに目が笑っている早坂君と視線が絡み合う。
すると早坂君の口が小さく動いて、
「1人でニヤニヤしてると変態みたいだぞ」
と周りには聞こえないぐらいの小声でそう呟いたのが分かった。
目を丸くすると、早坂君の口元がふっと僅かに上がる。
……っっ!!もしかして私ひとりで今笑ってたの!!?
しかも見られてたっ!!?
恥ずかしさと「変態」という言葉が思った以上に心に重く圧し掛かってきた。
ショックで呆然と宙を見つめる。
へ、へんたい…
そ、そうだよね、やっぱりあのキスは私の妄想だったんだ…
目の前の悪魔のしっぽ、いや大魔王の角が生えてる人はいつもと変わらない様子だしやっぱりあれは…
「お、おい?」
早坂君の少し焦った様な呼びかけにも答える事が出来ず、脳内には「変態」という二文字がぐるぐると渦巻いていた。
さっきまでの高揚感もいつのまにか吹っ飛んでどこかに行ってしまった。
久々に18話更新しました〜!!
待っていてくださった方々、遅くなってごめんなさい!(>_<)