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第13話「衝撃的な事実」



本当にあがってよかったものか……。


私は気後れしながらも、玄関で靴を脱ぎそのままリビングへと通された。


「俺がアイツ呼んできてやるから、お前は葵衣ちゃんにお茶でも出しといてやりなよ」

「ああ」

「あー、とんでもなく喜びそうだなー」


そうクスクス笑って言いながら、彰さんは二階へと上がっていったみたいだ。


「ほら、そんなとこに突っ立ってないでこっちに座れ」

「あ、うん」


私は促されるまま、ソファーの端っこに座る。

なんだかそわそわと落ち着かず、辺りを見回した。


リビングは広い割には、シンプルですっきりとしていて綺麗に片付けられていた。

所々にアンティークな置物が飾られていて、部屋の隅にはいくつか観葉植物が置かれている。

落ち着いた感じの雰囲気に、いくらか緊張が和らいだようだった。


「あの………早坂君」

「…なんだ?」


早坂君はポットにお湯を沸かしながら、顔だけこちらに向ける。


「彰さんが言ってた〈アイツ〉って……」

「……ああ、すぐ分かるだろ」


早坂君がぶっきらぼうに答えた。


何だか機嫌が悪い……?

さっきまで普通だったのに……また私知らぬ間に何かやらかした?


急にあたりを気まずい空気が包みこみ、私はそのまま黙り込んだ。

時計の秒針のかちかちという音がやけに響く。


い、息苦しい………


すると二階の方から「バタン」とドアを開ける大きな音がしたかと思うと、バタバタと誰かが階段を駆け下りてきたようだ。


………彰さんかな?


しかしその思惑は外れ、飛び込んできたのはウェーブがかかった長い栗色の髪を後ろにひとくくりにした色気のある女性だった。


その女性は、驚きのあまり固まっていた葵衣にぎゅっといきなり抱きついた。


「きゃあああ―――っ!!やっと会えたわね!!私、ずーっとあなたに会いたくてしょうがなかったのよっ」


嬉しそうに叫びながら、更に葵衣をきつく抱きしめる。

彼女のふくよかな胸にちょうど顔を押しつぶされ息苦しさを感じた。


「……姉貴。放してやれ」


早坂君が呆れたように言った。


「あら、やだ私ったら。思わず興奮しちゃったみたいね」


そう言って葵衣をぱっと手放した。


「ごめんなさいね、急に抱きついちゃったりして……。初めまして。健人と彰の姉をやってます小百合サユリです。あなたの事をコイツから聞いてから、あなたに会えるのが凄く楽しみだったのよ」


小百合さんは大人びた外見とは違って、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべて言った。

続けざまに現れた美人に免疫があるわけもなく、目がちかちかするような思いだった。


(早坂家の血ってすごいっ…………!!)


「あっ………えっと、初めまして、白崎葵衣です」


私が顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながらそう言うと、小百合さんは耐えきれずに何故かまた飛びついてきた。


「やっぱり思った通りの子ねっ!!どうしようっ、可愛すぎるわっ!!健人っ、アンタ葵衣ちゃんに手なんか出してないでしょうね!?」

「出してない」


早坂君がため息をつきながら投げやりに言った。


「あの…………一体?」


脳内にたくさんの疑問符がならぶ。

どうして早坂君のお姉さんが私のことを……?

私に会いたかったって……?


早坂君が気まずそうに口を開いた。


「お前に貸してる本……実は姉貴ので。単刀直入に言うと[天音夜椰]って姉貴のことなんだ」


………………え?


私はぽかんとして口を開いた。


「つまり姉貴は小説家なんだ。だからファンだっていうお前のこと聞いて、ずっとお前に会いたいってすっげー煩くってさ」

「ちょっと健人!煩いって何よ!」


小百合さんが早坂君を思いっきり小突く。


「……って……何だよ、本当のことだろ。毎日毎日…人の迷惑もちょっとは考えろよな」

「何ですって!!?」

「おいおい、二人とも。葵衣ちゃんの前でみっともない真似すんなよな……それより健人も早くお茶を出してやりなよ」


いつのまにか下りてきた彰さんが、二人の間に割り込んできた。


「そうよっ!アンタ早く葵衣ちゃんにお茶出してあげなさいよっ!!なんでアンタはそんな昔から気がきかないわけっ!?」

「今まだ沸かし中なんだよ!」


早坂君が苛々したように声を荒らげた。

だが、もはや早坂君と小百合さんが争う声など混乱した私の頭の中には届いていなかった。


天音夜椰さんが小百合さん……?

…………………………。



「ええええぇぇぇぇぇええええっ!!!!!?」



絶叫が、夜中の静かな住宅街にまで響きわたった。




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