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第11話「不用意な発言」

はあぁぁ〜、やっと読み終わった!


本をずっと同じ姿勢で読んでいたためにすっかり凝ってしまった体をおもいっきり伸ばす。

今まで味わったことのないような満足感で胸がいっぱいになっていた。


やっぱり天音夜椰さんってすごい。

当たり前だけど文章や情景描写などの表現もすごく上手で、思いがけないストーリーの展開にはずっと胸がどきどきしっぱなしだった。


でもまさかあんな終わりだったとはなあ〜

なんだか読み終わっても、本の世界からいまいち抜け出せきれない。


その余韻にぼーっと浸っていると、


「読み終わったのか?」


といきなり声がかかった。

驚いて横を見ると、カウンターに寄りかかり床に座って本を読んでいた早坂君がこちらを見上げていた。


「うん、すごく面白かったよ。私ますます夜椰さんのファンになっちゃったみたい」

「だろうな。途中あんな面白い顔で泣いてたぐらいだし」


早坂君がニヤリと笑う。


えっ……!?

まさかあの姿を見られてたの……!?


私が目を見開いて口をぱくぱくしているのを早坂君はなんとも意地の悪そうな顔で見ている。

あまりの恥ずかしさに、顔から火が吹き出そうになった。


こっちを見てるなんて素振りまったく見せなかったくせに……

よりによって泣いてる顔を見られるなんて最悪以外のなんでもない。


あ〜あ、絶対変な顔してたんだろうなあ。

それにしても、なんでこの人はこんな意地悪な事ばっかり言うんだろう。


「…早坂君なんて嫌い」


悔しくなってちょっとした反抗のつもりで小さくそう呟いてみたはずが、早坂君はぴくっとこめかみを動かし鋭く聞き咎めた。


「なんか言ったか?」


これ以上ないぐらいの普通だったら卒倒してしまいそうなほど、綺麗な笑顔をはりつかせて早坂君はそう言った。

ただし目は笑ってはいなかった。

「ひっ」と思わず悲鳴が漏れる。


こっ、こわすぎる……!!


早坂君のうしろに何だか黒いものが渦巻いているように見えた気がした。

み、見間違いか?


私が目を泳がせていると、


「ふーん……」


と早坂君の声が一オクターブ下がった。

この声はまずい、と頭の中で警鐘が鳴り響く。


「もしかして俺に言えないような事でも言ったのか?」


ほ、本当はしっかり聞こえていたくせに……!

絶対にわざとそう言っているに違いない。

というか、この能面を張り付けたような顔。間違いない。


「は、早坂君はかっこいいなぁ……って」


私が顔をひきつらせながら苦し紛れにそう言うと、早坂君はいきなりわたしの頬を引っ張りつねった。


「いっ、いはいっ!いはいよ、はやはかくんっ!はなひてぇ〜〜〜っ」


これは冗談じゃなく、まじで痛いっ!


「そんな嘘ばっかり言う口は必要ないだろ?」

「うほなんはじゃっ……!(嘘なんかじゃっ……!)」

「へえ……この期に及んでまだそんなこと言う気か」

「ら、らって、はやはかくんが……!!」

「俺が何だ」


意地悪ばっかりするから、こんなことになっちゃうんじゃないっ!


「とにかくはなひてぇ〜!!」


あまりの痛さに涙が出てきた。


なんで、こういう時に限って図書室に誰もいないのだろう。

美智子先生も月曜日以来、私にまかせっきりで、すっかり姿を見せなくなってしまったし……


「謝れよ」

「へ?」


やっと解放され、じんじんと痛みが残るほっぺたをさする。


「俺を傷つけた罰だ。謝れって言ってんだよ、俺に」


な、なんで私が早坂君に謝らなくちゃいけないの?

基はといえば、ぜんぶ早坂君のせいなのに!!


理不尽すぎる要求に、うんと素直に言えるはずもなく―――……



両者の意地の張り合いは、下校時間が過ぎても続いたのだった。




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