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第10話「泣きっ面に蜂!?」

早坂君と放課後に図書室で一緒に過ごすようになって3日が経った。


相変わらず図書室での会話はあまりなかったけど、早坂君のことを少しずつだがだんだんと分かってきた気がする。


まず、本を読むことがすごく好きだということ。


先日、途中まで一緒に帰ったあの雨の日に会話の流れでそういう話になった。


「早坂君って前から放課後に図書室にきてたの?」

「……ああ。そうだけど」

「そうなんだ。体育のときすごかったからてっきりスポーツ少年なのかなって思ってたんだけど、図書室に通いつめてるなんて文学少年でもあったんだね」

「まあ、確かにジャンル問わず本を読むのは割と好きかもな。面白いもんはフツーに面白いし。図書室に来てる理由は一概にそうとは言い切れないけど……」


そう言って早坂君は何故か苦笑した。


「どういうこと?」


図書室に来る他の理由があるの?


「別にたいした事じゃない……それよりお前って天音夜椰の本が好きなのか?」

「うん、って言ってもまだ『星屑』しか読んだことがないから、読み終わったら他も読んでみるつもりだけど」

「ふーん…じゃあ今度うちに来れば?天音夜椰のだったら他のも揃ってると思うけど」

「えっ、ぜ、ぜんぶっ!!!??」

「ああ、多分な」

「ほ、ホント?じゃあ、星屑が読み終わったら他のも借りてもいいの?」


やっぱり早坂君も天音夜椰さんのファンだったんだぁ〜〜

早く言ってくれればいいのに……

もしかしてファンって知られるのが恥ずかしかったのかな?


私がくすくすと笑うのを見て、早坂君が眉間にしわを寄せた。


「はあ……絶対お前のことだからありえない勘違いとかしてるんだろうな。………ったく、そういう事だから読み終わったら言えよ」

「わ、分かった。ありがとう早坂君!」


今、思えば話を上手くはぐらかされただけな気もするけど………


にしても不思議だなあ。

三日前まで全く知らなかった、しかも自分とはいかにも縁がなさそうな人だったのに………


そう。


早坂君は客観的に見てもやっぱりカッコいいひとだった。

今まで全然そういった事に興味がなかったし、まして自分からそんな話をするなんてありえなかったのだけど……


早坂君はスポーツも勉強も出来る、ホントに少女マンガの王子様を絵に描いたような人だ。


私とはまったく違う世界に生きてるような人。


図書室で偶然会わなきゃ、これからも何の接触もないままだっただろうし、もちろんあんな会話もなかったわけで。

最初会ったときは傲慢な態度に腹が立ったりもした。でも、ふとした瞬間にすごく優しくなったりして。


私が図書委員のこの期間が終わったら、あんなふうに放課後、過ごせなくなるのかと思ったら少し悲しなくなったりもした。

だって普段はまったくの「他人」と言っていい。たまに廊下ですれ違っても目を合わせるだけで会話もないのだ。


まあ、それはそれで当たり前なのかもしれない。あんな会話が早坂君と出来ることだけでも、もはや奇跡に等しい。


第一、こんな地味で根暗なメガネ女と話してて楽しいわけがない…よね。

うう〜……どんどん思考がネガティブな方向に突き進んでいってしまう。


「葵衣?お〜〜い、あおいちゃん?すっごい暗いよ。大丈夫?」


はっとして現実に意識をひき戻すと、玲ちゃんが心配そうな表情で私を見ていた。


「えっ?あぁ、うん。平気へーき!」


私は慌てて手をぶんぶん振った。


「そう?ならいいけど……」


玲ちゃんがほっとした表情を浮かべた。

玲ちゃんの優しさにじーんとした。


なんていい人なのだろう……


「葵衣、アンタ悩みがあるんじゃないの?最近なんだか浮き沈みが激しいじゃない。アンタはため込むタイプなんだから。」


恵理の指摘にぐっと言葉に詰まる。

まさにその通りなので、何も言えなかった。


だけどいくら恵理たちでも話すことが出来ないのだ…


「そんなことないよ。き、気のせい気のせい。ちょっとお腹が空いちゃったみたいで、お昼のこと考えてぼーっとしちゃっただけだよ」


私はそう言ってにっこり笑った。

良心がちくちくと痛む。


ごめんね、ふたりとも………


「あれっ、由里香は?」


きょろきょろと教室内を見回すが、姿が見あたらない。

国語の先生は今日は風邪で休んでしまっているため、今はちょうど自習の時間だった。


「由里香は担任にかりだされて、自習時間にやる課題を取りに行ったよ」


ちょうど担任と一緒に重そうにプリントを抱えながら由里香が教室に入ってくる。


「ふぅ〜〜っ、死ぬかとおもったぁ!ったくさとちゃんってホントひとづかいが荒いっ」


さとちゃん、というのはうちのクラスの担任のこと。

四十すぎたおじさんだけど、なかなかダンディな面白い先生だ。


「ははっ、さんきゅーな酒井。お前若いんだからババ臭いこと言うなよな。おーい、俺もう消えるけど、お前らこの時間ちゃんと課題やっとけよー!」


そう言い残して、さとちゃんは教室をさっさと立ち去っていった。

由里香がどさっと隣の席に腰かける。


「はぁぁあ〜〜疲れたぁ……腕がしびれてるよぉ」

「おつかれー」


すると急になにかを思い出したかのように由里香がこっちに振り向いた。


「そういえばさっきさ、小耳に挟んだんだけど早坂君にファンクラブがあるって知ってた!?」

「ふ、ふぁんくらぶっ!?」


思わず声が裏がえってしまった。

恵理はいきなり目を輝かせて聞く体制に入ってるし、玲ちゃんは「へー、さすがだね」と感心したような声を上げている。


「そぉっ!噂によると、おもに上級生のお姉さま方で構成されてて、早坂君に近づく女を片っ端から裏で呼び出してシメあげて排除してくんだって!!まさにリンチよ、リンチ!!ファンクラブにはいると、それなりにルールとかはあるらしーんだけど、フツーに話しかけたりするのは許されてるって………。くっそおぉぉ〜〜!!ぜぇったいファンクラブなんかに見つからずに早坂君と仲良くなってみせるんだからぁ〜〜〜!!!!」


もはや、由里香の叫びはわたしの耳に届いていなかった。


排除にリンチ………?


図書室に放課後は早坂君と二人でいて、

帰りには傘にいれてもらい、

そのうえ、今度家におじゃまする約束してしまった。


………もしかしてこの事がバレたらとんでもなくますいのでは………?


排除にリンチ?

そんなんで済まないのは明らかだ。


重い鋼鉄のハンマーで脳天を突かれたような衝撃。

私はこれ以上ないぐらい真っ青になった。





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