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ルカ・シルバのあんまりな一日。

「おっ、おっ、おっ、おねえちゃあああああんんん!!」


「こらこら、朝も早くからなんという騒々しさなんだ、ルカ。男がそんなに取り乱すもんじゃない。お父さんは情けないぞ」


「ひっひっひっ!」


「ちっ、ちっ、違うんだよ、父さん! これを見て!」


「な、なんだお前。そんな、フリフリのフリルで飾られたきらびやかな女物のパンツをしっかりと両手で握りしめて。まさか、俺達が知らない間に女でも連れ込んだのか? やるじゃないか!」


「まぁ、ルカにも遂に彼女が!? どんな子なの? お隣りのルチアナちゃんみたいな素敵な女の子なんでしょうね? 誘われれば誰とでも寝るような、そんな簡単な女の子だったら、お母さん、許しませんからねっ!」


「ちっがーうッ! おねえちゃん! おねえちゃんが! ボクのタンスを、かっ、勝手に女物の下着だらけにしたんだよ! おねえちゃん! ひどいよ!」


「あっはははぁん。ルカ、あんたそれ履いてみなさいよ。きっと似合うわよ! 一昨日の晩みたく、鏡に映してよく見てごらんなさいよ!」


「ヒィッ! それは、言わない約束だったじゃないかッ!」


「ルカ! ひょっとしてお前、女装癖があるのかっ! まったくなんていうことだ! 俺は常々お前を男の中の男にするための教育を施してきた覚えは全くと言っていいほど記憶にないわけだけれども。我が息子の変態的趣向に僅かな嫌悪感を抱きつつも、ほんの少しだけ興味をそそられる話じゃないか。ほんの少しだけ」


「まぁ、女装癖ですって!? ルカ、本当なの!? お母さん、そんなの、ほんの少しだけ見てみたい気はするけれども、一般的倫理的に考えて、そんな変態行為はちょっと許さないわよ! まぁ貴方の容姿なら女の子の格好をしても違和感ないでしょうから、仕方がないって早々に諦めもつくってものだけれど!」


「ヒィィッ! 父さん母さん、そんなわけ無いじゃないか! そんな、そんな、ボッ、ボクに限って! 女装癖を持ってるなんてワケが、ナナナ、ないじゃないですかッ!」


「あらあら、それはどうかしらねぇ。なにしろ、お父さんの息子だものねぇ。ねえ、お父さん」


「おいおい母さん。食事中に、やめてくれないか。気持ち悪くて食べられなくなってしまうよ。せめて食後のコーヒーの時にしておくれ」


「ええーっ、なになに、なんの話? お母さん、なんのこと?」


「いや、まぁ。俺もルカと同じで、若気の至りってヤツさ」


「昔ねぇ、お父さんったら、幼なじみのわたしの部屋に勝手に入り込んで、わたしの下着やフリフリのスカートを着て、姿見をうっとり眺めながら股間をパンパンに腫らすような、れっきとした変態紳士だったのよ。気心知れた仲じゃなければ街の警ら隊に突き出していたところだったわ。ねぇ、お父さん!」


「ハハハハハ。いやぁ、参ったなぁ。とうとう子供達にもバレてしまったか。アハハハハハ」


「ホホホホホ。まったくもう、お父さんったら。わたし今でも、たまにアレが夢に出てきて、うなされるんですからね!」


「ひっひー! なぁんだ。ルカ、良かったじゃないの! あんたの変態的な女装癖は、あんただけに原因があったわけじゃなかったのよ! 筋金入りの変態のお父さんあっての、変態の子が、あんたってわけだ!」


「コラッ! ルル! お前は実の父親に向かって、変態だなんて、なんてことを言うんだ! ルカに対してはともかくとして、お父さんに対するそんな口のきき方は許さんぞ! 俺を変態だと言っていいのは、母さんだけだ!」


「そうよ、ルル。ルカはともかく、お父さんにはちゃんと謝りなさい。お父さんったら、今でもストレスが溜まると、その発散に、わたしの服で女装しようとするんだから。お父さんの熊のような筋肉がわたしのお気に入りのドレスを着込んだ姿を、ちょっと想像してみてごらんなさい! ありきたりな怪談話なんて足元に及ばないくらい、背筋が寒くなるおぞましさじゃないの。少しは考えてからものを言いなさい」


「はぁーい。お父さん。ごめんなさい」


「うん。許す」


「ちょちょちょっ! ちょっとみんな、会話の端々がおかしいんですけど! ボクは!? ボクに対しての謝罪はっ!? どうして、ともかく扱いなんだよっ!? っていうか! おねえちゃん! ボクの下着はどこへやったんだよっ!」


「下着なら、あんた、今、ちゃんと手に持っているじゃないの」


「ちっがーうッ! 元々タンスに入ってた下着だよ! 男物の、ちゃんとしたヤツ!」


「そんなの決まってるじゃない。全部捨てちゃったわよ」


「なっ、なんだってー!?」


「捨てたの。二度も言わせないでよ。今日はちょうどゴミの回収日でしょー? 業者が回収を終わらせている頃なんじゃないの? 知らないけど」


「あらほんと。おかあさんがちょっと窓の外を確認してみたら、ちょうどゴミの回収業者さんがやってきて、ゴミ置き場に積み上げられた布の塊を、今まさに持って行くところよ」


「おっ、おっ、おっ、おねえちゃああああああんんんん!!」


「いいじゃないか。いい機会だよ。ルカ。ちょうどお前に話があったんだ。お前、来月から法都北高校へ入学する話になっていたんだが、あれ、断ったから」


「えっ? へえぇっ? な、なんですってぇぇぇぇぇ!?」


「ちょっとルカ、あなた、そんな両手で思い切りパンツを引っ張ったら、ゴムどころか生地が伸びてしまうじゃない。破れでもしたらどうするの。勿体ない」


「そーよ。それ、高いんだからね。タンスのだって、全部あんたのお小遣いじゃ買えないくらい高いんだから。あたしが一つ一つ選んであげたのよー? 大切にしなさいよ」


「うきいぃぃ! 今は下着なんて、どーだっていいんだよっ! そんな事より、お父さん! なに言ってんの!? 今、なんて言ったの!? ボクの、北高の入学が、無くなったって、そういう事を言ってんの!?」


「ああ、そのとおりだ。お前が行くのは、北高じゃなくって、あれ、母さん、パンフレットは? どこにしまったっけ?」


「はいはい。ここにちゃんとありますよ。法都立総合魔術女学校。素敵ねぇ。見てこの校舎。かわいい制服! わたしも憧れたものだったわぁ。お腹の中にルルがいなければ、わたしも通っていたかもしれなかったのよぉ」


「まままままっ、待ってよ! 今、女学校って言った? 言ったよね!? 確かに言ったよね! なんでだよお! ボク、男だよおおぉ!」


「あれ、アンタ男の子だったっけ? ひっひ、男の娘でしょーが! 問題ないじゃない!」


「おっ、おねえちゃああん!」


「女装癖があるのなら問題なかろう。お前は外見も、俺の息子だとは到底思えないような、羨ましくも恨めしいほど可愛らしい男の娘だからな。それに、俺の古くからの友人でもある女学校の校長は、女装にも理解と見識のある、度量の大きなやつだ。校長本人が女装癖を持つ変態紳士であることも、男が性別を隠して女学校に入学することに何のためらいもなく了解してくれた変態的決断力の手助けになったことも、明言しておこう。障害なんてなんにも無いじゃないか」


「おっ、おとうさあああん!!」


「ルカ。いいえルカ子。法都立総合魔術女学校は全寮制のお嬢様学校よ。貴方の初めの試練は、まず完璧に女装して、それを何人にも気取られぬように日々を過ごすこと。その試練は、ひいては女学校を主席で卒業し、法都初の男性魔女の称号を手に入れるため。でもルカちゃん、それで終わってはいけないの。貴方の最終目標は、唯一無二の美貌で法都どころか世界全土を驚愕の渦に陥れ、世の女性たちの危機感を煽り立てる美のトリック・スターに成り上がることにこそあるのだからッ! おかあさん応援してるわよ、ルカちゃん! ファイト、ファイト!」


「おっ、おかあさああああああんんん!?」


「あんまりだ……こんなの、あんまりだよっ! どいつもこいつも、あんまりだっ! うううぅ、うえぇん、えーんえーん、あんまりだよぅぅ」


「おいおいルカ。まったく、早速もって世の中の男性たちの狩猟本能に強く訴えかけ、彼らに搾取されるだけに存在する2.5次元世界の美少女が発する記号のような泣き声を上げるだなんて。お前はお前の魂に内包する天性の女性性をまったく無意識に利用しながら最大の効果を上げることに類まれな性能を発揮する、なんていうか、これはもう、変態的な天才だ」


「えーんえーん。こんなの、あんまりだぁ。あんまりな仕打ちだよぉ。えーんえーん」




登場人物紹介


♂ルカ・シルバ♀

家人が残らず眠りについた深夜、一人忍んで姉の下着やフリフリのフリルの付いたブラウスやスカートを、天性のファッションセンスで着こなし、鏡に映った自分の可愛らしさに苛烈な精神的高揚を得るような、現代社会の歪みが生み出した変態。


♪ルル・シルバ♪

フェミニンな容姿の弟の下着を無断で全部捨て、ラブリーなフリルのデザインに定評のある有名女性下着メーカーのものと入れ替えることを趣味とする、生まれついての変態。


♪ルカのお父さん♪

野生のバッファローを連想させる雄々しく荒々しい顔つきに、ディフェンシブタックルのように巨大な筋肉で全身を飾る大男でありながら、家の屋根裏にはキングサイズの女性物のドレスや下着を隠し持ち、毎週水曜日に自分と同種の趣味を持つ男たちと秘密の女装パーティを催し、ストレス発散を試みるような、生え抜きの変態。


♪ルカのお母さん♪

幼馴染の彼が女装趣味者であると知りながら、学生時代に彼の子供を身ごもり、周囲の反対を押し切って出産するといった挑戦者であり、自分の息子のあまりに美しい外見に心底好悦し、息子を女学校に入学させようと画策した挙句、ついうっかり実現させてしまうといった、何者にも屈しない精神を持つ変態。


♪ルチアナ・プラチナム♪

ルカくんの幼なじみ。ルカくんとは乳児の頃から家族ぐるみの付き合いをしている。ルカくんが男でありながら、女学校への入学を果たしたことを知る人物であり、ルカくんの想い人。


♪校長♪

女装趣味に傾ける情熱はルカのおとうさんに勝るとも劣らない。ネット・ショッピングではなく、自らランジェリーショップに赴き買い物することを休日の楽しみにしており、店員に試着を拒絶されることにも何ら動じることのないワンランク上の変態。


♬マジェンタ・ルビー♬

ルカくんのルームメイト。成長期途中にして、おっぱいは乳牛の豊満さ、くびれた砂時計の腰付きと、将来の展望輝かしいトランジスタ・グラマー。あだ名はマギ。


♬エクレア・ショコラ♬

魔女殺傷魔術・呪詛『チョコレート・フォンデュ』の開発者。

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