Stage1-3 Invitation to the Queen's Tea Party.
「じゃあ、さっそくRatを追うか!」樹がやる気まんまんで言う。
「ちょっと待って」
聡がストップを出し、その言葉にみんな注目する。
「Ratを追うことは賛成、だけどその前に一緒にボス攻略をする人たちを集めよう。」
(確かに、ボスの攻略となれば、たった5人ではすぐさま全滅だろう。)
「「賛成」」
僕の声と優の声がかぶった。
「「WWW」」
目を合わせ、二人で笑い合う。
「すみません、お願いしている立場で申し訳ないんですけど、できれば早く合田君を探しにいきたいんだ…。」
細川君が遠慮がちに言う。
「確かに、今は一分一秒でも早くボスの元に行ったほうがいい。となると、どうやって仲間を募るかだな…。」
「玲が見つけ出した、ボス部屋へ続く方法を全体メールで出せばいいんじゃね?」
樹が言う。
「Ratの部位破壊の内容をみんなに教えるのは構わない、
だけど、メールのように記録に残るものを全体に送るというのはリスクが高すぎるかな…」
実際、ここで目立ってしまうと、後々面倒ごとに巻き込まれるのは目に見えている。
「なるほど、つまり証拠が残らず、かつ、多くのプレイヤーに伝える方法があればいいてことだな!」
樹がにやりと微笑む。
(((嫌な予感…)))
僕らが、樹に今から何をするのか尋ねようとする前に、樹は近くにあるビルの中に入っていった。
数分後、ビルの屋上に人影が見え、シルエットから樹であることが確認できた。
「みなすわぁ~~~~ん!(くそでかVOICE)
ボス部屋への行き方、知りたいですか~~~~~!」
ビル、新宿駅の近くにいるプレイヤーが一斉に声の主を捜し始める。
「ボス部屋って言った?」
「どこの馬鹿だ??」
「あのビルの上にいる人じゃない?」
樹はさらに続け、
「ボス部屋にいくためには~~~~!
ネズミの右前足と左後ろ足だけを攻撃し、退避行動を取ろうとするねずみを追いかける必要がありまぁ~~~す!
この内容を~~!同じ高校の人だったり、メールアドレスを知ってる人に拡散してくださぁ~~~い!」
この声を聞いた観衆も徐々にその意図を理解し始め、
「うるせぇぇぇぇ!!」
「誰だよあいつ!」
「ボス部屋だって!?」
「マジか!?」
「録画しろ録画!!」
などと騒がしい声が聞こえる。しかし、しばらくすると。
プレイヤー達が一斉にメールを送り始め、フレンドチャットが鳴り続ける。
そして遠くの広場でも騒ぎが起きている声が聞こえる。
まさかの超力業による周知の方法に、地上に残されている僕達4人はしばらく唖然とし、その後爆笑した。
「いや~喉潰れるかと思ったわw」
樹が戻ってきた。
「思ったわwじゃねーよ!
突然屋上に行って大声出すから、未成年の主張をするのかと思ったわ!」」
樹のあまりのマイペースさに思わず突っ込んでしまった。
「でも、ここからビルの屋上までの距離なら、誰が言ったのかは判別できないし、
ここで聞いた人達がさらにメールで他の人に伝えることによって、情報の出どころをぼかすことができる。良い手だと思う。」
聡が客観的かつ冷静に評価を下す。
「……悔しいけど、今のはかなり上手かった。」
思わずつぶやき、それが樹の耳にも入る。
「だろ?」
「褒めてない。」
「褒めてるじゃん。」
僕も言葉では茶化しつつ、内心感心していた。
樹の立っている向こうの方向から、リーゼントの男がこちらに向かって
歩いてきて、僕達に話しかけてきた。
「よう、さっきの演説なかなか良かったぜ。」
「あ、ありがとう…」
樹はその男の髪の毛を凝視しながら返事をした。
(すごい髪型だな…今日日リーゼントってキャラ濃ゆすぎだろ…)
そのリーゼント男が話を続ける。
「さっきのボス部屋を見つける方法ってのは本当かあ?どうやって見つけた?」
僕が答える。
「別に、ねずみの動きを見ていたらおかしな挙動してるやつがいたから、
部位破壊によってイベントに乗っかれると推測して、パターンを全部試しただけ。
NPCからも猫は罠って情報を得ていたから、こっちのルートが攻略ルートってのは間違いないと思う。」
「すげーな」
「まじかよ、頭の回転滑らかすぎるだろ…」
「ねずみがボスへの道しるべだったわけか…」
いつの間にかオーディエンスが集まっていて、僕達が会話の中心になっていた。
(結局目立っちゃってんじゃん…リーゼントが目立ちすぎなんだよ…)
リーゼントの男が気を取り直したように話を再開する。
「俺の名前は桜木 龍二、岸和田工業高校2年だ。」
自己紹介されたら、こちらもし返すのが礼儀。僕も自己紹介をする。
「初めまして、明修大学附属高校2年、山田マイケルです。」
「……偽名?」
「しかも高校まで偽ってるな」
「山田マイケルはさすがに適当すぎる…」
後ろから3人のこそこそ話が聞こえる。
(静かに!聞こえちゃうでしょ!)
「そうか、山田。これからボスの部屋に行くんだろ?俺たちも一緒に行くぜ」
桜木の後ろから恰幅のいい男たちがぞろぞろと出てきた。ちょと怖い…。
「分かった、一緒に行こう。」
僕のその言葉を聞いた桜木は頷き、大声で観衆に向かって叫ぶ。
「今から15分後にボス部屋へ向かう!
一緒に戦える奴はそれまでに準備を整えてくれ!」
急な大声に僕が驚いていると
「じゃあ、また15分後に」
そう言い、桜木一団は僕達から離れていく。
「滅茶苦茶キャラ濃ゆいな(笑)」
樹がみんなに語り掛ける。
「圧がすごくて少し怖かったです…」
細川君が小声で言う。
「的確な指示と思い切りの良さ、まさにリーダーって感じだったね。」
優が素直に褒める。
「まあ、その思い切りの良さと声の大きさで、ますます僕らが目立っちゃったけどね…」
聡が嫌そうな顔をしている。
「とりあえず15分後には出発だ、それまでみんなで装備やアイテムの確認をしよう。」
僕の提案に全員がうなずく。
「玲の今のステータスってどれくらいなん?」
樹に聞かれたため自分のステータス画面を見せる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
SYSTEM STATUS
Name : Lei Ichijyo
Birth : 20V4 March 3rd
Level : 3
EXP : 240 / 500
HP : 120 / 120
STR(筋力) : 8
AGI(瞬発力) : 12
VIT(耐久) : 6
Weapon :
・ファストブレード(One-Hand Sword)
Armor :
・EDEN初期軽装セット
Accessory :
・None
Skill :
・スラッシュ(Basic Sword Skill)
Condition :
・Normal
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【 INFO 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
行動ログの蓄積を確認。
適性スキル候補を
2件検出しました。
スキル画面から
習得するスキルを選択してください。
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SKILL SELECT
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▶ パワースラッシュ
──────────────────────
力を込めた強力な一撃を放つ。
威力 :100
再使用時間:15秒
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▶ トレース・エッジ
──────────────────────
斬撃の軌跡を記録し、
同じ軌跡を再現する。
威力 :40 × 2
再使用時間:15秒
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
選択中
> パワースラッシュ
トレースエッジ
[決定]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「お、新しいスキル解放された!パワースラッシュとトレース・エッジか…」
新しいスキルを取得できる喜びから、少し声が大きくなってしまう。
「いや、これパワースラッシュ一択だろ!俺も同じ情報出てるしパワースラッシュセットしとこ」
樹が叫ぶ。
(うーん、トレース・エッジは面白そうな性能してるけどな…)
「玲はどうするの?」
横で僕のステータスを見ていた聡が聞いてくる。
「とりあえずトレース・エッジかな…」
「逆張りだねぇ~」
僕がどちらのスキルを選ぶのか、最初から分かっていたように聡が言う。
「え!細川君って今日が誕生日なの!?おめでとう!」
細川君のステータス画面を見ていた優が驚きの声を上げる。
「まじか!誕生日がこのプログラム開始って、運がいいような悪いような感じだな…」
樹が複雑そうな顔でつぶやく。
(へぇー、本当に今日が誕生日なんだ。とりあえず心の中でおめでとうと言っておこう。)
そんなやり取りをしているうちに、あっという間に15分が経過した。
気が付くと、僕達の周りにぞろぞろと人が集まってきた。
「おう!準備はいいか、兄ちゃんたち!」
後ろを振り返らなくても分かる。桜木だ。
「いつでも行けるよ!」
優が気合十分で答える。
「おっしゃ!野郎どもボスを倒しに行くぞ!続け!」
そう言うやいなや、桜木は近くにポップアップしていたRatと戦闘に入る。
そして、事も無げもなくRatの右前足と左後ろ足の部位破壊をして見せた。
(おお!見た目に似合わず繊細な武器捌きだな。)
「よし!このねずみを追うぞ!」
ボスへ挑む挑戦者はぱっと見て1000人ほど集まっただろうか、その挑戦者がぞろぞろと
脚を怪我したをしたネズミを追っかける。外から見たらなんて間抜けな絵なんだろう。
そんなことを考えていると聡が話しかけてくる。
「ねぇ、玲、EDENプログラムって何だと思う?」
「何って、Enlightenment & Development for a New Era programつまり次世代を担う若者を育成する教育プログラムでしょ?」
「確かに意味はそうだね…」
僕らの会話に樹が割って入る。
「まじで?EDENって日本語だとそんな意味になるん?」
「将来を決める試験なんだからそのくらい調べておきなよ…」
聡がもっともな意見を言う。
「まぁまぁ、今勉強したし、いいじゃん!でもさ、それならEDNEになんね?」
「確かに…まあ、たまにゴロを良くするために無理やり合わせる時ってあるからね!」
と口で言ったが、確かにおかしい。公式資料にもEDENと書いてあった。
なら誰かが意図的に並び替えたことになる。一体何のために?
「で、話しを戻すけど僕はこのプログラム、ただの試験では終わらないような気がする。」
聡が真面目な顔で話す。
「なるほど、確かにこんなに大がかりなプログラムだもんね、お金も相当かかってそうだし」
「うん、こんなにお金がかかってることを踏まえると、ある可能性としたら…」
「「軍事利用!」」
「やっぱそうなるか~~」
聡と考えが重なったことに安堵しつつ、自分の出した答えに不安が募る。
でも、もうすぐボスの元へ辿り着く、他のことを考えている暇はない。
「その話はボスを倒した後にしよう。今はボス戦に集中だ!」
僕の言葉に納得したのか、聡がうなずき、集団の列に戻る。
部位破壊されたRatはメインストリートから裏路地へ、そして地下鉄の入り口に入っていった。
地下鉄の改札を潜り抜け、電車の来ない線路をしばらく歩くと、右方向にある大きな穴に入っていく。
穴を抜けた瞬間、景色が変わった。
天井が見えないほど巨大な地下空間。
その中央には――中世の城が建っていた。
「まじかい!すっげーな!」
樹が声を上げる。
「まじかい!でっけーな!」
次に桜木が声を上げる。
二人とも同じような感想を同じようなタイミングで発した。
そしてお互い照れくさそうに笑う。
(意外にこの二人、相性いいのかもな…)
城に近づいてみると、壁に何かが掛けられている。よく見ると大きな羊皮紙に文字が書かれているようだ。
(どれどれ…)
ーーーーー女王の法律ーーーーーー
裁判の日はトランプ兵の指示に従わなければならない
白薔薇を赤く塗ることを禁ずる
女王の許可なく時計を見るべからず
『なんでもない日』のティーパーティには招待状を持参すること
誕生日以外の祝い事では必ず紅茶を出すこと
裁判中に居眠りをしてはならない
盗んだものは返さなければならない
女王が質問した場合、三秒以内に答えなければならない
毎月五日は庭園でお茶会を行うこと
:
:
:(中略)
:
:
夜のお茶はハーブティーにすること
新しい仲間を迎える日は赤薔薇と白薔薇を交互に飾ること
『なんでもない日』のケーキにろうそくを立ててはならない
法廷で大声を出した者は迷路を一周しなければならない
誕生日はなんでもわがままを言ってもいい
道をふさいではならない
女王より先に席に着いてはならない
トランプ兵の隊列を乱してはならない
初夏の花たちの演奏会では白薔薇を飾ること
裁判の日は正装で参加すること
ハートのジャックを無断で探してはならない
女王を怒らせた者は首を切られるものとする
『なんでもない日』の準備は全員で行うこと
裁判において証人は二名以上必要とする
白うさぎを追いかける際は走ってはならない
女王の命令と法律が矛盾する場合、法律を優先すること
トランプ兵への命令は女王のみが行える
帽子屋の席を勝手に変更してはならない
法廷ではアリスの発言を妨げてはならない
なんでもない日には「おめでとう」と言ってはならない
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだこれ……」
1000個ほどある法律の文字列を見て絶句する。
「これは、滅茶苦茶複雑なルールだね…」
優も僕と同じ感想を持ったようだ。
「これは…」
聡は法律の一覧を凝視している。
こんなの見て楽しいのか?
それにしても凄い文章量だ、そしてなんとなく目に入った一文を読み上げる。
「裁判において証人は二名以上必要とする…
女王の命令と法律が矛盾する場合、法律を優先すること…か」
(女王より法律が上?)
(普通逆じゃね?)
ぞろぞろと他のプレイヤーも扉の近くに集まってきた。
「うわ、これ全部文字?」
「文字小さすぎてミミズみたいになってるじゃん!」
「やばい、活字アレルギーでそう(笑)」
皆口々に不平不満を述べる。
(正直、これは見ているだけで気分が悪くなるよな…)
もう一度最初から、法律一覧を読もうと文字列を観た瞬間、扉の向こうから叫び声が聞こえた。
「今のはプレイヤーの声か?」樹が叫ぶ
「まだ生きてる、扉を開けるぞ!」桜木が扉に手をかける。
「ちょっとま…」
僕が静止するより先に扉が開いた。
すると城の中では、すでにボスモンスターとプレイヤーが20人ほど相対していた。
しかし、どのプレイヤーもすでに戦意を喪失していて、部屋の隅々に散らばって逃げ回っている状態だ。
部屋の最奥にいるボスモンスターは恐らくハートの女王がモチーフとなっており、血まみれのドレスに身を包み黒く窪んだ目をしている。
相対したプレイヤーが恐怖感を抱くこと間違いなしの不気味なキャラクターデザインだ。
(HPバーの上に表示されている名称はThe Scythe of Proclamation(宣告の大鎌)か…あの見た目なら戦意を喪失してしまうのも仕方ないか…)
「みんな!こっちに避難して!」
優が大声でプレイヤー達に叫ぶ。
その声に反応した一人が発狂しながらこちらへ逃げてくる。
その様子を見て他のプレイヤーも泣きながらこちらへ向かってくる。
そして扉付近まで走り抜けたプレイヤーに僕が尋ねた。よく見ると武器を装備していない…
「これはどういう状況?」
息を切らしながら逃げてきたプレイヤーが答える。
「ここに来る途中で、案内役の猫に武器を奪われた!
全部あのボスに餌を持ってくるための罠だったんだよ!!」
(なるほど、あの猫はスナッチの能力を持っていて、
猫ルートだと武器を奪われた状態でボスと戦わないといけなくなるのか…それが狩場の正体…)
「ボスの姿を確認した、一旦みんなで作戦会議を…」
「うをーーー!お前ら続け!!」
「ボスは俺が倒す!!!」
「負けないんだから!」
「ボスだ!」
「先に攻撃した奴がMVPだ!」
「経験値独占だ!」
「行けぇぇぇ!」
僕が言葉を言い終わらないうちに、ボスを見て興奮したプレイヤーたちが
僕達と桜木チームを押しのけてボス部屋に入っていく。
(えーーーーー。)
「ちょ、ちょっとまって、この部屋がどんなギミックを持っているか分かっていないのに!」
(おいおい…今日日小学生でももうちょっと慎重だぞ…)
あまりの熱気に暴走を抑えきれない。
そして多数のプレイヤーが部屋の奥で待つボスの前まで行ってしまった。
「まずい、この地形は…」
広間の入り口は一つしかない。
もしここで増援が出れば、前に進んだ集団と後ろにいる僕たちは簡単に分断される。
嫌な予感がして撤退しろという言葉を僕が発する前に。
ハートの女王が腰にあるポケットから数枚のカードを取り出した。
(あれはトランプ?何をする気だ?)
そして、トランプを僕達と前進隊の間に投げる
それと同時にモンスターのポップアップのエフェクトが出る。
すると、突撃したプレイヤーと入り口付近の僕達を分断するようにモンスターが出現した。
そのモンスターはトランプのダイヤ・スペード・クラブを模した風貌をした騎士であり、
今までのRatや猫とは比べ物にならないHPゲージの長さをしていた。
さらに悪いことに、トランプ騎士と一緒に大量のRatが現れ、僕達と前進隊は完全に分裂されてしまった。
「玲、どうする?」優が僕に尋ねる。
「どうするも何も――」
そこまで言いかけた瞬間。
トランプ騎士の一体が剣を振り下ろした。
ガギィィィン!
盾役のプレイヤーが吹き飛ぶ。
HPバーが半分近く消し飛んだ。
「僕達でトランプ騎士とRatを倒して、退路を作るしかないけど、今までの敵とはわけが違う…僕達だけでは…」
打開策を考える…。その時背後から声をかけられた。
「おい、俺らを忘れてもらっちゃ困るぜ兄ちゃん。」
「桜木…」
「俺ら全員でかかれば、あのトランプ騎士2体をしばらく抑えられる。
俺らが踏ん張ってる間に、トランプ騎士1体を倒してくれや!」
(信用するしかないか…)
桜木の申し出をありがたく受け、答えるかわりに頷く。
「桜木チームはダイヤ・クラブのトランプ騎士2体を抑えてくれ!
ほかの人達はRatを倒したりフォローを頼む!!
僕達はスペードの騎士を全速力で倒すよ!」
「「「「「「「「「「オウ!!!」」」」」」」」」
僕の全力の大声に皆が答えてくれた。
皆が協力してくれている…僕は僕の役割を果たすべきだ。
部屋の外にいたメンバー全員で部屋の中央付近にいるトランプ騎士のもとへ向かう。
僕たちのターゲットはスペードの騎士。武器は小型の双剣。鎧も軽そうだ。
おそらく敏捷型――。
そう考えた瞬間だった。
スペードの騎士が地面を踏み砕く。
ドンッ!!
「なっ!?」
次の瞬間には僕の目の前にいた。
(はやっ!)
騎士右手に持つ剣が僕をターゲットに振り下ろされる。
なんとか間一髪その攻撃をファストソードで受け止める。
だが、重い。
「ぐっ……!」
腕が痺れる。
スペードの騎士の片手だけで精いっぱいの状況、そのタイミングで左手もまた僕を目掛けて振り下ろされる!
(っ!!)
そう思った瞬間、優が放ったスラッシュのエフェクトが走り、騎士の左手の剣をはじいた。
その一瞬、騎士の意識が優へ向いた。
右手に込められていた力がわずかに緩む。
その隙を逃さず、僕は剣を受け流した。
「優!」
「大丈夫、玲?こいつめちゃくちゃ強いね…」
「こいつかなりやばい、いままでの奴とはレベルが違う…」
僕が呟く。
「どういう戦略で行く?」
聡が聞いてくる。
「右手の剣を僕、左手の剣を優が受ける、その隙に樹は前に出て騎士を攻撃。聡は動きを見て弱点を探してくれ!
細川君は無理しないで、後ろで援護!」
「「「了解!」」」
「はい!」
体制を立て直したスペードの騎士が再び近づいてくる。僕は右手のみに集中。
スペード騎士の剣の動きに合わせてアタックスキルのモーションに入る。
(スラッシュ!)
僕のアタックスキルと騎士の剣が交差し火花が散る。そしてお互いの剣がはじかれ合う。
騎士の右わき腹のガードが薄くなった瞬間を待っていた樹が突っ込む
樹が地面を蹴る。
「うおおおおおっ!!」
樹の両手剣が唸りを上げる。
スラッシュとは比較にならない巨大な光の軌跡。
パワースラッシュが騎士の脇腹を直撃した。
ガァァァン!!
騎士の体が軽く吹き飛ぶ。
HPバーが削れた。
だが――
たった5%。
「最大の攻撃でこのダメージかよ!?」
樹が驚きの声を上げる。
「驚いている暇はない、今はこれを続けるしかない!」
全員に発破をかける。
「もう一回!」
再びスペードの騎士に向かおうとした。
しかし、その瞬間。
スペードの騎士は優へ体当たりを仕掛ける。
優がよろめいた隙を逃さず、そのまま樹にも肩からぶつかった。
ドゴォッ!!ーーー
二人は十メートルほど吹き飛ばされる。
そして、その隙をついて僕に突撃してくる。
(直進的な攻撃がくると分かっているなら、いくら素早くとも…)
騎士の踏み込みと同時にアタックスキルを発動。
一回目の斬撃が騎士に入り、さらに手首を返して一度目の斬撃の軌跡に合わせた二回目の斬撃を喰らわす。
同時に、騎士が少しだけノックバックする。そしてHPバーが4%ほど削れた。
(斬撃の軌跡を記録し、同じ軌跡を再現する剣技。トレース・エッジ!なんとかうまく発動できた。)
しかし、ノックバックが小さすぎたため、すぐさま体制を立て直し、剣を振り下ろしてくる。
攻撃よりもかわすことに全集中力を注ぎ、まずは右手の剣をステップでかわす。
追撃の左手の剣を身を屈めてかわし、もう一度トレース・エッジを発動。
一度目の攻撃は命中、しかし攻撃の距離を見極められたかのか、綺麗にヒットせず、浅い傷しか残せない。
そして一度目の軌道を見切り、二度目の攻撃もかわせると踏んだのか体を踏み込み僕に突撃しようとしてくる。
(このスキルの弱点は僕も織り込み済み)
僕は右足を半歩下げることで、二度目のトレースの軌道の位置を少し体側に変更。
そして、二度目の軌道に乗ったスペードの騎士に今度こそ攻撃が命中した。
連続のスキルのヒットのおかげか、騎士は3メートルほど吹き飛んだ。
「ごめん玲!」
吹き飛ばされた優と樹が戻ってきた。
「大丈夫、もう一発スキルを入れたい。左右の剣を二人で受けてくれ!」
「「了解」」
攻撃を受ける係りを樹と交代。
そして体制を立て直したスペードの騎士が再び向かってくる。
スペードの騎士はダメージを入れた量が一番多い僕を狙ってきた。
左右の剣を同時に僕に振り下ろす。
その瞬間、その動きに合わせた優と樹のスキル、スラッシュが発動
左右の腕が吹き飛び、体ががら空きになった。
その隙を見逃さず、三度目のトレース・エッジ発動。
一度目の斬撃が入る。
騎士は先ほどのように突っ込んではこない。
距離を取ったまま二撃目を警戒している。
(学習したか。)
さっきは軌道をずらした。
なら今度も同じことをすると予測するはずだ。
その予測を逆手に取る。
僕は何も変えない。
(さっきと同じだと思ったか。)
通常通りの軌道で放たれた二撃目は、
騎士の防御をすり抜けるように命中した。
二度目の斬撃がヒット、先ほどよりさらに遠くに吹き飛んだ。
「よしっ!」
(このまま押し切れるか…)
トランプ騎士との距離が少しできたため、周りの戦況を見る。
現在、桜木チームのメインメンバーはクラブの騎士との戦闘をしている。
その後ろでダイヤの騎士を数人がかりで抑えているが、どうやら分が悪いようだ。
そして、ダイヤの騎士が数人のプレイヤーを振り払い。桜木の戦う場所に移動。
桜木一団に向かい、大剣を振り上げた!
(やばい!)
「桜木!!」
僕が危険を感じたのと同時に樹が叫ぶ。
(ここで桜木が倒れれば戦線が崩壊する…何か、何かないか…)
そう思った瞬間、人ごみをするりと通り抜ける影を見た。
その影は、攻撃を今にも受けそうな桜木の後ろに立ち、ダイヤの騎士の前に立つ。
「危ない!」
あまりにも細く弱弱しいその背中に僕が叫ぶ。
しかし、その背中はダイヤの騎士の攻撃にひるむことなく剣を構える。
(まさか、あの大剣を受ける気か!?あの細い剣では無理だ!)
「無茶だ!よけ…」
僕がそう言い終わる前に、影の細剣とダイヤの騎士の大剣が交わる。
すると、大剣は流れるように細剣の刃を滑り地面に突き刺さった。
(凄い、完全に受け流した!)
「凄い…完璧なタイミングだ…」
僕と同じく向こうの戦況を見ていた聡が感嘆の声をもらす。
奴は何者かとその影を凝視すると、なんと!
その横顔と美しい黒髪を見た瞬間、思わず目を見開く。
(あの時の――)
ゲーム開始直後。
僕より先にRatを倒し、大勢のプレイヤーに囲まれていたあの美女ではないか!
彼女もボス攻略に参加していたのか…。
そして、戦場の真ん中だというのに、彼女だけ時間の流れが違うように見えた。
(彼女がいるなら、あっちもしばらくは大丈夫そうだ…となれば、まずはスペードの騎士を全力で倒す!)
「聡!データ集まった?」
「この騎士のおおよその攻撃パターンは分かった、今から伝えるからよく聞いて!」
聡が続ける。
「ターゲットが半径約2m以内に近づくと、左右の剣を同時に振る攻撃
逆に2m以上離れると高速タックルで近づいてくる。
さらに近接攻撃では右剣を振ると見せかけて蹴りしたり、左剣を振ると見せかけて突進するフェイントをかけてくるよ!
そして最後にこいつは受けた攻撃を学習する、二回同じ攻撃は通じない!」
「分かった。高速タックルを防ぐのは難しい、常に誰か一人が半径2m以内に入って
近接攻撃を誘おう。まずは僕が入る!そのうちに聡も含めた3人で総攻撃して!」
「「「了解!」」」
3人の返事を聞き、立ち上がってきたスペードの騎士の射程範囲に入る。
右手の剣のみ振ってくる、フェイントが来る!
その瞬間に騎士の体制がすこし屈んだことに気が付く。
(突進だ!)
急いで剣を盾にしてガード。騎士の突進を受ける。
勢いを受けきれなかったため、後ろに吹き飛ばされる。
でも計算内。
「「「パワースラッシュ!!!」」」
三人の同時スキルが決まった。それにより騎士のHPは残り1/3になる。
「残りHP一気に削りきるよ!」
三人のパワースラッシュによりダウン状態となったスペードの騎士に追撃をかける。
通常攻撃→スラッシュ→通常攻撃→トレース・エッジを短い間隔で繰り返す。
4人の通常攻撃+スキルの連打に耐え切れず、ついに騎士のHPゲージが0となる。
「や、やった」
「やっと一体…」
優と樹が息を上げながらつぶやく。
スペードの騎士との戦いを終えた二人のHPは残り5割程度まで減っていた…。
「よし、桜木の援護を!」
そう言い、桜木の方向を観ようとしたその時。
「うわあああああああああああ!」
「や、やめてくれええええええ!」
ボスと相対しているはずの前進隊の叫び声が聞こえてきた。
見ると、女王 は大きな鎌を降り回し、前進隊のHPを容赦なく削った。
(なんてやつだ…)
そして、前進隊の人数が初めの2/3ほどしか残っていないことに気が付いた…。
第4話へ続く…




