Stage1-1 楽園は微笑む。
世紀暦20××年、新時代を担う高校生への新たな試験として
仮想空間Enlightenment & Development for a New Era program(通称EDENプログラム)が開発された。
そして僕、京都誠心高校2年生、影原…違った一条 玲もこのプログラムに参加していた。
ーーーー世紀歴20×0年4月10日 12時00分 EDENプログラム開始ーーーーーーーーーーー
「ここは…渋谷?」
周りを見渡すと、そこには見慣れたはずの大都会の景色があった。
(なんだろう、なんかちょっと懐かしい感じがする…)
(ていうかなんで、渋谷なんだろ?
プログラムへのログインは京都にある府庁のサーバーから行ったはず。)
「え、ここ渋谷じゃない?遊び行こうよ!」
「これワンチャン、家に帰れるんじゃね!?」
「帰りたいならログアウトすれば〜?」
周りからそんな声が聞こえてくる。
現在僕たちが参加しているのは、EDENプログラム。
正式名称は、Enlightenment & Development for a New Era program(新時代のための啓発と育成プログラム)。
名前だけ聞くと意識の高い教育機関みたいだが、要するに全国共通の適性試験だ。
昔で言う大学入学共通テストやセンター試験に近い。
もっとも、進学希望者だけのための試験ではない。
就職組にとっては企業が参考にする評価資料になり、留学希望者にとっては推薦資料にも使われる。
つまり、高校卒業後の進路を決める上で避けては通れない試験というわけだ。
受験資格は全国の高校二年生全員。
もちろん参加は自由。
自由なのだが――
受けるだけで将来の選択肢が増える試験を、わざわざ受けない人間はほとんどいない。
少なくとも、僕の周りでは聞いたことがなかった。
メニューウィンドウを開き、1番下までスクロールすると、確かにログアウトボタンが存在する。
試しに押してみる。すると次のポップアップが表示された。
「本当にログアウトしますか?
はい、を選択した場合試験を放棄したとみなします。」
そのポップアップを見て、あわてて「いいえ」を選択する。
(ここら辺のボタンは、あんまり興味本位で触らない方が良さそうだな……)
そんなことを考えながらメニュー画面を流し見していると、不意に視界が暗転した。
次の瞬間、目の前に大きなウィンドウが展開される。
周囲でも同時に驚きの声が上がった。
どうやら全プレイヤーに向けた一斉通知らしい。
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WELCOME TO EDEN
Enlightenment & Development for a New Era program
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EDENプログラムへようこそ。
受験者の皆様には、これより仮想教育試験を開始していただきます。
現在地:Floor 1
到達目標:Floor 12
最終目標:
第12フロア最奥に存在するボスエネミーの撃破
試験達成条件:
・各フロアの攻略
・規定課題の達成
・最終ボスの討伐
健闘を祈ります。
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画面の下部には、
【RULE】
【STATUS】
【WORLD GUIDE】
という項目が並んでいた。
「……完全にゲームじゃん。」
思わずそんな感想が口から漏れる。
大学受験だの適性試験だの聞いていたから、もっと堅苦しいものを想像していた。
だが実際に始まったのは、武器とモンスターが存在するRPG世界だった。
周囲を見渡すと、興奮した様子で騒いでいる生徒も少なくない。
むしろ大半が楽しそうですらある。
かくいう僕自身も少しだけ胸が高鳴っていた。
ポップアップから目を離し、周りを見渡す。
ちらほらと見覚えのある顔がある。どうやらこの仮想空間でのアバターは本人そのままのようだ。
(まぁ、アバターの初期設定画面なんて無かったもんな…)
そんなふうに自分を納得させていると、自分を含めて周りにいるプレイヤー全てが武器と防具を身に纏っている事に気がついた。
「なんか剣持ってるんだけど笑」
「やば、ウチらめっちゃコスプレっぽくない?」
「いやもう、颯斗君チョー似合ってるわ〜、まさに勇者じゃね!?」
(さっきからやたらと声が大きくて鬱陶しさ満点のあのロン毛君は誰だったかな?確か同じクラスの、岡…岡、岡田君だったかな?)
「岡部、あんまり茶化すなって笑」
クラス1のさわやかイケメンである萩原颯斗君が答える。
(ああ、岡部君だったか。まあ名前を覚える気もあまりないんだけど。
いやそれにしても本当に元気だな、環境が変わってもいつもと変わらずウザ…、いや騒がしいのは素晴らしいと思うよ…うん。)
と、少しだけ彼の事を称賛しつつ、僕は彼らとは違う!
とひねくれ系ライトノベル主人公のような気持ちで彼らの会話に耳を傾けた。
「なんかボス倒さないといけないらしいね」
「まずは装備強化からかな?」
「いやいや、最初だし初期装備で余裕っしょ!俺RPG結構やってるし!」
「え、GDP?」
派手目な女子が首を傾げる。
(それは国内総生産だ。)
「それは国内総生産な」
萩原君が即答する。
「じゃあIOC?」
(国際オリンピック委員会。)
「IOCは国際オリンピック委員会」
「CCD?」
(それは……分かんない…。)
一瞬だけ思考が止まる。
すると萩原君が平然と答えた。
「荷電結合素子」
(知ってるんかい。勉強になりました…)
意外と博識である。
「じゃあRPGってなに?」
「そこから!?」
周囲からツッコミが飛ぶ。
萩原君は苦笑しながら説明を始めた。
「簡単に言うと、キャラクターを育てながら冒険するゲームかな」
「なるほど、分からん」
「分からんのかい」
萩原颯斗君のジェミニのような丁寧な説明&ノリツッコミを聞きつつ、まるで自分もこのグループの一員かのように会話に聞き入っていた…(涙…)
そして、イケメンかつ僕より博識な萩原君に、この後ちょっと嫌なことが起こればいいのに的な逆恨みをしつつ、メニュー画面で自分の装備を確認する。
所持している武器は一つだけ、腰に装備している武器を鞘から抜いてステータスを確認する。
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【ファストブレード】
武器種:ショートソード
レアリティ:Common
ATK:5
STR:10
説明:
軽量化された片手剣。
素早い連撃に適している。
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(ショートソードか、うーん、武器が一つだけだと比較できないけど、
初期装備だし多分弱いだろうな…
まあでも岡田君の言う通り、最初は初期装備で戦えるでしょ。)
(お、アタックスキルっていうのがある、ちょっと使ってみるか。)
生徒が集まっている広場から少し離れた場所で、スキルを使用してみる。
スキルを発動すると武器が青白く光り、腕が勝手に構えをとる。
右上から左下に軌道を描く剣技「スラッシュ」
初期スキルらしく、分かりやすくていい技だ。
(威力ってどんなもんなんだろ、ていうかモンスターってどのくらいの強さなんだろ?)
そんな事を考えつつ、EDENプログラムの詳細を確認しようと画面を探していると。
「キャーッ!」
「うわっ、なんだコイツ!?」
「え、ネズミ?キモッ!」
10mほど先にいたプレイヤーが何やら騒ぎ出した。
近づいてみるとモンスターがポップアップしていた。
そのモンスターの名称は「Condemned Rat」直訳すると処刑宣告されたネズミか。
処刑宣告が何を示しているかは分からないが、通常のネズミよりも大きく、首にある傷が痛々しいモンスターだ。
あちこちから、悲鳴が聞こえる。
どうやらRatは一体だけではないようだ。
「みんな落ち着いて、まずは武器を手に取るんだ!」
萩原君がリーダーシップを取り、的確な指示をみんなに出す。
「準備できた人からモンスターを囲…」
次の指示が出終わらないうちに、生徒達の傍をすり抜けてモンスターに突っ込む。
ファストブレードを利き手の右手に持ちRatの背面に回り込む。Ratの死角から剣を振り上げて、攻撃。
攻撃は命中し、Ratが短い悲鳴をあげる。その瞬間、RatのHPゲージが3割ほど減少する。
(チュートリアルだけあって、初期装備でもいけそうだな。)
すかさずもう一撃喰らわそうとするが、Ratはジャンプし、僕から距離を取った。
Ratは深く身を沈めた。
前足がアスファルトを引っ掻く。
次の瞬間――
「ギィーッ!」
弾かれたようにこちらへ飛びかかってきた。
(まぁ、そう来るよね。)
僕は慌てることなく剣を構える。
同時にスキルを起動。
刀身が青白く輝き、身体が自動的に動き出す。
だが、ただ発動するだけじゃ足りない。
オートモーションは剣を振るだけだ。
当てるかどうかは自分次第。
飛びかかるRatの軌道を見極める。
半歩だけ身体をずらし、
振り下ろされるスラッシュの軌道をその先へ合わせた。
「おりゃっ!」
「キーッ!」
二つの声が重なる。
閃光。
そして次の瞬間、Ratの身体が真っ二つに裂けた。
HPゲージが一気にゼロへ落ちる。
控えめな破裂音と共に、Ratは光の粒子となって消滅した。
「え……」
「今の見た?」
「一人で倒した……?」
一瞬の静寂。
その直後。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「うぉーーーーーー!!」
「すっげ!」
回りから歓声が聞こえる。
(予想通り、初期モンスターだけあって余裕で勝てた。
コソ練(こそこそ練習)したかいがあったな(笑))
一息ついたのち、リワード画面のポップアップを確認。
どれどれ、どんな感じかな?
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reward
・つぎはぎの皮
・ratの爪 × 2
・ratの尻尾
・コイン × 100
・称号「ファーストチャレンジャー」
「ネズミの復讐者」
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(称号?なんだろうこれ?
ていうか、ネズミの復讐者って何?もしかしてネズミにリベンジされる系?)
そんなことを考えていると、萩原君が声をかけてくる。
「一条君?だよね。凄い戦いだった、こういうゲームってやったことあるの?」
学校では話した記憶はないが、
どうやら僕の苗字は知っていてくれたらしい。
クラスの人気者に認知されていたからといって、
べ、べつに全然うれしくなんてないんだからねっ!!
「いや~、たまたま上手くいっただけだよ!
ゲームは昔ちょっとやってた程度だし!」
奥ゆかしい日本人のお手本のように謙遜してみせる。
そう、一条 玲は謙虚で品性清く、模範的な人物なのだ(自称)。
「でも本当にすごかった!」
「よく突っ込んで行けたね。」
「俺だったら絶対様子見してたわ」
「なんか学校にいるときと別人みたい。眼鏡かけてないからかな?」
「ゆーて、チュートリアルだったら普通っしょ!俺でも多分いけたべ」
僕を称賛する声の中にノイズがまじってるな…あとで岡田を消しとかなきゃ…
と、心の中の許さないノートに岡部の名前を刻みつつ、僕も少し考える。
(確かにこのモンスターは弱すぎた…、アタックスキル一回と通常攻撃一回、
今回使ったスキルはだいたい通常攻撃二回分だから、スキル無しでも三回の攻撃で倒せたことになる。
チュートリアルだからか…?)
萩原君が話しかけてきたために、取り巻きや他のクラスメイト達もわらわらと集まってきた。
みんなからの質問にのらりくらりと答えていると。
100メートルほど先にいる他校の生徒が歓声を上げていた。
どうやら他のRatも次々と倒されているようだ。
(確か、あっちの高校は僕より先にratを倒していたな。)
誰が倒したのか気になり、集団の方を見ていると女の子が大勢の生徒に囲まれている。
(多分、彼女が倒したんだろうな…最初の敵を倒せたのは、別に僕だけじゃない。
全国から集まった高校生二十万人。
プレイヤー中には、僕なんかよりずっと優秀な人間も大勢いるはずだ。)
見ていると、彼女もこちらに気がつき視線が合う。
よくよくみるととんでもなく美人な女子生徒だ。
そんな事を考えていると、また誰かに声を掛けられた。
「一条君、本当に凄いね…
元々凄い人だとは思ってたけど、本当になんでも出来るんだね…。」
そう話しかけてきたのは、気弱そうな男子生徒。
彼の名前は中島 力也君、名前とは裏腹にあまりパワータイプではない。
高校では、彼に助けられたこともあったし、助けたこともあった。
「お願いなんだけど、これから一緒に行動してくれないかな?」中島君が言う。
「あ、待って!俺たちも一緒に行っていいか?」
「な、みんなもそれがいいだろ?」
萩原君が皆んなに問いかける。
「絶対その方がいい!」
「そうしようよ!」
「それな!颯斗まじ冴えてるわ〜」
他のメンバーも口々に同意する。
「ね、どうかな?」
萩原君が僕に同意を求める。
ひと呼吸おき、僕が口を開く。
皆んな僕の回答を期待を持った目で待っている。
「ごめん、他に組みたい人達がいるから君達とは組めない。」
僕は冷静かつ冷淡にそう答えた。
鬱陶しさ満点の岡田と一緒のチームになりたくないわけでもない。
この試験で、誰よりも先に合流しなければならない人達がいるんだ。
「そっか、じゃあ仕方ないね…」
さすが、人間関係のスペシャリスト萩原君。
引き際が分かっていて、あっさりと引いてくれる。
「…」
中島君は無言で地面を見ている。
「ごめんね、そういう事だから…」
そう言って僕は初期位置の広場から離れた。
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広場から離れて、数分歩くと地図屋という看板が目に入った。
なんとこの試験、マップが標準装備されていないのだ!(不親切設計過ぎる!)
「いらっしゃっせー」
NPCだろうか?若くて軽薄そうな男の店番がカウンターに立っている。
その男に近づき地図を売ってほしいと尋ねた。
すると男は答えた。
「MAP:松は10000コイン、MAP:竹なら1000コイン、MAP:梅なら100コインになりやーす」
「松竹梅で何が違うんですか?」
「MAP:松は10000コイン、MAP:竹なら1000コイン、MAP:梅なら100コインになりやーす」
(同じ文言しか喋れんのかい!今時、出来が悪いRPGでももっとマシだぞ!)
そう思いつつ、今の自分の財政状況を確認する。
現在の所持金は10100コイン。
プログラムスタート時に配布されていた分が10000コイン、Ratを倒した報酬で100コインだ。
(松は論外として、今は1人だしある程度しっかりしたマップの方がいいか…)
「竹ください」
「ありゃしたー!」
MAPを買い、店から出る。
MAPを見てみる。
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Floor 1
Area Name : Alice in…
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(Alice?ぱっと思いつくのは不思議の国のアリスだけど…)
(ん?そういえばさっきのモンスターの直訳は処刑宣告されたネズミ… あーそういうことね。)
気を取り直して、このフロアのマップを見てみる。
予想通り、このステージは東京23区と同じエリアになっているらしい。
つまり東京23区内に現在約20万人の高校二年生がいるということになる。
(約20万人のプレイヤーに12階のステージか…、どんだけすごいサーバー使ってるんだか…)
道路脇に座り込みボーっとしていると、一件のメールが届く。
「きたきた」
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現在、池袋で他のみんなと合流。
新宿の西武新宿駅前で落ち合おう。
from:Yuu Hinata
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実は、プログラムスタートと同時にメールを送っていたのだ。
あて先は、幼馴染兼親友でもある日向 優。
彼らと合流しチームを組むために、中島君からの勧誘を断ったのだ。
「行先は決まったし、さっそく新宿に向かいますか!」
歩き出すと、他の高校の生徒だろうか。
数人のグループが道路脇で談笑していた。
「さっきのモンスターまじやばかったね(笑)」
「まんまRPGじゃん!」
「やばい!めっちゃテンション上がってきた!」
誰も恐怖なんて感じていない。
むしろ突然始まった非日常を心から楽しんでいるようだった。
周囲でも似たような歓声があがっている。
友達同士で写真を撮る者、武器を振り回して遊ぶ者、スキルを試し撃ちして盛り上がる者。
そこにいる誰もが、この試験を壮大なアトラクションか何かだと思っていた。
いや――僕もその一人だったのかもしれない。
少なくとも、この時までは。
そして、そのグループの一人が笑いながら言った。
「勉強しなくていいし、ゲームできるしさ。これもう最高じゃね?」
「それな!」
「遊びが評価になるとか神システムだろ!」
「まさに楽園じゃん!」
周囲から笑い声が上がる。
――楽園。
その言葉だけが、不思議と胸の奥に引っかかった。
理由は分からない。
ただ、その時の僕はまだ知らなかった。
この場所が楽園ではなく、楽園を名乗った何かであることを。
そして。
その楽園が、やがて僕たちを選別し始めることを。
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SYSTEM NOTICE
受験者総数
215,389
有効受験者数
215,389
脱落者数
0
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第一話「楽園は微笑む。」を読んでいただき、ありがとうございます。
本作は私が大好きな某VRMMO・デスゲーム作品から大きな影響を受けています。
中でも、物語が始まった瞬間に「続きが読みたい」と思わせる作品に強く憧れてきました。
この作品でも、読者の皆様に少しでもワクワクしていただけるよう、自分なりに全力で物語を描いていきたいと思っています。
まだまだ未熟な部分も多いと思いますが、もし少しでも続きが気になったなら、次話もお付き合いいただけると嬉しいです。
感想や評価も励みになります。
それでは、第二話でお会いしましょう。




