表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

雨の降る公園でめっちゃはしゃいでるJKがいた

作者: 優耀
掲載日:2026/02/13

 雨の日の公園で、ブランコを全力で漕いでいる女子高生がいた。


 しかも制服だ。

 しかもローファーのまま。

 しかも叫んでいる。


「うぇーーーーーい!!」


 いや何がうぇーいだ。


 俺は東屋のベンチに座りながら、その異様な光景を眺めていた。

 雨脚はそれなりに強い。砂場は水たまり、鉄棒はびしょ濡れ。まともな人間はこんな日に公園に来ない。


 まともなら。


 ブランコはぎいぎいと悲鳴を上げ、彼女のスカートは雨と遠心力で好き勝手に翻る。

 靴の裏で水が飛び散る。


「いぇーーーい! 世界一位ー!」


 何の。


 俺は思わず小さくため息をついた。


 顔は知っている。

 同じ高校の二年。クラスは違うが、廊下ですれ違えば軽く会釈するくらいの距離感だ。話したことはほぼない。噂ではやたらテンションが高いらしい。


 なるほど。


 雨の中ブランコ爆走は想像の三倍くらいテンションが高い。


 そのとき、彼女がぴたりとブランコを止めた。

 靴底で地面を強く踏み、ぐるりとこちらを振り向く。


 目が合った。


「ねえ!」


 嫌な予感しかしない。


「見てるなら押してよ!」


 なんでバレた。


「見てない。視界に勝手に入ってきただけだ」


「それを見てるって言うんだよ!」


 理不尽だ。


 彼女はびしょ濡れのまま、ずかずかとこちらへ歩いてくる。

 屋根の下に入った瞬間、水滴がぱらぱらと床に落ちた。


「暇でしょ?」


「雨宿りしてるだけだ」


「じゃあ暇じゃん」


 どういう理論だ。


 彼女は俺の腕を掴んだ。冷たい。めちゃくちゃ冷たい。


「ちょ、冷たっ」


「押して!」


「断る」


「押して!」


「命令形やめろ」


「押して!」


 押しの強さが物理的だ。


 俺は観念して雨の中へ出た。

 数秒で制服が重くなる。靴の中に水が入る。


 最悪だ。


 彼女は満足げにブランコへ戻る。


「もっと高くね!」


「普通に漕げ」


「もっと!」


「落ちるぞ」


「落ちたら受け止めて!」


「無理」


「えー!」


 こいつ、感情のアクセルが壊れてる。


 俺は仕方なく背中を押す。

 雨粒が顔に当たる。視界がにじむ。


「うぇーーーーい!!」


 やっぱりうぇーいなのか。


「今日さ!」


 彼女が振り返る。


「人生最悪ランキング更新した!」


「知らんがな」


「聞いてよ!」


「押してるだろ」


「聞くのもセット!」


 理不尽二連発。


 ブランコが前へ大きく振り出される。


「テストさー! めっちゃ勉強したのに!」


「うん」


「自己ベスト更新したと思ったのに!」


「うん」


「平均以下!」


「それはきついな」


「でしょー!?」


 なぜ嬉しそうに言う。


「しかも!」


 勢いが増す。


「進路面談で“もうちょっと現実見ようか”って!」


「先生は正論だな」


「ひどくない!?」


「知らん」


 彼女は足を伸ばし、空を蹴る。


「なんかさー! 真面目にやってもさー! 報われない日ってあるじゃん!」


「あるな」


「今日それ!」


 ぎい、とブランコが軋む。


「だから?」


「だから爆走!」


 意味が分からない。


「家で泣くのダサくない?」


「別に」


「公園で爆笑のほうが強くない?」


「方向性がおかしい」


 彼女は声を上げて笑った。

 その笑いは妙にまっすぐだった。


「ほら! もっと高く!」


「限界がある」


「限界突破!」


「ゲームじゃない」


 数分後、俺はすでにびしょ濡れだった。

 彼女はさらに濡れているが、気にしていない。


「次! あんた乗って!」


「は?」


「公平でしょ?」


「どこが」


「押してもらったら押す!」


「俺は頼んでない」


「乗れ!」


 命令形がデフォルトらしい。


 俺は渋々ブランコに腰を下ろした。

 冷たい。座面が氷のようだ。


「情けない声出したら動画撮るから」


「脅迫か」


「はい行くよー!」


 彼女が背中を押す。


 予想以上に強い。


「ちょ、待て、うわ」


「いぇーーーい!」


「うぇーいじゃない!」


 前に振られる。視界が揺れる。

 足元の地面が遠ざかる。


「怖っ」


「え、怖いの!?」


「当たり前だ!」


「かわいー!」


「かわいくない!」


 彼女の笑い声が雨に混ざる。


「もっと足伸ばして!」


「無理」


「情けない!」


「うるさい!」


 何往復かして、俺は限界を迎えた。


「止めるぞ」


「もう?」


「酔う」


「弱」


「帰る」


「待って!」


 彼女がブランコの鎖を掴む。

 至近距離。雨粒が頬を伝う。


 さっきまで爆笑していた顔が、少しだけ静かになる。


「ありがと」


「何が」


「今日さ。たぶん、普通に帰ったら普通に落ち込んでた」


「今も落ち込んでるだろ」


「まあね」


 彼女は肩をすくめた。


「でもさ、笑ってるとさ、なんか“まだいけるかも”って気分になるじゃん」


「単純だな」


「単純上等」


 少しだけ間が空く。


「真面目にやってんのに、って思うとさ。なんか悔しいんだよね」


 声のトーンが一段落ちる。


「ちゃんとやってるのに、って」


「……分かる」


 俺は小さく答えた。


 彼女はまたにやっと笑う。


「でしょ? だから爆走」


「理屈が飛躍してる」


「飛躍するのがブランコ!」


「上手いこと言うな」


 彼女はくるりと回って、公園の出口へ歩き出す。


「帰ろ」


「風邪ひくぞ」


「もうひいてるかも」


「馬鹿か」


「馬鹿でーす」


 帰り道は並んで歩いた。

 水たまりをわざと踏む彼女。

 俺の制服はすでに手遅れだ。


「さ」


 信号待ちで彼女が言う。


「明日からまた普通に頑張るわ」


「切り替え早いな」


「だってさ」


 彼女は空を見上げる。


「今日ちゃんと笑えたし」


 雨は少し弱まっていた。


「家で一人で泣くよりさ、誰かと馬鹿やったほうが強くない?」


「……まあな」


「でしょ!」


 信号が青に変わる。


「じゃ、またね」


「おう」


 彼女は軽く手を振って走っていく。

 濡れたローファーが水を跳ねる。


 しばらくその背中を見ていた。


 騒がしいやつだ。


 でも。


 公園で一人でブランコ爆走してた背中より、

 今のほうが、少しだけ軽そうだった。


 翌日。


 学校の廊下で彼女とすれ違う。


「昨日ありがと!」


 クラスメイトがぎょっとするくらい大きな声。


「別に」


「また爆走しよ!」


「断る」


「即答!」


 彼女は笑って教室へ入っていく。


 俺は自分の席に座り、窓の外を見る。


 空は晴れている。


 昨日の雨は嘘みたいだ。


 ふと、思う。


 あいつはたぶん、今日も全力でやるんだろう。

 落ち込んでも、腹立っても、爆走するタイプだ。


 報われない日があっても、

 笑い飛ばして、また漕ぐ。


 ブランコみたいに。


 前に行って、戻って、また前に行く。


 ……まあ、付き合わされる身にもなれ。


 でも。


 もしまた雨の日に、公園であいつを見かけたら。


 俺はたぶん、東屋にはいない。


 最初から押しに行く気がする。


 風邪ひくぞ、と言いながら。


 そしてたぶん、また言われる。


「うぇーーーーーい!!」


 いや、何がうぇーいだ。


 ――でも。


 悪くない。


 そんな雨も、たぶん。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

下の☆マークから評価・お気に入り登録などをお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ