第二話 山は、貫かれたあとで
山は、ついに貫かれた。
数千年にわたる事業の終点は、
勝利の旗でも、歓声でもなく、
ただ、山脈にぽっかりと開いた一つの穴だった。
誰もがそれを見上げた。
だが、
そこに何を見出せばよいのかを知る者はいなかった。
最初にこの山を掘ろうとした者たちは、
肥沃な土地を欲していた。
鉄の力を信じ、
人の数を数え、
奪えば増えると、本気で思っていた。
次の時代、目的は少し変わった。
山の向こう側を見たい、
という衝動が、刃を前へ進ませた。
地図に空白があることが、
我慢ならなかったのだ。
その頃には、
「なぜ掘るのか」という問いは、
すでに邪魔なものになっていた。
さらに時が過ぎると、
理由を語れる者はいなくなった。
残ったのは、
ここまで来たのだから、やめられない、
という説明にならない説明だけだった。
掘り進めることそれ自体が、
目的になった。
先人の労苦を無にしないために、
今を生きる者は、同じ作業を繰り返した。
意味は継承されず、
労力だけが継承された。
数千年のあいだに、
鉄の国はさらに変わった。
鉄は軽くなり、
刃は折れず、
富はあふれ、
奪う必要など、とうに失われていた。
それでも、掘った。
掘ることをやめる理由が、
誰にも見つからなかったからだ。
そして、ある日。
最後の一撃が、
岩を貫いた。
向こう側から流れ込んできたのは、
風と、光と、
そして静けさだった。
そこには、
待ち構える軍も、
守るべき敵も、
奪うべき土地もなかった。
ただ、
長いあいだ山を隔てて存在していた世界が、
何事もなかったかのように
続いているだけだった。
穴の前に立つ者たちは、
しばらく黙っていた。
彼らは勝者でも、征服者でもなかった。
まして敗者でもない。
ただ、
理由を失った事業の終点に立たされた人間
でしかなかった。
山は、抵抗しなかった。
だが、何も与えもしなかった。
数千年分の労力は、
大穴という形で、
確かにそこに在った。
それだけだった。




