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1-5 スコールライン(前編)

「はぁ〜」


今現在、祐は体育館から教室への帰路についていた。

生徒達は律儀にクラスごとに列を作り、流れに沿って歩く。

正直、高校にもなってここまで生真面目なのはどうかと思うが、ここが軍人を作るための学校が故の風儀(ふうぎ)作りだろう。


それにしても今日は本当にため息ばかりついている気がする。

あの後、体育館へ移動して入学式はすぐに始まり、1時間半ほどでつつがなく終わったのだが、やはりとてつもなく長く感じる時間だった。

なぜ校長先生の話というものはどこに行ってもあんなにつまらないものなのだろう。


だが、今日は確か入学初日ということで学校自体は午前中で終わりのはずだった。

この後何があるかは分からないが、どうせ校内規則だとか明日からの予定だとかそういう説明ばかりのHR(ホームルーム)(たぐい)だろう。

それさえ耐えればとりあえず今日は終わりだ。

全く。

いつから自分はこんなに面倒くさがりになったのか。


そう思いながら列に習って歩いていると、向かい側を歩く生徒と強く肩をぶつける。


「っと、わり………」


何となく向かい側から人が歩いてきているのは視界が捉えていたが、きちんと前を見て列に沿っていたので、まさかぶつかるとは思わなかった。

ぼーっとしていたからだろうか、つい反射的に謝ってしまう。

だが相手は思ったよりもお怒りらしかった。


「ああ?なんだよそれ。ぶつかっといてそれだけかよ。ふざけんじゃねえぞてめえ」


その男は祐と同程度の身長で、髪を紫色に染めおり鼻の左右に一つづつリングピアスを開けた、型にはめた不良の様な外見だった。

後ろに二人ほど取り巻きのようなやつらを連れている。

威嚇してきているにも関わらず楽しそうに薄く笑っているあたり、どうやらぶつかってきたのは故意らしい。

周りの人間はすぐに異変を察知し、二人に視線が集まる。

今日はどうやら人気者の日らしい。


「いや、明らかにそっちからぶつかってきただろ」

「黙れよ。新入生の分際で先輩に楯突いてんじゃねえ」


なんてことを言う。

どうやら上級生らしかった。


「それにお前、あれだろ。水無月の犬だった家。あー、確か……」

「夏越っすよ、豹悟(ひょうご)さん」


ご丁寧に後ろの取り巻きが祐の名を教える。

どうやらこいつの目的は水無月への逆恨みによる憂さ晴らしのようだ。


「ああ、それそれ。わりいな、雑魚の名前なんていちいち覚えてらんねえからよ」

「………何が言いたいか分かんないけど、結局何がしたいんだよ、お前」

「ああ?、いっちょ前にタメ口ききやがるなお前。何がしたいかって?決まってんだろ、そんなの」


そう言い終わると同時に豹悟とかいうやつは祐の腹をめがけて拳を突き出してくる。

いきなり手を出してくるとは、意外と好戦的らしい。


刹那、祐は一瞬で頭を回す。

こちらを舐め切った、あまりにも遅い攻撃。

止めるのは容易だ。

だが、問題はこの男の素性。

取り巻きがいるということは、少なからず邦霊の中でも上の立場にいる人間だろう。

万が一邦霊十紋に直属する人間なら、今こいつに反撃した瞬間、全部終わりだ。

学校から追い出されるだけならまだいいが、こいつの一存で祐を処刑できる可能性もある。

なら、とりあえずこの場は攻撃を受け入れるしかない。


「がっ」


やられたように見せるため、少し派手に吹っ飛ぶ。

急所を外して攻撃を受けたのでそこまでのダメージはないが、それでも人に殴られるというのは痛いものだ。


無様に地に手をつく祐を見て豹悟は高らかに笑い出す。


「ははっ!弱すぎだろこいつ!一発軽く殴っただけでサンドバックみてえに吹っ飛んでいきやがった。やっぱり水無月は当主以外兵隊にもなんねえ雑魚ばっかだなあ!あ、お前水無月ですらねえんだっけ?」


そう言うと、後ろの取り巻きも一緒に笑い出す。

それだけではない。

周りの野次馬も面白そうにこちらを見て笑っている。


「……………」


もう、うんざりだった。

きっとこの罵倒はどこに行っても変わらない。

環境に関係なく、『夏越』という名は永遠に自分に付き纏って離れない。

もちろん、『水無月』よりはよっぽどマシかも知れないが。




……ズキン、と。

また、胸が痛む。

教室の騒ぎの時と同じ痛みだ。



「……………」



………なぜ、自分はこんなことに耐えてまで、学校にいるのだろう。



「………本当、めんどくさいよお前みたいなやつ」

「口だけは生意気だな。男なら腕で勝負しろよ。ま、弱すぎて手を出す気もないだけだろうが。それとも俺が強えだけかぁ?はははっ!」

「………だから、お前は何がしたい」

「別に何もしたいことなんてねえよ。ただお前は一発殴らねーと気が済まなかっただけだ」

「…………」

「普段は当主の影に隠れてるくせに、その部下も傘下の家も我が物顔で『自分たちが一位です』みたいな顔しやがる。雑魚のくせに権力だけ振りかざして、好き勝手だ。俺は水無月が邦霊にいた頃からてめえらが目障りで仕方なかったんだよ!」


そう言って豹悟は倒れている祐の胸ぐらを掴み、腰が浮くまで持ち上げる。


「ぐっ!」

「あー、ダメだわこれ。一発殴ったぐらいじゃあ気が済まねえ」


そう言って胸ぐらを掴む手とは違う拳を握りしめ、次は祐の顔面めがけて叩き込もうとする。

黙って攻撃を受けるしかない祐は豹悟が拳を振り上げた瞬間、ぎゅっと目を閉じた。


だが、その瞬間。


「ぐあっ!」


豹悟のうめき声が聞こえる。

そして、それと同時に祐は豹悟に掴まれていた胸の感覚が消え、地べたに尻もちをつく。


「っ!、……え?」


祐が目を開けると、豹悟は野次馬を巻き添えにして廊下の端まで吹き飛ばされていた。


だが、周りの視線は豹悟とは違う方向に集約されている。

祐の真横だ。

それに気づいて祐はそちらを見る。


「………なっ」


そこには自分より背の高い、黒髪の男が立っていた。

驚いたのがその男が自分のすぐ隣に立っていたことだ。

それまで人が近づいてくる気配も、豹悟が攻撃される様子もなかった。

そもそもあの一瞬でどうやって豹悟をここまで吹き飛ばしたのだろう。

やがてその男は祐を無視して豹悟の方へ歩み寄っていった。


「おい、お前、名を名乗れ」


その男は自分が吹き飛ばした奴に向かってそんなことを言った。

豹悟も突然の出来事に突然の質問が重なり、戸惑いを隠せない。


「…………え?」

「聞こえなかったか。名を名乗れと言った」

「な、なんだよお前。いきなり人を蹴っ飛ばしといて………っ!?」


豹悟は起き上がりながら言い返すと、その男と目が合った瞬間、硬直する。


「こっこれはっ、失礼いたしました!長月(ながつき)(たすく)様!わ、私、愛華(まのはな)豹悟と申しますっ!」


長月家。正真正銘、邦霊十紋の一家だ。

そしてこの侑という男はおそらく長月家の子息の一人。

如月結束と同じ、この世界において絶対権力を持った人間だ。


「愛華?ははっ、面白いなお前。お前も長月の犬だろう。どのツラ下げてあいつを水無月の犬だとか言ってたんだ?」

「はっ、し……しかし、奴はもう邦霊の人間では……」

「あ?お前、今俺が言った言葉を否定したか?」


その言葉に、豹悟はすぐさま頭を下げる。

当然だが、先程祐にとっていた態度とはえらい違いだ。


「もっ、申し訳ありません!今後はこのようなことがないように……」

「別に怒ってないよ」

「………え?」


侑の言葉に豹悟は()頓狂(とんきょう)な顔をする。

しかし侑は何事もなく言葉を続ける。


「水無月の残骸なんて好きなだけ足蹴にしてろ。むしろ一興だ」

「え、あ……では、なぜ」

「お前に攻撃したかって?」

「は……はい」

「………お前、さっきあの夏越の野郎に『邦霊にいた頃から目障りだった』とか言ってたよな」

「………あ」

「あれは、お前が邦霊に離反する意思を持っていたということだろう?明らかな反逆罪だ。そんな奴はこの学校に……いや、邦霊にはいらない」

「そっ……」


豹悟は一歩踏み出し、侑と目を合わせる。


「そ、それはっ、こっ、言葉の綾と言いますか………そ、その、誤解でございます!」

「誤解かどうかなんて関係ねえんだよ。お前は邦霊に反する発言をした。俺がお前を殺すのには十分すぎる理由だろ」


『殺す』という言葉を聞いて、豹悟の顔は青ざめていく。


「おっ、お待ちください!そんなことをして我々愛華家との関係は……」

「ああ?お前はどうやらまだ自分の立場が理解できていないみたいだな。俺がお前を殺したとして、愛華が長月との縁を切ると思うか?」

「そ、れは………」

「まぁ俺らはそれでもいいけどな。愛華が無くなったところで、長月にとって大した支障にはならない。戦争になれば、お前の家族をお前と同じ場所に送るだけだ」

「…………」

「分かったか?今俺がお前を殺したところで俺を(とが)める奴もいなければ、お前を(とむら)う奴もいない。黙って死ね」


そう言って侑は右手をあげる。

何かしらの攻撃をするつもりだ。


「おっ、お許しを!せめて何らかの猶予を!」

「うるさいな、死ねと言ってるんだよ」

「わっ、私は……」


豹悟の嘆きを遮って、侑はパチンっ、と右手を鳴らす。

瞬間、侑の目の前に数枚の剛弾符が現れ、瞬く間に発射される。


「ひっ………」


剛弾符は豹悟の頬を(かす)め、(くう)を切って校舎の壁を貫通する。

凄まじい威力だった。

それだけで、侑が霊術士として並外れた力を持っていることが分かってしまう。



「ふむ。ちゃんと三発中、三発とも頬を掠めている。霊符を使うのは久しぶりだが、距離が近いとはいえまだ衰えていないなあ」


侑は楽しそうに笑ってそんなことを言う。

完全に遊んでいる様子だった。

だが、豹悟は怯え切った顔をしたまま動けなくなってしまっている。


「あっ、あの……」

「お前、よく避けなかったな。動けば死ぬように弾を飛ばしたはずなんだが。それとも単にビビって動けなかっただけか?」


元から青ざめていた豹悟の顔は、もはや青白くなってしまっていた。

周りの生徒も、自分がやられているわけでもないのに侑の実力とその恐怖に絶句していた。


「ま、どちらにしろお前は動かなかった。つまりは俺の命令通り、死を受け入れたということだ。そのことはとりあえず邦霊に対する敬意として受け取ってやろう」

「そっ、それはつまり……」

「お前は後回しだ」

「………え?」

「ちゃんと殺す。あいつ(・・・)の後でな。それまでは猶予を与えてやると言っているんだ」

「そ、そんな………」


豹悟はガクッと絶望に肩を落とすが、侑はそれを完全に無視して(きびす)を返し、次は祐の方に歩み寄ってきた。

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