枯れ出す花は輝き放って
診察室に入った瞬間、フウカの胸は締め付けられるように痛んだ。医師の冷静な目が、彼女を見つめている。それだけで、心がひどく苦しくなった。言葉を受け止める覚悟ができていなかった。だが、もう逃げられない。
「竜也くんの花影病は、末期に進行しています。背中に現れた斑点は急速に広がり、数日以内に声帯が完全に機能しなくなります。その後、最期を迎えるまで、早ければ4日、長くても1ヶ月です。」
その言葉がフウカを打ちのめす。全身が震え、息が詰まったように思えた。どうしてこんなにも急に現実が目の前に降りかかってきたのか、頭の中でその言葉を何度も繰り返しているのに、理解できなかった。
「4日……?」
フウカは震えた声で呟く。それが本当なら、時間があまりにも足りなすぎる。竜也くんの笑顔、優しさ、何もかもが急速に奪われていく。頭が真っ白になり、目の前が霞んでいくような気がした。
「お願い、どうにかしてください!」
フウカは必死で医師にすがりつく。涙が止まらない。必死で、自分ができることを探し続けているが、何も見つからない。すべてが手遅れだということがわかっていた。
「竜也くんの状態は、もう手の施しようがありません。今は、残された時間をどう過ごすかを支えてあげることが一番大事です。」
医師の声は冷静だった。その冷徹さに、フウカはどんどん追い詰められていく。竜也くんの命がもうすぐ尽きる。どうしても、それが信じられなかった。彼のために、何か、何かできることがあるのではないか?
「お願い、お願いだから……!」
フウカは涙を流しながら叫んだ。どんなことでもするから、竜也くんを助けてほしい。それだけが頭の中をぐるぐる回っていた。
「何でもします! 何でもしますから、お願いです!」
彼女の声は、もはや必死そのものだった。体が震え、手が冷たくなっていく。それでも、必死に手を伸ばし、医師にすがりついた。
「もし、お金が足りないのであれば……!」
フウカは、涙と共に絞り出すように続けた。
「借金とか、そういうことでもして、どうにかします! 何でもいいから、竜也くんを助けてください! どうか、お願いです!」
その言葉が、自分でも信じられなかった。けれど、フウカはそれでも声を上げていた。竜也くんが助かるのなら、何だってする覚悟だった。彼女の心の中では、竜也くんを救いたいという思いが限界を迎え、必死で叫び続けていた。
医師は黙ってその様子を見守り、深く息を吐くと、静かに答えた。
「フウカさん、あなたの気持ちはわかります。しかし、竜也くんの病気は、もう手の施しようがありません。彼の命を救う方法は、現時点では存在しません。」
その言葉が、フウカの胸を突き刺した。どれだけ叫んでも、何をしても、竜也くんを救えない現実を突きつけられる。彼女の体は、力なく崩れ落ちていった。
「どうして……どうして、こんなに無力なんだろう……」
その声は、かすれていて、まるで魂が抜け出ていくようだった。彼女は震える手で顔を覆い、涙を止められなかった。
「どうして、もっと早く伝えてくれなかったの?!」
フウカは突然、目を見開いて医師を睨みつけた。その目には怒りがにじみ、心の中で何かが爆発しそうだった。
「どうして、もっと早く教えてくれなかったの! 私が竜也くんと過ごす時間を、もっと大事にできるように、助けられる方法があるなら教えてくれるべきだったんじゃないの!?」
その叫びが診察室に響いた。彼女は目に涙を浮かべながら、立ち上がって医師に詰め寄った。もう我慢できなかった。医師が冷たく告げた現実を、どうしても受け入れることができなかった。
「フウカさん……」
医師は目を閉じて、深く息を吐いた。
「伝えたところで、あなたができることは変わりません。竜也くんの状態は、最初から進行していた。それを知っても、ただ時間が無駄に過ぎていくだけだったでしょう。」
その言葉に、フウカは何も言えなくなった。ただ、無力感だけが胸に広がり、涙が止まらなかった。