カフェでの一幕
数日後、竜也はついにフウカとリアルで会う約束をした。
最初は、そんなことができるわけがないと思っていたが、フウカが「会いたい!」と言ってくれたことで、竜也は少しだけ自分に自信を持てた。
会う場所は、駅前のカフェだった。
竜也は緊張しながらも早くついていた。
その時カフェのドアが開いて可愛らしい女性が入ってきた。
「あの、竜也くん、だよね。」
あぁ、なんて暖かい声なんだろう。
「僕が竜也です」
カフェの中は、静かな午後のひとときを過ごす客たちで賑わっていた。
竜也とフウカの間には、普段とは少し違う空気が流れていた。
フウカが話すたび、竜也の目がどこか遠くを見つめているような気がして、少し心配になっていた。
彼が見せる小さな笑顔や、どこか焦るように頷く姿は、少し無理しているように見えた。
「竜也くん、最近学校どう?」
フウカが、少しだけ気を使って話題を振った。
竜也は、少しだけ時間をかけて答えた。
「学校はまあ…普通だよ。勉強は、相変わらずあんまり得意じゃないけど」
その声には、いつもより元気がなかった。
フウカは何気ないように笑ってみせたが、心の中では気になって仕方がなかった。
「うん、でも、君の短歌を聞いてると、すごく感動するよ。私、竜也くんの短歌って、心がこもってるって思うから」
竜也はその言葉に少しだけ顔を赤らめて笑った。
でも、すぐに手を震わせてカップを持ち上げた。
その手の震えを、フウカは見逃さなかった。
「竜也くん…」
「大丈夫だよ」
竜也はすぐに笑顔を作ろうとしたが、フウカはその表情を見逃さなかった。
彼の笑顔は、どこか無理に作られたもので、心からのものじゃないと分かる。
しかし、フウカはそれ以上そのことについて何も言えない。
沈黙を破るように、フウカが口を開いた。
「竜也くんはなんで短歌を作り始めたの?」
竜也はどこかをぼんやり眺めるように
「なんでだろうな。作り始めたのは中学の時かな。でも今ではこの短歌のおかげでフウカとも」
そのとき、フウカの目の前で、竜也の手がふらっと震えながらカップを持ち、テーブルに置いてあったコーヒーを突然こぼしてしまった。
「わっ!」
フウカが驚いて手を伸ばすが、間に合わず、コーヒーが机の上に広がった。
その瞬間、竜也が肩を震わせ、顔をゆがめた。
「竜也くん…大丈夫?」
フウカは、竜也の顔を見つめ、心配と不安が入り混じった言葉を口にした。
竜也は、何かを必死に隠すように目を伏せ、手を震わせながら言った。
「大丈夫だよ、ちょっと…ちょっと、疲れただけだから、心配...しないで」
だが、その声は少し震えていた。
そのとき、フウカは何かが違うと感じた。
竜也の目に浮かぶ赤み、呼吸の乱れ、そして手の震え。
すべてが彼の体調が良くないことを示していた。
それでも、フウカは自分を押さえて、竜也のことを信じようとしていた。
「無理しないで、竜也くん。少し休もう」
だが、次の瞬間、竜也が一瞬だけ目を見開いたかと思うと、突然椅子から崩れ落ちた。
「竜也くん!?」
フウカは驚いて立ち上がり、竜也の肩を支えようとしたが、その手が空を切った。
竜也は床に倒れ込んで、血を吐きそのまま動かなくなった。
一瞬、店内が静まり返ったように感じられた。
フウカは、何が起きたのか理解できず、ただ竜也の顔を見下ろした。
彼の瞳は、焦点が合っていないようだった。
「竜也くん…?」
その声は、涙で詰まりそうだった。
フウカは必死に彼の肩を揺さぶり、彼の名前を呼び続けた。
周りの客たちがざわつく中、フウカは竜也の腕を取って、必死に支えようとした。
そのとき、店員が急いで駆け寄り、フウカに「救急車を呼びます!」と伝えた。
フウカは、竜也の顔を見つめて、ただただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
病院の待合室は、竜也の苦しむ顔が頭から離れず、フウカは座っていることさえできなかった。
何もかもが恐ろしいほど遅く感じられ、心の中で必死に祈るように、ただ竜也が目を覚ますことを願っていた。
それでも、足元がふらつき、心臓が押し潰されそうに痛んだ。
「竜也くん…大丈夫だよね?」
今日は少し長かったかなぁ!でもなんかみんなに響くといいな!