紅く揺れる彼岸花
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家に帰ると、いつものように冷たい空気が竜也を迎えた。玄関の扉を開けた瞬間、母がリビングで忙しそうに台所を片付けているのが見えた。
「おかえり」
その言葉は、どこか遠くから聞こえてきたような気がした。母の視線は、竜也を迎えることなく食器を洗っている。
父はテレビの前に座り込み、姉の美咲と弟の翔太はそれぞれの部屋で、今日の成果を話し合っていた。
美咲はすでにユニフォームを脱ぎ、体操着姿でコップを手にしている。 「今日も練習大変だったよ。翔太も次の模試の勉強が終わったらサッカーの話してくれる?」
竜也はその言葉を聞き流す。
翔太は相変わらず自分の勉強のことしか頭にない。父もまた美咲と翔太のことばかりに熱を入れ、竜也には目もくれない。
「竜也、お前は何かやっているのか?」
父がふと、テレビを見ながら言った。
その声に、竜也は気まずさを感じた。すぐに答えなければならないという焦りが胸にこみ上げるが、何も言えなかった。
「……別に」
いつものように、竜也は答えることができなかった。
その後、家の中で食事を共にしても、会話はほとんどなかった。
食べ終わった後、姉と弟がリビングを出て、それぞれの部屋に消えていくと、竜也は一人になった。
父は相変わらず仕事に忙しく、母は気を使っていないわけではないが、どこか無関心でいるように見えた。
そして、その夜、竜也は寝室で目を閉じた。手が震えていることに気づき、布団の中でこっそりと震える手を見つめる。
(どうしてこんなに震えるんだろう。痛いわけじゃない。けれど、力が入らない)
「手が動かない…」
そう呟きながら、竜也は暗闇の中で深いため息をついた。
家族にとって、竜也はもういないも同然だった。
自分が誰かに認められることがあっただろうか。
でも、唯一の出口が短歌だった。
言葉だけが、彼の心の中で孤独を埋めてくれるものだった。
次の日、学校から帰ると、竜也は無意識に駅の壁に貼られたポスターに目をやった。
そのポスターには、「Vtuber フウカ」の名前が大きく書かれていた。
背景には、鮮やかな赤い彼岸花が咲き乱れている。その花々はまるで竜也の心の中に広がる不安や孤独を象徴しているかのようだった。
ポスターの中のフウカは、ほんのりと微笑みながらこちらを見ていた。
その表情は、何かしらの温かさを持っていて、竜也の心の中で、ふっと光を放った。
(この人、どこか優しそうだな。こんな笑顔を向けてくれるの、久しぶりだ)
その瞬間、竜也は何かを感じた。
自分が言葉を届けることができる場所、誰かに気持ちを伝えることができる場所が、今、目の前に現れた気がした。
「この人に…自分の短歌を読んでみたい」
そう思った。