1/24
プロローグ:透明な花
家の扉を開けると、いつもの冷たい空気が竜也の肺を締めつけた。
父親の厳しい声が、リビングから聞こえてくる。
「お前は本当に役に立たないな」
その言葉は毎日のように繰り返され、まるで重い鎖のように竜也の心に絡みついて離れなかった。
姉の美咲は、国体の選手として毎日厳しい練習に励み、家族の誇りだった。
弟の翔太は、学校で学年トップの成績を取り、模試でも全国上位に名を連ねている。
両親の期待は、いつも二人にだけ注がれていた。
竜也は、その影に隠れる存在。
夕飯の席でも、父は美咲と翔太の話ばかりをしていた。
「美咲はまた大会で優勝したらしい。翔太も次の模試でトップだと聞いたぞ」
竜也が口を開こうとすると、母が気まずそうに目を逸らす。
「竜也は…どうした?」
父はため息をつき、無言で皿を片付け始めた。
「……なんでもない」
竜也は呟き、黙って箸を置いた。
家族の中で、自分だけが存在しないかのような感覚が募る。




