⚾️してなお、球は転がる
誰かに届いたらなと思います
ただの野球小説じゃないです!
朝靄の残るグラウンド。
顧問の怒声が響く。
顧問「もっと集中しろ! 何度言えばわかるんだ!」
「こんなんじゃ次の試合の【水無月高校】に負けるぞ!」
翔太はベンチでグローブを握りしめ、息を吐いた。
翔太「またこの練習かよ……」
飛んできたボールをキャッチし送球する、これを何時間も………
新鮮さなどとっくにない
そんな中、隣にいる親友の志賀が笑いながら言った。
志賀「キャプテン!しけたツラしてんなよ!」
「俺と一緒に甲子園優勝するんだろ?そんな顔してるやつ俺の隣にいてもらっちゃあ困るぜ!」
翔太はおどけて答える。
「フンッ、全くおまえはいつでも熱いやつだな」
志賀は情熱的で、誰にでも平等に優しい男。だからこそ志賀の言葉はまっすぐで、力強い。
俺の親友であり、バッテリーであり、このアオハル高校には欠かせないキャッチャーだ
顧問「そこ!無駄口聞いてる2人!罰として校庭10周だ!」
翔太は舌打ちしながら、軽く笑う。
翔太「チッ、志賀のせいで罰くらったじゃないかよ〜」
志賀は肩をすくめて言う。
「まぁ、サクッと終わらせようぜ」
いつも通りの日常、いつも通りの野球、変わらぬものがそこにはあった
だが一ヶ月もすれば甲子園出場を決める大会の一回戦が迫っている、こんなノックばっかしてたんじゃ腕がなまっちまう…
だから今日も部活が終わり家の近くの公園に行きピッチング練習をしている
雨の日、雪の日でもピッチング練習を欠かすことはなかった
世間では俺のことを野球バカというのだろう
ピッチングを終え帰り道、ランニングも兼ねて少し遠まわりをしていく中で神社を見つけた
翔太「こんなところに神社なんかあったっけ?」「まぁ、せっかくだしお参りしてくか」
両手を合わせ、瞳を閉じて強く祈りを捧げる。
翔太「お願いです……絶対に勝たせてください」「甲子園優勝させてください」
その小さな声は風にかき消されそうだった。
だが、その願いに宿る熱意は、あまりにも強く、切実だった。
鐘の音が静かに響く。
風が、背中を撫でる。
お参りをしたあと翔太は神社をあとにした
母「あんた!こんな時間まで野球してたの!?本当に野球バカね!!」
まさか野球バカと本当に言われようとは…
翔太「あと一ヶ月もすれば高校生最後の大会が始まるのか…」
ベッドの上で小さく呟く
今年高校3年生である翔太は人生全てをかけた野球
負ければ自分の人生そのものが否定されているようなきがして…
今日もまた眠れなかった…
また朝が始まり準備をし学校に向かう
顧問「はい!今日も頑張っていきましょう!」
変わらず飛んできたボールをキャッチし送球する、これを何時間も……
いつも通りの日常、いつも通りの野球、変わらぬものがそこにはあった
だが、翔太の胸の奥には、ずっと拭いきれない違和感があった。
理由もわからず、どこかで見たような、何かを忘れているような──そんな感覚。
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数日後、甲子園予選一回戦。
スタンドの歓声が沸き立つ。
翔太はグラウンドに立ち、額に汗を滲ませながら観客席を見渡した。
村瀬「一回戦なのにこんなに人がいるのかよぉ……」
チームメイトの村瀬が怯えた声を漏らす。
翔太が苦笑する。
翔太「まぁ、相手チームがあの水無月高校だもんな」
志賀が鼻をこすりながら言う。
志賀「まぁ、ビジュだけで実力的には俺たちの方が上だけどな。ヘヘッ」
そして、水無月高校の選手たちがグラウンドに現れる。
ユニフォームは真っ白で、髪型も整えられており、どこか舞台俳優のような気品を纏っている。
キャプテンらしき男が近づいてきた。
???「あらあら、今日はよろしく頼むわね。あまり荒いプレイは避けてくれます? 僕らは“美しい野球”を信条にしているのでね、オホホ」
志賀がふっと笑う。
???「あらあら、君たちみたいな雑草にも、努力の跡は見える。負け犬の姿もまた、一つの美学さ、オホホ」
志賀が睨みをきかせる。
志賀「てめぇ、ナメてんのか」
翔太は間に入り、静かに言った。
翔太「試合前から問題起こすなよ」
志賀は舌打ちをしてその場を離れた
???「あらあら、私の名前は神城 蓮です。以後お見知り置きを、オホホ」
翔太「あぁ、いい試合にしようぜ」
お互いに握手をしその場を離れる
志賀「いけ好かないやつだな、さっさと試合でわからせてやろうぜ」
翔太「あぁ、俺たちの最強のバッテリー見せつけてやろうぜ!」
サイレンが鳴り響く
今回の試合は勝てる試合だ、心配することはない
わかってるはずなのに……なぜか俺の手は震えていた
翔太「……変だな。普通なら、こんな連中にビビる必要なんてないのに」
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試合開始。
翔太はボールを握る手に力を込める。
そしてよく握られた手から放たれた渾身のストレート
バッターは大きくボールを見逃した
審判「ストライク!バッターアウト!チェンジ!!」
志賀のキャッチャーミットのど真ん中
今日は調子が良い日だ…
だが手の震えは収まらなかった…
相手投手──水無月高校のエース・神城 蓮が静かにセットポジションに入る。
その投球フォームは流れるように美しく、そして正確だった。
村瀬「なぁ、あいつ……あんなコントロール良かったっけ? まるでストライクゾーンの端に糸を通すような……」
以前見かけた時とは段違いでコントロールが良くなっている、今回に向けて鍛えてきたのだろう…
試合は進む。相手投手・神城の投球は異常ともいえるほど正確だった。
まるで、すべて意図的に制御されているようにさえ見えた。
アオハル高校 神無月高校
0-0
試合はお互いに一歩も譲らない様子
神城 蓮「あらあら、やっとキャプテンのおでましですか、オホホ」
翔太がマウンドにつく
強く握られたバット、相手にとって不足はない
審判「ストライク!」
蓮の渾身のストレートが決まる
審判「ストライク!!」
またも渾身のストレートが決まってしまった
神城 蓮「キャプテンの実力もこんなもんか」
ツーストライク…
追い込まれてしまった…
キャプテンとして流れをつかまなきゃ
翔太の額から汗がこぼれる
……次はストレート……
刹那、頭の中で言葉が発せられる
翔太「見える……球が、はっきり見える!」
バットが振り抜かれ、快音が響く。
審判「ホームラン!!!!」
仲間がどよめき、志賀が声を上げる。
志賀「すげぇよ!!キャプテン!!」
チームメイト「お前、すげぇ!今の球が見えてたのかよ!」
翔太はわずかに笑みを浮かべた。
あの言葉何だったんだろう、そう思う暇もなくホームランの喜びをかみしめていた
神城 蓮「チッ」
アオハル高校 神無月高校
1-0
試合終盤。9回裏
志賀が肩を抑えて倒れた。
「グッ……くそ、肩が……!!」
神城蓮によるデッドボールだ
翔太は近づいてくる蓮を睨みつけた。
神城 蓮「あらあら、すみません、手が滑ってしまいましたわ、オホホ」
翔太は殴りかかろうとしたが、拳を志賀に掴まれた
志賀「俺は平気だ…そんなことして試合終わらせるんじゃねーよ、キャプテン」
志賀にはキャッチャーができる力はもう残っていない俺のチームで俺の球を取れるのは志賀しかいない…
その後の試合はひどい有様だった…
俺の投げたボールをキャッチャーが落とし塁はどんどん増えていく、そしていつの間に塁から押し出されて得点が入っていく…
アオハル高校 神無月高校
1-7
点差は開き、敗北は確実。
翔太はバットを構えながら、全身に広がる震えを感じていた。
「……頼む……まだ終わらないでくれ……」
──その言葉は、心の奥底から溢れたものだった。
次の一球、翔太のバットは空を切る。
──空振り三振。
──ゲームセット。
その瞬間、翔太の体が崩れ落ちる。
翔太「俺の夏終わっちまったのか…」
チームメイトからはすすり泣く声が聞こえてくる
神城 蓮「あらあら、野球人生最後の試合、砂でも持ち帰ったらどうかしら、オホホ」
翔太「テメェ!!!」
翔太は立ち上がり神城蓮の胸ぐらをつかんだ瞬間
ドクン
筋肉が痙攣し、内臓が締め付けられる。
息が詰まり、視界が赤く染まる。
「っ……なんだよ、これ……!」
激痛と恐怖の中、翔太の意識は暗闇に沈んでいった。
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次に目を覚ましたとき、翔太は部室のベンチに座っていた。
ユニフォームは汗と泥にまみれている。
だが、痛みはない。
体も、傷も、何もかもが元に戻っていた。
「……なんだ、これ……」
最初は夢かと思った。
だが、グラウンドに向かえば、志賀も、村瀬も、監督も、
数日前とまったく同じ動きをしていた。
「またこの練習かよ……」
自分の口から漏れたその言葉に、強烈な既視感を覚えた。
翔太は混乱したまま数日を過ごす。
だが、同じ流れ。
同じ会話。
同じ結末。
そして、試合。
──再び敗北し、翔太は倒れる。
暗闇の中、翔太の意識はゆっくりと沈んでいく。
頭の中に声が響いた。
──「甲子園を優勝しなければ、お前は死ぬ」──
言葉の意味はまだわからなかった。
だが、この言葉こそが、翔太の運命を狂わせる、死のゲームの始まりだった。
また目が覚めると、翔太はベンチに座っていたユニフォームは汗と泥にまみれているが、また傷一つなく痛みもない
だが、痛みはない。
「また……戻ったのか」
時間が巻き戻っていた。
“死”を経験した翔太の瞳には、以前の熱さはなかった。
「わかった……今度こそ、勝つ」
──何度でも、殺してでも。
翔太の中で、冷たい闘志が静かに燃え上がっていった。
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【次回、第2話「死してなお、球は転がる」へ続く】
初めて描いたので見にくいところあると思いますが、よろしくお願いします!