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第8話 チャームコロシアム開幕!

「……すごい。本当に始まるんだな、チャームコロシアム……」

 

リクは巨大な石造りの門の前で立ち尽くしていた。上部に金色で彫られた《CHΔRM COLOSSEUM》の文字が、朝日にギラリと輝いている。続々と集まる観客と選手たちの熱気が、空気をじわりと染めていく。

 

「リク、口あいてるよ〜。今なら小鳥三羽とマシュマロ入るよ?」

 

「……いや、これは緊張してるだけ……って、なんでマシュマロ混ざってんだよ!」

 

肩に乗るミルは、くすくす笑いながら人混みを見回した。

 

「ほら、見て見て。あの人!腕がもう、丸太通り越して橋だよ。魔物でも渡れそうなやつ!」

 

「例えがでかすぎるだろ……!」

 

ミルの指差す先には、明らかに2メートルを超える巨漢が仁王立ちしていた。腕の太さがリクの胴体くらいある。その横には、リクと同じくらいの背丈の少年もちらほら見えたが、全員が目つき鋭く、明らかに“やりに来ている”顔をしている。

 

「……場違い感、すごいな」

 

「だいじょーぶ!リクにはリクの武器があるもん!」

 

「たとえば?」

 

「表情だけで“今にも帰りたい”って伝わる顔!」

 

「それ武器じゃなくて敗北フラグだよな!?」

 

「あと、“緊張の気配”がオーラ化してる背中もポイント高いよ!」

 

「もういっそ帰らせてくれ!!」

 

ツッコミながらも、リクの肩からは少し力が抜けていた。

 

「でもさ、今日はまだ戦わないんでしょ?開会式とエントリーだけなんだし。“逃げ場があるフリした地獄”みたいなもんだけど!」

 

「それ、励ましのつもり!?」

 

とはいえ、リクは小さく深呼吸をして、ゲートを一歩踏み出す。

 

その先に広がっていたのは、円形の巨大闘技場。中心にはステージが設置され、魔導スクリーンが上空に浮かんでいた。

 

《開会セレモニーまで あと3分》

 

「わ〜!あっちで“運勢アップのチャームクレープ”売ってる!しかも、当たりクレープには“相手が前夜に腹痛になるおまけ”付きなんだって!」

 

「呪いかよ!!というか、ほんとに運アップしてるのそれ!?」

 

「ボク、リクのために買ってくるね〜。“お腹にくる系”ならリク得意でしょ?」

 

「それもう違う方向に得意なんだよ!!」

 

そうしてミルの暴走を全力で止めつつ、リクは目の前に広がるチャームコロシアムを見つめた。

 

ここが、自分が立つ舞台。その重みを、今、確かに感じていた。


「それでは選手の皆さん、まもなく中央ステージにお集まりください〜!……って、わぁ、今回もスゴい人の数ですねぇ〜!」

 

甲高い声が競技場内に響き渡る。ステージに浮かんだのは、ピンクのスーツにきらびやかな蝶ネクタイをつけた派手な男だった。魔導マイクを片手に、キラキラと魔法のエフェクトを振りまきながら、満面の笑みでポーズを決める。

 

「あっ、あの人テレビで見たことある!たしか、ミラージュTVの司会者……カイルって人だ!」

 

「うわー、よりによってあのテンションか……」

 

リクは思わず眉をひそめた。ミルはといえば、既に興味津々で身を乗り出している。

 

「ボクあの人大好き!!!だって毎回全力でうるさいんだもん!」

 

「“うるさい”って褒め言葉だったのか……」

 

カイルはステージ上でひとしきりポーズを決めたあと、両手を広げて叫んだ。

 

「さぁ!年に一度の夢の舞台、チャームコロシアムがいよいよ開幕です〜☆」

 

観客席からは大歓声。そして花火のように、空中でチャームがぱちぱちと光を放ち、幻想的な演出を添える。

 

「さっそくだけど〜、今年の出場者はなんと──過去最多の128名!さらに今回は!優勝賞金1000万Gに加えて、“とあるスペシャル特典”もご用意してます!」

 

「スペシャル特典……?」

 

リクが小さくつぶやくと、ミルがすぐに乗ってくる。

 

「なにそれ!空を飛べるけど、高さ30cmまでって制限つきの靴とか?あ、それとも──“全試合ミルが実況担当券”とか!?」

 

「絶対いらないだろ、それ!」

 

そうしてボケては突っ込まれ、笑ってはまた突っ込み返され、気がつけばリクの顔から緊張は少しずつ消えていっていた。

 

「なお、本戦トーナメントは明日より開始です!選手の皆さんは、今日中に受付と魔力量の測定を済ませてくださいね〜!」

 

「魔力量……って、そんなのも測るんだな」

 

「まぁ、“チャームの出力”は重要な指標だからね〜。でもリクならきっと、ボクのかわいさを測る魔導メーターが壊れるくらいの値出すと思うよ!」

 

「それ全然関係ないよな!てかそのメーター、どこにあるんだよ……」

 

「ボクの脳内!」

 

「信ぴょう性ゼロ!!」

 

ふたりの漫才のようなやりとりの背後で、続々と選手たちがステージに向かっていく。

 

リクもゆっくりと歩き出した。視線の先に広がるのは、128名の強者たちとの出会い、そして自分自身との戦い。

 

「行こう、ミル。俺も──あのステージに立つよ」

 

「うんっ!旗作って、ブンブン振って応援するね!」

 

「いや、作ってる間に試合終わってそう……」

 

そうしてリクは、ミルとともにステージへと歩みを進めた。

 

チャームコロシアムの物語は、ここから本格的に動き出す──。



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