第一話「貫け、俺のインパクト・ドライブ!」(4)
(CM明けのアイキャッチ)
「インパクト・ドライブ」(女将さんの声)
晴れ渡った春先の夜空には、満天の星空と、月が出ている。
整備されたコロニー内や街道とは違い、精霊灯もない山道は夜間に走るには少々心もとない明るさではあったが、目指す場所に近付くに連れて、問題は払拭された。
タケルの悪い予感は的中していた。
その山中にある筈のナックルロックが無く、それと引き換えに、脆弱な星々や月の明かりを掻き消す様に、山の中腹あたりで、「奴」の目が煌々と輝いている。
距離の違いがあるとは言え、目視する限り、月より優に数倍は大きく、夕陽をさらに紅くしたような色で爛々と輝くそれは、周辺を睥睨する様にぐるりと横に移動し、追う様に低く大質量が地面に落下する音が響き渡り、山裾の辺りで爆発の様な土ぼこりが上がるのが見えた。
予想していたよりも覚醒が早い。
アトランディア大陸の時代、猛威を奮った荒御魂の一部は、当時の技術とは言え、滅する事は出来ず、活動を停止させて「ビット」と呼ばれる核の様な器具を打ち込んで封印するに留まるのがやっとであったと父の研究書にある。
しかしビットには充伝が必要で、それに相する伝導光具でしか充伝はできない。
奴の中のビットが、遥かな年月を経て、その拘束力を弱め、この時代に危険な荒御魂を解き放ったのだ。
見上げる様な巨大で硬く握られた岩の拳に、紅く燃えるような目玉がひとつ付近に浮いていて、周囲を探す様にぐりぐりと動いている。
しめた。
荒御魂の習性のひとつに、周辺の人工物や人間に強い執着と、破壊衝動を持つというのがある。
奴が何かを探しているのだとすれば、近くに人工物など無い山間となれば、あの女将さんの旦那さんしかその目標はあり得ない。
「まだどうにか生き延びてくれてるみたいだな」とタケルは安堵に似た独り言をため息に乗せて口に出した。
タケルは荒御魂の周囲を走りながら、腰のホルスタから、いわゆる銃の様な形状の器具を抜く。
それこそが研究書と共に父が残した、アトランディアの伝説中の伝説、伝導光具『インパクト・ドライバー』である。
「こっちだぜ、ウスノロ!」
タケルは木々の枝を跳躍して、荒御魂の威容に飛び掛かり、インパクト・ドライバーの尖った先端をその岩肌に押しつける。同時に人差し指でトリガを引くと、ギュルっという音と共に先端が回転し、荒御魂の強固な岩肌の一部を割り砕いた。
何度かのヒットアンドアウェイを繰り返すと、荒御魂の目標は、先ほどまで追っていた人間からタケルに切り替わった。
荒御魂もただ攻撃を受けるだけではない。
岩肌の表面から岩のツブテを召喚し、周囲を薙ぐ様に撃ち飛ばしてくる。
ツブテが着弾すると、木々は根ごとなぎ倒され、山肌の地形をも変えんと大地を削った。
タケルはツブテのことごとくを避け、時にその手に構えたインパクト・ドライバーで弾いて砕いていた。
双方とも、攻撃の手を緩める事は無かったが、タケルは戦闘にばかり集中はできない。
まずは何より宿屋の旦那さんを探し出し、安全圏に送ってやらねばならない。
周囲に注意しながら戦闘を続けるタケルの視界に、ほら穴から怯えた顔を出し、荒御魂を伺う男が飛びこんだ。
「あんた、ドリアドの宿屋の旦那さんだな!?」
声を振り絞ってタケルが呼び掛けると、男はコクコクと何度も首を縦に振る。
タケルが旦那の元に駆け寄った時、背後からナックルロックという仮初の姿から覚醒した荒御魂『ナックルロックディザスター』が迫っていた。
皆様お気づきかと思いますが
伝導光具インパクト・ドライバーは、いわゆる現代のホームセンター等でも売っている、電動工具インパクトドライバー、つまるところ電動ドライバーです。
作中で、あまりメタい説明をするのもどうかと思い、後書きでの注釈としました。
以降も、こうしたスタイルで行こうと思いますので、よろしくお願いします。