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第一話「貫け、俺のインパクト・ドライブ!」(3)

一晩を歩き通して越えた山を抜けると、のどかな村があった。

のどかとは言ったが、マウンテンコーストという都市を中心とした外縁部にあたる村であり、都市の庇護の元、整然とした佇まいである。

とは言え、主な産業は周辺に散在する山々から採れる、希少な植物の確保であり、いわゆる農村である。


ドリアド、それが村の名である。

植物を司る大精霊にあやかったのだと、村の入り口にある石碑に記してあった。


タケルが目指すのは、父の研究書にあった遺跡のひとつ、ナックルロック。

まるで大地から突き出た巨大な拳の様な、山深い森にありながら異様な存在感を醸している巨岩である。


巨岩、と称したが、それは岩と言うには異質な程に雄々しく、今より古くは信仰の対象にさえなった、山と見紛う程の一枚岩である。


ドリアドはナックルロックに最も近い集落であり、その観光にせよ、巡礼にせよ、ここを拠点にするのが最善である。


夜を徹した強行軍から解放されたタケルは、ふぅと一息をつき宿に入る事にした。


宿では一悶着あった。

「宿を頼みたい。一泊ニ食でいくらだい?」

タケルは受付のカウンタで言った。

「おやいらっしゃい、ナックルロック観光かい?」

恰幅の良い女将が微笑みながら言う。

「観光、でもない、監視、と言った方が正しいかな」

「まだ若いのに難しい事を言うねぇ、お父さんかお母さんはどこに居るんだい?」

「親は、居ない」

親は、と言った後、少し鼻の奥がツンとした。

「あんた一人? そんな歳で? 一体どうしたんだい、おばさんで良けりゃ、話くらい聞くよ、家出の理由、あるんだろ?」

そんなやり取りだった。

タケルは当年取って17になる。

しかし童顔で身長も伸び悩んでいる事もあり、だいぶ幼く見られるのだ。

苦虫を噛み潰しながら、タケルはもう何度目になるかの説明をした。

父の事、アトランディアの事、父の研究を受け継いで旅をしている事。

終いにはタケルの話に聞き入った女将が少し涙ぐみながら「そうかい、偉いねぇ、お父さんもきっと嬉しがってくれてるよ」などと言い、何とか宿に入る事ができた。


タケルが宿の部屋のベッドに倒れ込む様に横になったのは、まだ正午にもなる前だった。

気絶する様に寝入り、起きた頃には陽もとっぷりと暮れていて、階下に併設された食堂から、忘れていた空腹を呼び覚ます芳しい香りが漂って来ていた。


タケルが貸し部屋から続く階段を降りていくと、女将がたった1人で忙しそうに走り回りながら

「おや、お目覚めかい、夕食と明日の朝に渡すサンドイッチは宿代に入ってるから、うんと食べて行って」

と呼び掛けてきた。


食堂と称したが、食事処というより飲み屋である様で、そこかしこに陽気に騒ぐ赤ら顔が居た。


物珍しいと言う訳ではないが、女将が孤軍奮闘する様が少々気になって、キョロキョロと周囲を見渡したが、他に従業員は居ない様子だった。

「お待ちどうさん、おかわりも出来るから、たっぷり食べなよ、じゃないと大きくなれないよー」

などと言って女将がブラウンシチューと噛むとプチリとした食感のある穀物入りのパンを持ってきて、イタズラめいた茶化した言い方でタケルを招いた。


「ふぅ、ようやく落ち着いてきたよ」

そう言ってタケルの向かいに腰を掛けると

「あのヒョウロクダマ、なーにしてんだかねー」

などとタケルに、というでも、独り言、というでもない感じに女将が言った。

「この宿、っていうか、食堂か? ここは女将ひとりでやってるのか?」

ブラウンシチューにパンを浸しながらタケルが聞いた。

「ああ、ゴメンゴメン、お客さんに愚痴る事じゃなかったね」

ニヒヒと笑って女将が続ける。

「いや、普段は厨房に旦那が居るんだけどね、ああ、旦那に限らず、この村の男衆は昼間は近くの山で山菜採りに行ってんの。で、帰って来てから旦那はココの厨房でも働いてくれてんだけど、たまに大雨に降られたりして、帰るに帰れなくなったりすると、今日みたいに私がてんやわんやになるのさね」


おかしい。

昨晩、タケルが強行軍をしていた時も、先ほど目覚めて窓の外を見た時も、同じく満天の星空が見えていた。

タケルが寝ている間にザッと降ってサッと止む大雨が降ったとしても、この時間まで近くの山から帰れないとは考えにくい。

「女将さん、旦那さんが向かった山って、もしかしてナックルロックの近くかい?」

「うーん、近くと言えば近くだけど、どうしたんだい」

悪い予感、というのは得てして当たってしまうものだ。


「女将さん、少し出てくる。朝までには戻る」

己の脳裏に過った悪い予感と、ナックルロックに赴く理由がカチリと音を立てて合致する。

「こんな時間にどこに行くんだい、この村にはココ以外にゃ夜遊びできる場所なんてないってのに」

背中に怖気が立つのを無視して、声を大きくする。

「旦那さん、俺の悪い予感が当たってたら、危ないかも知れない」

一息に口早にそれだけ伝えると、タケルは階段を駆け上がり、自室に置いたバックパックを引っ掴んで夜の闇に溶けた室外へと走り出た。


旦那が危ないと聞き、半信半疑ながら口元を両手で覆ったまま、腰掛けていた椅子から立ち上がったり、また座り直したりを女将は繰り返す。

その卓上には、食べかけのブラウンシチューが、呑気に暖かな湯気を立てていた。



(CM入りのアイキャッチ)

「インパクト・ドライブ」(タケルの声)

そんな訳で久しぶりに連載を始めてみました、熊子と申します。

今作は、要するに、昔、夕方6時台にやってたアニメですw

ここまでで約4千文字くらいでAパートが終わったので、1話あたり1万文字くらいになるかと思います。

後半Bパートはアクションあり、変身あり、メカありの正しい夕方アニメにしますので、ぜひ、お気に召した方は、ブックマーク等していただけると、自分が喜びますので、よろしくお願いしますw

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