第一話「貫け、俺のインパクト・ドライブ!」(2)
夜を徹して山道を歩き、山頂に到着した頃、タケルの背後から日が昇り、まだ少年と言って差し支えない身の前に、長い影が落ちた。
「夜が明けたか」
そう呟き、後に続く言葉を、口には出さずに『日のある内に辿り着かなきゃな』とタケルは思った。
タケルが前日、熱心に読んでいた本は、冒険家としても、そしてアトランディア研究の第一人者でもある、今は亡き尊敬する父が残した物だった。
それはアトランディア大陸の未だ未発見未盗掘の遺跡の数々を示した物で、父自身が長年の研究と擦り合わせ、アトランディア時代の様式や、地脈と呼ばれる地形に沿って再編した物だった。
タケルの父は温和で子煩悩な男であったし、アトランディア研究者としても他の追随を許さない程に優秀でもあった。
父、と称しているが、タケルとは血の繋がりはない。
ついぞ父はその経緯は明かさなかったが、タケルは拾われ児で、事ある度に「お前は俺の希望の光なんだよ」と父は幼いタケルに言っていた。
そんな父が、ある日、家に帰って来なかった。
父の共同研究者を名乗る者たちが、足繁く家に通っても、タケルは家を明け渡したりはしなかった。
「ここは、俺と父ちゃんの家だ。ここにある物は、父ちゃんの魂だ。絶対に、俺と父ちゃん以外には見せないし触らせない」
ある日、タケルは告げられた。
敬い愛した父の事実上の死を。
そして、膨大な涙の後に、タケルは旅立ちを決めた。
父の残した本をバックパックに詰め込んで。