第42話(累計 第86話) ダムガール、領地に再び帰る。
襲撃された翌日。
殺害した山賊らを埋葬したわたし達。
生き残りから情報を聞き出し、早朝から彼らの砦を強襲した。
……山賊の指揮をしていた騎士。わたしの砲撃で死んだみたいけど、『これが誇り高い騎士の戦いなのか』と最後に吠えたらしいの。でも、命がけの戦いに綺麗も汚いも無いし、誇りなんかは死んだらそれまでだわ。第一、自分たちは賊にまで身も心も堕として、民を苦しめてたのに。
「案外と簡単でしたわね、要塞制圧戦は」
「そりゃ、アミちゃんが遠距離砲撃で砦の監視塔を落としたら、誰だって投降しますって」
古くは魔族との戦いで使われていた砦。
無人化していたのを山賊らがアジトにしていたのだが、地震で各部が破損していた上に、わたしの砲撃でトドメとなった。
……主戦力に指揮官を失えば、士気が低い雑兵だけじゃ勝てないよね。
「姫さまぁぁ」
「はいはい。皆さん、もう大丈夫ですわ」
敗残兵らを捕縛し、人質&慰安婦になっていた女性らを保護。
子どもたちは将来、魔族国家との連絡が復活した際に奴隷として送り付ける予定だったと、賊らへの事情聴取で分かった。
……純潔を奪われた子らは可哀そうだったけど、生きている間に救助できてよかったわ。
「さて、アミ姫さま。今後どうしますか? 救助者のみならず、敗残兵らも捨ておくわけにはいかないですよね。アタイは、個人的に非道な山賊は皆殺しでも構いませんが」
「慈悲深いアミちゃん姫さまなら、どうなさるか。ドゥーナさまならお判りでしょ? イジワル言っちゃダメね」
勝った後、問題になるには捕虜の扱い。
こと、今回は敵兵だけで無く救助者もいる。
わたし達も少々は食料に水も余裕はあるが、多くの人員を養うほどの余裕はない上に、野営装備も足りない。
心身が傷ついた女の子たちを野外で寝かせるなんて、あり得ない。
……司法取引の約束もあるし、山賊を殺すのは悪手よね。生かしておいて、情報を吐かせなきゃ。何より、元はウチの兵だから無抵抗なのを殺すのはイヤよ。
わたしは数秒考え、ため息を吐いて決断をする。
「はぁ、しょうがないですわね。では、一旦撤退。領都のカントリー・ハウスに帰りましょう。ここまでの街道は修復済み。最大移動速度でなら明日中には帰れますわ。トラックには捕縛した兵。他の輸送車には救助者を乗せましょう。わたくしは、このままタロス号で走ります」
「御意!」
これ以上悪用できないよう、砦を爆破破壊。
わたし達は、急ぎ元来た道を戻っていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「アミータ、連絡を受けた時は驚いたぞ。早速、山賊と遭遇し殲滅するとは」
「これだけの戦力を持っているんですから、当たり前ですの、お父さま。それに、これ以上民を泣かせるのは領主一族の名折れですものわ、おほほ」
再び、お父さまの元に帰り、休憩をするわたし達。
今回は、元山賊らから魔族国家との関係など重要情報も入手できたのは予想外の収穫だった。
「今晩にでもティオさまと定期連絡をしますが、王国内にかなりの数の魔族側スパイがいる事が判明しました。ですが、スパイとの連絡体制が切れるにもかかわらず、地震を起こした事。魔族側に大きな問題が起きていると思われますね。これは国防の危機ですわ」
「ふむ。そのあたり、私には判断しきれぬ。陛下やイグナティオさまとよく相談をすることだ。しかし、粗忽な暴走娘のアミータが王国の国防の要となるとは……。家の誉れではあるのだが、貴族令嬢としてはどうなのだろうか? エルメリアが生きていたら、喜んだのやら、呆れたのやら」
わたしが現状情報を報告すると、関心したのか、呆れたのか。
お父さまは、ムムムと複雑な表情をする。
そんなに難しい事を言った覚えはないのだが、毎度ながらわたしの行動は貴族令嬢の範疇からはみ出している様だ。
……お母さまの印象、わたしにはあまり残っていないのは残念。でもお義母さまがお話されていた通りの方なら、喜んでいたに違いないの。
「マリーアお義母さまなら、間違いなく呆れてお小言おしゃっていたでしょうね。でも、お義母さまには生きててほしかったですわ」
「アミちゃん姫さまはスゴイんです! 人質になっていた女の子たちを救い慰め、悪に落ちた兵らを説経して改心させる。己の身が血や泥に汚れてもいとわない、素晴らしい姫さま。アタシが一生涯仕えるに値する高貴な方ですわ」
「ふははは! アミータは令嬢というより英雄みたいだな。ヨハナ、これからもアミータを頼むぞ。コイツ、放置しておくと世界を自分の思うがままに変えてしまいそうだ。それがまた、皆の幸せを願う善意だから質が悪い」
ヨハナちゃんがほめ殺しに掛かるのは毎度だが、お父さまも褒めているのか、呆れているのか判別に困る話をするのには、わたしも困ってしまう。
「もー、皆さまのばかぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「こんばんわ、ティオさま。アミータです。聞こえますか?」
「ええ、ちゃんと聞こえますよ。アミお姉さん」
夜の自室、通信魔道具を使っての定期通信。
今晩も凛々しいティオさまの声が聞こえる。
「ティオさま。わたくし、また沢山の血を流してしまいました」
わたしは、ティオさまに弱音を吐いてしまった。




